内部構造に迫る
モバイル向けRyzen 5000シリーズの概要やブランディングが分かったところで、アーキテクチャー的な所にも踏み込んでいこう。
モバイル向けRyzen 5000シリーズの設計も旧4000シリーズと同様にCPUコアから各種コントローラ、さらにGPUまで全て1ダイに実装している。パッケージのピンアウトも旧4000シリーズとある程度共通化することで、ノートPCメーカーの設計負担を減らしている。
CPUコア以外の基本設計はRyzen GシリーズAPUや旧世代モバイル向けRyzenとほぼ共通している。最大8コアのCPU部や7nmプロセスのVega(GPU)、さらに様々なコントローラー類はInfinity Fabricで連結される。
CPUコア周りの省電力機能も改善され、電圧制御がコア単位で細かく設定できるように改善された。旧4000シリーズでは全てのCPUコアとGPUのコア電圧は状況に関係なく全て同じ電圧で動作していたが、モバイル向けRyzen 5000シリーズではその縛りが解消され、コアの動作状況に応じてコア単位で調整される。
さらにACPI 6.0で実装されたCPPC2(Collaborative Processor Performance Controls 2)がモバイル向けRyzen 5000シリーズでサポートされるようになり、CPUの動作クロック切り替えがより素早くなり、さらに“優秀なコア”に対し優先的に仕事を振り分けるような処理も可能になった。
これはデスクトップ向けのRyzen 3000シリーズ(Zen 2)とWindows 10のMay 2019 Update以降で対応してきた機能だったが、モバイルにも5000シリーズでようやく利用可能となったわけだ。
これら改善点に加え、DC-DCレギュレーターの変換効率改善、オーディオコーデックの省電力化などにより、Ryzen 5000シリーズ搭載ノートのバッテリー持続時間はスタンバイ時で最大20時間、動画再生でも1時間強の延長が期待できるという。
最後に内蔵GPUだが、残念ながらVegaアーキテクチャーのままであり、CU数も最大8基のまま。ただ動作クロックが旧4000シリーズの最大1750MHzから最大2.1GHzに引き上げられていいるのでクロック上昇分は性能は引き上げられている。ただ前述の通りCPUコアとは独立してコア電圧を制御できるようになった結果、よりバッテリーに優しくなりつつもパワー効率が向上しているといえるだろう。
まとめ:2021年はRyzen搭載ハイパワーゲーミングノートPCが来る?
簡単ではあるが、以上がAMDがプレス向けブリーフィングで語ったことの概要となる。期待していたデスクトップ向けRyzenの下位モデルやThreadripperの新モデルなどの情報は一切開示されなかったのは残念だが、今年のAMDはモバイル向けプロセッサーにもかなり力を入れていることが窺える。
Ryzen 5000HXシリーズの投入により、今まで存在しなかった「Ryzen搭載ハイパワーゲーミングノートPC」が今年続々と出るであろうと予想している。ただAMDはモバイル向けRadeon RX 6000シリーズを臭わせたものの発表はしていないので、当面はNVIDIAのモバイル向けRTX 30シリーズ+Ryzenの組み合わせが鉄板となりそうだ。
しかし、AMDの言葉はにわかに信じがたい部分がある。ただでさえ家庭用ゲーム機用SoCにデスクトップ向け RyzenやRadeon、サーバ向けのEPYCを7nmで供給するのに加え、この上に7nmのモバイル向けRyzen 5000シリーズが加わる。製品の供給は大丈夫なのだろうか?
現状、製品出荷数に問題をかかえていた7nmプロセスを、さらに逼迫するような状況になれば、メーカーから製品のアナウンスはあっても、肝心の製品は出てこないというシナリオも考えられる。AMDも我々ユーザーもTSMCの生産能力向上を祈るしかないのだろうか?