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CES 2021にてAMDが発表したモバイル向けRyzen 5000シリーズの細部に迫る

2021年01月26日 23時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●ジサトラハッチ

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内部構造に迫る

 モバイル向けRyzen 5000シリーズの概要やブランディングが分かったところで、アーキテクチャー的な所にも踏み込んでいこう。

 モバイル向けRyzen 5000シリーズの設計も旧4000シリーズと同様にCPUコアから各種コントローラ、さらにGPUまで全て1ダイに実装している。パッケージのピンアウトも旧4000シリーズとある程度共通化することで、ノートPCメーカーの設計負担を減らしている。

 CPUコア以外の基本設計はRyzen GシリーズAPUや旧世代モバイル向けRyzenとほぼ共通している。最大8コアのCPU部や7nmプロセスのVega(GPU)、さらに様々なコントローラー類はInfinity Fabricで連結される。

Zen 3世代のモバイル向けRyzen 5000シリーズのダイ写真。7nmプロセスでダイ面積は180平方ミリ。Zen 2を発表した次の月にZen 3ベースのモバイル向けRyzen 5000シリーズはテープアウト(設計の最終段階)を迎えたという点が興味深い

モバイル向けZen 3もデスクトップ向けZen 3と同じく、最大8基の物理コアが16MBのL3キャッシュを共有する。ただしモノリシックダイとして作り込むことで、IOアクセス時のレイテンシーを減らすことを志向している

モバイル向けRyzen 5000シリーズの内部構造。旧4000シリーズとの違いは左上に見えるCPUコア+L3キャッシュ部のブロックがZen 2からZen 3ベースに変わっただけ、とも言える

メモリーコントローラはDDR4ならDDR4-3200まで、LPDDR4ならLPDDR4X-4266まで対応する。これは旧4000シリーズと変わらないが、メモリーの物理層(PHY)に手が入っている。省電力状態(Deep Power State)から素早くフルパワー動作へ、またはその逆へ遷移するようになる、というものだ

 CPUコア周りの省電力機能も改善され、電圧制御がコア単位で細かく設定できるように改善された。旧4000シリーズでは全てのCPUコアとGPUのコア電圧は状況に関係なく全て同じ電圧で動作していたが、モバイル向けRyzen 5000シリーズではその縛りが解消され、コアの動作状況に応じてコア単位で調整される。

 さらにACPI 6.0で実装されたCPPC2(Collaborative Processor Performance Controls 2)がモバイル向けRyzen 5000シリーズでサポートされるようになり、CPUの動作クロック切り替えがより素早くなり、さらに“優秀なコア”に対し優先的に仕事を振り分けるような処理も可能になった。

 これはデスクトップ向けのRyzen 3000シリーズ(Zen 2)とWindows 10のMay 2019 Update以降で対応してきた機能だったが、モバイルにも5000シリーズでようやく利用可能となったわけだ。

今まではGPUも含めた全コアが同じ電圧(この図の場合1.1V)で動作していたが、モバイル向けRyzen 5000シリーズではコアの動作状況からコア単位で最適な電圧を供給できるようになった

モバイル向けRyzen 5000シリーズではデスクトップ版Ryzen 3000シリーズで初めて対応したCPPC2にも対応するようになり、より効率良くコアを稼働させることが可能になった、という話

 これら改善点に加え、DC-DCレギュレーターの変換効率改善、オーディオコーデックの省電力化などにより、Ryzen 5000シリーズ搭載ノートのバッテリー持続時間はスタンバイ時で最大20時間、動画再生でも1時間強の延長が期待できるという。

旧世代のRyzen 7 4800U搭載ノートPCに比べ、Ryzen 7 5800U搭載ノートPCはあらゆる状況において旧世代よりもバッテリーへの負荷が少なくなり、結果として動作時間が伸びるとAMDは謳っている

 最後に内蔵GPUだが、残念ながらVegaアーキテクチャーのままであり、CU数も最大8基のまま。ただ動作クロックが旧4000シリーズの最大1750MHzから最大2.1GHzに引き上げられていいるのでクロック上昇分は性能は引き上げられている。ただ前述の通りCPUコアとは独立してコア電圧を制御できるようになった結果、よりバッテリーに優しくなりつつもパワー効率が向上しているといえるだろう。

モバイル向けRyzen 5000シリーズの内蔵GPUは設計こそVegaのままだが、動作クロックが引き上げられパワー効率も向上した。ただ旧4000シリーズの描画性能と比べると、10%弱の伸びに止まるため、本格ゲーミングとしてはまだ力不足だ

まとめ:2021年はRyzen搭載ハイパワーゲーミングノートPCが来る?

 簡単ではあるが、以上がAMDがプレス向けブリーフィングで語ったことの概要となる。期待していたデスクトップ向けRyzenの下位モデルやThreadripperの新モデルなどの情報は一切開示されなかったのは残念だが、今年のAMDはモバイル向けプロセッサーにもかなり力を入れていることが窺える。

 Ryzen 5000HXシリーズの投入により、今まで存在しなかった「Ryzen搭載ハイパワーゲーミングノートPC」が今年続々と出るであろうと予想している。ただAMDはモバイル向けRadeon RX 6000シリーズを臭わせたものの発表はしていないので、当面はNVIDIAのモバイル向けRTX 30シリーズ+Ryzenの組み合わせが鉄板となりそうだ。

2021年はRyzenを搭載したハイパワーゲーミングノートPCが多数出荷されるであろうとAMDは予測している

 しかし、AMDの言葉はにわかに信じがたい部分がある。ただでさえ家庭用ゲーム機用SoCにデスクトップ向け RyzenやRadeon、サーバ向けのEPYCを7nmで供給するのに加え、この上に7nmのモバイル向けRyzen 5000シリーズが加わる。製品の供給は大丈夫なのだろうか?

 現状、製品出荷数に問題をかかえていた7nmプロセスを、さらに逼迫するような状況になれば、メーカーから製品のアナウンスはあっても、肝心の製品は出てこないというシナリオも考えられる。AMDも我々ユーザーもTSMCの生産能力向上を祈るしかないのだろうか?

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