業界人の《ことば》から 第419回
Cerevoから再びパナソニックグループとして起業した岩佐氏
紙のメモを再発明する「Croqy」、クラウドが紙の欠点を補う
2021年01月16日 09時00分更新
今回のひとこと
「21世紀の20%がすでに終わってしまった。だが、自動車のワイパーは117年間も同じものが使われている。紙のメモは紀元前から使われ、メモが冷蔵庫の扉を埋め尽くしている。21世紀ならば、もう少しどうにかならないかと思う人も多いだろう」
Shiftallは、ネット接続型電子メモデバイス「Croqy(クロッキー)」を発表した。
抵抗膜式タッチパネルによる電子ペーパーを採用。付属のペンを使って、手書きでメモすれば、ネットを通じて、別のCroqyやスマホに転送できる。スマホで受信する際には、専用アプリを利用。スマホから手書き文字をCroqyに送信することもできる。
本体サイズは、幅130mm×高さ80mm×奥行13.5mmであり、斜め置き用スタンドに設置して利用できるほか、重量は約160gと軽量であるため、家のなかでの持ち運びにも便利だ。
特徴的なのは、電子ペーパーを使用しているため、スタンバイ時でも電力を使わずに、常にメモの内容が表示されている点だ。また、省電力であるため、30分に1回更新する設定で、1日10分間の書き込みを行っても、約2カ月間、連続して利用することができる。10分ごとの更新でも、1カ月間は連続利用できるという。
Shiftallの岩佐琢磨CEOは、「毎日充電するようなものでは、食卓に置いても、そのうち文鎮と同じになる。Croqyであれば、1年に6回充電するだけで済む」とする。
あの時書いたメモは……というトラブルを避けられる
操作方法はシンプルだ。一度設定をしておけば、手書きでメモをして、右上の送信ボタンを押すだけで済む。「3歳の子供でも、メモを書いて送ることができる」と使て勝手に自信をみせる。
シニア層にとっても、簡単な操作性だけでなく、スマホを起動させる必要がなく、メッセージを見られるメリットがある。離れた祖父母と孫のやりとりにも使うことも可能だ。
また、Croqyのデータは、すべてクラウトに蓄積。いつでも過去のメモを呼び出すことができる。3日前に頼まれた買い物リストのメモを確認したり、3年前に孫が書いてくれたイラストを呼び出すことも可能だ。メーカー希望小売価格は1万9999円(税込)で、スマホアプリやクウラドの基本利用料金は無料。2020年度中(2021年1~3月)の発売を予定している。
パナソニック出身の岩佐氏、Cerevoから再びグループへ
Croqy を開発したShiftallは、パナソニックを退職して、ハードウェア開発などを行うCerevoを設立した岩佐琢磨氏が、2018年4月に、パナソニックのグループ企業として設立した企業だ。
岩佐CEOは、「事業を鉱山や金脈に例えることがあるが、パナソニックの仕事は、鉱山を大きなショベルカーやダンプカーを使って、効率的に掘り出すことである。しかし、鉱山はいつか枯渇する。自動車メーカーであれば、自動車を買わない日が来たり、通信事業者であれば、スマホが使われなくなる日がやってくる。Shiftallの役割は、そうしたことを捉えて、新しい自動車、新しいスマホ、新しい家電を考えていくこと。つまり、新たな鉱山を探すことである。鉱山を探しにいくときに使う道具は、大型のショベルカーやダンプカーではない。小さなチームで、機動的に新たな商品を生み出していくことになる」とする。そして、「既存製品の延長ではないものを作る。また、既存製品とのカニバリゼーションが起きたとしても、市場と対話をしながら、投入していくことが大切である」とする。
一方で、こんな言い方もする。
「21世紀の20%がすでに終わってしまった。だが、自動車のワイパーは117年間も同じものが使われている。折り畳み傘は約800年、ビニール傘も約80年も利用されている。もう少しどうにかならないかと思っている人も多いだろう。今回、Shiftallが目を付けたのが紙のメモである。紙のメモは紀元前から使われていた。いまでも、冷蔵庫の壁には、多くのメモ用紙が張り付けられている。これも、21世紀ならば、もう少しどうにかならないかと思うもののひとつである」
紙のメモを再発明する
Shiftallが着目したのは、紙のメモにおける課題解決である。
今回のCroqyは、「紙のメモのいいところを活かしたいというのが発想の原点」だという。その上で、紙のメモの欠点を、新たな技術で補うことを目指したという。
「手書きのメモにはいいところがたくさんある。たとえば、手書きでもらったメモを見て、ほっこりとすることがある」としながら、「だが、欠点もある。メモを無くしてしまうことや、書き置きしたかったのに外出してしまい、書き忘れてしまうこと、メモに書いた内容を忘れてしまうこと、メモを書いてくれた人に返事をしたいがそれができないこと」と、紙のメモの欠点をあげる。
「紙のメモの欠点は、LINEなどのメッセンジャーアプリを使うことで解決できる部分も多い。だが、ここでは、スマホやメッセンジャーアプリの課題もある。アプリを開かないと見落としがちなこと、情報が流れて行ってしまい確認できない場合があること、そして、スマホを持っていない年齢の子供や、入力などを面倒に感じるシニア層もいる」とする。
「メッセンジャーアプリのいいところと、紙のメモのいいところ取りをした製品が、Croqyになる」とする。
Croqyで目指したのは、家族のコミュニケーションに、新たな価値をもたらすIoT機器だ。
「薬飲んでね」、「お弁当を忘れないようにね」、「肉まんがあるから食べて」といった手書き文字による、メモのやり取りが、家族のコミュニケーションを円滑にするというわけだ。
「手書きならではの味と、ちょっとしたイラストや図版を、手軽に添えられるのが、紙のメモの利点。この良さを生かし、新たなコミュニケーション需要を創出したい」とする。
Croqyは、「書くだけ、かんたん。ネットで送れる手書きメモ」をマーケティングメッセージとしている。
新たなメモの活用提案が、新たな鉱山になるのかが注目される。
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