30km/hでワインディングロードを走る!
今回TACTで行く目的地は阿蘇随一のパノラマが楽しめる大観峰。クルマやバイクでなければ行くことができない絶景ポイントだ。エアポートホテル熊本を出て、空港方面へ直進。最初の交差点を左折して、あとはひたすら道なりミルクロードと呼ばれるワインディングロードを法定速度30km/hで路肩寄りに走る。交通量は少なく初めてのバイク運転にピッタリの道だ。
とはいえ、知らない土地でナビなしはやはり不安。数少ない信号の度にスマホで現在位置を確認しながら進むことになった。一方、市内を抜けていくと都内では感じることのない空気を全身で感じる。道は基本的に登り基調。そこを30km/hで「のんびり登坂」していく。緑の中をのんびりと走るのは、都内では味わうことのない体験。心身のリフレッシュにはピッタリだ。
しばらくすると景色は一変、見渡す限りススキの草原が目前に広がる。太陽の日を浴び、風にそよぐ金色の景色は圧巻の一言だ。この道は、九州唯一の国際サーキット「オートポリス」へ続く道であり、筆者も何度となくレンタカーで通ったことがある。通る度に阿蘇の景色を堪能していたのだが、原付1種で走ると新鮮かつ今までにない感動がある。目の前に広がる世界はクルマのウインドウ越しとは異なるもの。そして風や匂いといった空気を肌で感じ、ただただ阿蘇の自然に圧倒されてしまう。
となると原付2種をはじめとするバイクでもいいのでは? と思われるだろう。だがそのようなバイクになるとワインディングロードという性格ゆえに走ることが目的となりがちだ。のんびりと走る原付1種だからこその世界が味わえる。そして周囲のクルマとの速度差から「本当に原付1種のバイクで着くのか?」という僅かな不安を伴う冒険心が沸きあがる。忘れていた好奇心に心が満たされるのだ。
原付1種の良さのひとつは、フットワークの軽さだ。道を間違えたとしても、すぐにリルートできるし、駐車場での取り回しも容易。なによりすぐに止めることができる。阿蘇地方では豊かな草資源を活用した「あか牛」の放牧が行なわれているのだが、クルマやバイクでは「あか牛」を見つけても通り過ぎてしまう。だが原付だとすぐに停車して近くで見ることができる。時折、その横をクルマやバイクが通り過ぎるのだが、正直もったいないと思うとともに自分も今までもったいないことをしていたことに気づいた。
こうして走ること約40分、初めての駐車施設である「かぶと岩展望台」に到着した。無料駐車場に展望台、そしてススキで作ったという迷路がある。駐車場にはピッグフルークカフェがあり、一休みにはピッタリ。そこでドイツ国際コンクール金メダル受賞という名物のフランクフルト(440円)をいただくことにした。注文してから焼き始めるのでアツアツでパリッとしたフランクフルトが楽しめる。味付けは塩・胡椒のみとシンプルで、やや強い塩気は疲れた体にピッタリ。ハーブが効いているため、味わいはとてもサッパリしている。そして噛むほどに肉汁が溢れ出し、ビールが欲しくなること間違いナシだ。もちろん飲酒運転になるので飲まないが。東京ではあまり味わうことのない素朴な味に、小腹を満たしたところで、さらにTACTを山頂方面へと進めていく。
しばらく進むと大きな十字路に行きつく。そこで右手に曲がり5kmほど走ると、目的地である大観峰に到着する。駐車場には数多くのクルマやバイクが停まっているが、原付1種は1台もなく、どこか優越感を覚える。阿蘇の街並みや阿蘇五岳、くじゅう連峰までが一望できる大パノラマは圧巻の一言。ここから望む阿蘇五岳は、お釈迦様の寝姿に見えることから「涅槃像」と呼ばれ、秋から冬にかけては神秘的な雲海に出会えることもあるという。
売店では阿蘇山ジャージー牛乳を使ったソフトクリームが売っている。ここでしか食べられないとあって、ちょっと肌寒かったがいただくことにした。ソフトクリームは柔らかい食感と濃厚な味わいが印象的。口の中に牛乳の風味がたっぷりと広がるのだが、後味はとてもサッパリしており、しつこさは皆無だ。これがジャージー牛乳ゆえなのかはわからないが、ほかの牧場で食べたアイスとは明らかに異なる味であった。何より大観峰の景色を見ながら味わえる。阿蘇でしか楽しめないアクティビティーを堪能した。
ちなみに大観峰からミルクロードに戻り、県道12号を走ること30分でオートポリスに到着する。空港からオートポリスまで無料で行ける、というわけだ。ただ「行くことができる」だけで、実際にレースを観戦した後で戻ろうとすると返却時刻に間に合わないのでオススメしない。
モータースポーツついでに申し上げると、大津市には本田技研工業熊本製作所がある。こちらは「エアポートホテル熊本」から原付1種で5分とかからない。現在コロナ禍の影響により行なわれていないが、工場見学も実施していてバイクが組み立てられる様子を見られるようだ。
そのほか大津町をはじめ近隣には様々な観光施設がある。多いのは体験型牧場だ。阿蘇に行って、それから遊んで5時に戻るというのは結構大変なので、そこはご注意いただきたい。
さて、ホテルからオートポリスまで片道40km、1時間20分の旅だったが、当然戻らなければならない。しかもタイムリミットは17時まで。ということで、15時すこし過ぎにオートポリスを後にした。下り基調なので速度が出やすいが、そこは自制しよう。尻と足の裏に体重をかけながらヒラリヒラリとコーナーを駆け抜けていく。大津町に入り、国道325号線との交差点の手前は夕方になると必ずといってよいほど渋滞する。だが二輪車専用レーンがあるため、渋滞とは皆無といってよいだろう。このフットワークの良さも、原付1種のよいところだ。
冒頭で紹介したガソリンスタンドで給油したところ、給油量はわずか1.9リットル。ワンコインで1日遊べるとは正直驚きだ。
阿蘇の空気と景色をダイレクトに感じられる原付1種での冒険。レンタカーでは絶対に味わうことのできない感動が、重ね重ねになるがタダで楽しめる。これは体験しない方が損というもの。1日多く宿泊してでも体験すべきだと断言したい。そしてバイクに乗ったことがない人こそ、この冒険にチャレンジしてほしい。きっとバイクの良さを感じ、復路の飛行機内でバイクのカタログを見ていることだろう。