「RPAガバナンス」の思想からスタートした第一生命保険のRPA導入とは?
クラウド上のデジタルワーカーを提供する「Blue Prism Cloud」開始
2020年10月08日 09時00分更新
2020年10月7日、RPAソリューションを手がけるBlue Prismは、デジタルワーカーを迅速に提供できるクラウドサービス「Blue Prism Cloud」の本格展開とパートナークラウドサービスを発表した。発表会では、Blue Prismをいち早く導入・展開してきた第一生命保険の導入事例も披露された。
人間からデジタルワーカーへのアウトソーシングへ
バークレー銀行での業務自動化プロジェクトからスタートしたBlue Prismは、UiPath、Automation Anywhereとともに3大RPAメーカーとして数えられる。現在は統合管理が可能なエンタープライズ向けのRPAソリューションを展開しており、業務の自動化を実現する「デジタルワーカー」によって企業のDXを推進している。
冒頭、登壇したBlue Prism 会長兼CEOのジェイソン・キングドン氏は、Blue Prismが実現する「デジタルワーカー」について、テクノロジーの民主化を進める「人」とシンギュラリティを迎えつつある「テクノロジー」が重なり合うの領域に位置していると説明する。「デジタルワーカーをなるべく人間に近いモノにしていこうとわれわれは努力をしている。人間がアクセスできるテクノロジーにはすべてアクセスでき、人とともに仕事することを目指している」と語る。
今後、デジタルワーカーがあらゆる組織に入れば、仕事がスマートになり、人間の生産性も向上すると見込んでいる。今はまだ人間が労働する比率は高いが、自動化が成熟していくとワークロードの割合は人間、システム、デジタルワーカーでそれぞれ1/3ずつとなり、投資対効果も最大化されるという。「10~15年前に起こったアウトソーシングと同じ流れが起こっている。今までは人間へのアウトソーシングだったが、これからはデジタルワーカーへのアウトソーシングになる」とキングドン氏は語る。
日本法人の設立は2017年11月で、他のRPAメーカーに比べてやや遅れたものの、顧客数も売上高も順調に推移している。特筆すべきはパートナー販売の比率で、昨年38%だったパートナー紹介案件は50%に成長し、昨日は17社目のリセラーとしてNTTコミュニケーションズとの協業が発表された。また、契約更新率も98%と高く、導入の6割が他社製品からの切り替えだという。
デジタル改善からデジタル変革(DX)に向けたRPA導入へ
昨今のユーザー動向としては、従来デスクトップ型RPAが担ってきた「デジタル改善」から、全社を挙げた「デジタル変革(DX)」への移行が顕著になっているという。そして新型コロナウイルスのパンデミックを経て、リモートでも安定稼働が可能で、セキュアで開発生産性が高いBlue Prismのニーズはますます高まっているとのこと。Blue Prism 社長の長谷太志氏は、「運用コストが下げられるのが、統合管理型のRPAのメリット。今回のパンデミックで統合型RPAへの移行がさらに加速している」と指摘する。
こうしたDXを実現するための「インテリジェントオートメーション」においては、AI、クラウド、アジャイル、レガシー対応の4つの技術要素が必要となる。これに対して、Blue Prismではパートナーとの協業やオンラインマーケットプレイス「Digital Exchange」によるAI機能の組み込みやオブジェクト指向をベースにしたアジャイル開発への対応、そして既存システムの移行を前提としたSAP自動化や高度なセキュリティ機能を提供してきた。これに加え、クラウド対応の強化として11月より本格展開されるのが「Blue Prism Cloud」になる。
Blue Prism Cloudでは、RPAソリューションに加え、マーケットプレイスのDigital Exchange、導入プロセスノウハウである「Robotic Operating Model(ROM)」が搭載され、迅速にデジタルワーカーを導入できる。また、マイクロソフトのCognitive ServiceをベースにしたAIも組み込まれており、自然言語処理や感情の読み取り、キーワードやフレーズの抽出などがすぐに利用できる。さらに、デジタルワーカーの稼働率を最大化できるほか、人とデジタルワーカーが協業していくためのコミュニケーションチャンネルも用意されているという。
価格はユーザーやデスクトップ数、自動化対象システムに依存せず、デジタルワーカー単位での課金となる。5~9デジタルワーカーの場合、1デジタルワーカーあたり年額311万円(参考価格)となっている。
あわせてパートナークラウドサービス「Digital Worker as-a-Service(DWaaS)」も提供する。Blue Prismのデジタルワーカーに、マルチクラウド、AIの組み込み、安定したネットワーク、多彩な課金体系などパートナーの付加価値をあわせてクラウドサービスとして提供する。アビームコンサルティング、BTC、日立システムズ、日本IBM、日商エレクトロニクス、NECネクサソリューションズ、NTTコミュニケーションズ、TSHの8社がパートナーのDWaaSとして紹介された。
「RPAガバナンス」の思想からスタートした第一生命保険
Blue Prismの事例を紹介したのが、2016年からRPA導入を進めている大手生保会社の第一生命保険 執行役員の拝田恭一氏だ。同社はデジタル化によるオペレーション改革を進めており、その一環として2016年からBlue Prismを導入。今では定型業務を中心に、現在までに700業務のRPA化し、20.5万時間の削減を実現している。
RPAを検討した当初、多くの企業で導入したのはデスクトップ型RPAだったが、第一生命保険のようなエンタープライズではロボットの管理が重要になると感じたという。「エンタープライズで効率よく安定してRPAを運用していくためには、マネジメントが重要になると思った」という拝田氏らは、サーバー型のBlue Prismの導入を検討。本社のあるイギリスに渡って、Blue Prismのメンバーと意見交換を行なったという。「通常のRPAメーカーは製品について語ることが多いが、Blue PrismはRPAをどのように運用すべきか、どのように活用すべきかという『RPAガバナンス』という思想を紹介してくれた」(拝田氏)と振り返る。このRPAガバナンスの考え方が今も同社のRPA運用の基盤となっているという。
これまで第一生命保険ではオペレーションの自動化においてRPAを活用してきたが、今後は顧客とのデジタル的な接点においてもRPAを活用する。具体的にはシンプルな問い合わせや手続きなどはチャットボットが自動応答し、よりコンサルティングが必要な場合にはコンタクトセンターのオペレーターが対応するといった分業を推進する。拝田氏は、「ロボットに誤処理はないが、いろいろな理由で稼働が停止することはある。しかし、お客さまに提供するとなると、安定性と安全性、スピードが重要になってくる」と指摘する。
最後、Blue Prism Cloudの導入価値と期待する点としては、人とAI・ロボットとが協働する「新しい自動化モデル」、エラー検出やリラン対応による「安定性の向上」、スケジュール固定ではなく随時ロボットをアサインすることで非稼働ロボットを減らす「効率的な運用」、そしてRPAの能力を拡張するサービス導入を迅速化する「エコシステム」などを挙げた。