ラーメン評論家としてよく受ける質問に「今のラーメンブームのきっかけは?」というのがある。100年以上の歴史を持つラーメンの世界だが、「ブーム」と言えるほどにラーメンが人気を集めるようになった大きなきっかけは1996年。この年に開店した「96年組」として、「麺屋武蔵」「中華そば 青葉」「ラーメン くじら軒」の3軒が「96年組」として知られている。
その3軒の中で、港区南青山で創業した「麺屋武蔵」は、水産会社に特注して作り出した「秋刀魚の煮干し」を中心に、素材をふんだんに使った和風醤油味。ラーメン店らしからぬお洒落な雰囲気でジャズをBGMにするという、当時にしては画期的な店で話題を集めた。
「麺屋武蔵」は様々な変化を続けている。1998年、新宿小滝橋通りから一本入った所に開店した新宿店に本店を移転。
蝦油を加えた「こってり」が加わった事で一気にブレイク。現在は都内に14店舗を持つが、店舗ごとに異なる味を提供している。変化しながら走り続ける点が「麺屋武蔵」の個性である。
今でも、味を変化させていく姿勢は欠かさない。週に一度のペースでレシピを見直しているが、「お客様が望む方向に変化する」という方向性は「麺屋武蔵」ならではのもの。創業時に使っていた秋刀魚の煮干しに変えて、鰹節や煮干しを使うようになったのもその一環である。
そんな「麺屋武蔵 新宿総本店」が、1ヶ月の改装休業を経て「創始麺屋武蔵」と店名を変更。「創始」をつけたリニューアルは気にならないはずがなく、早速訪問してきた。
今回のリニューアルで、「ら~麺」は「あっさり味」「こってり味」「にんにく味」の3種類に。以前は「蝦油」を入れていた「こってり味」は背脂入りに変更されている。蝦油入りを希望する方は「あっさり味」を注文し、食券を渡す際に「油多め」とコールしてほしいとの事。
リニューアル最大の特徴は、近年の麺屋武蔵で使われていなかった「秋刀魚煮干し」や「秋刀魚節」を使用するようになった事。とはいえ、かつての味に単純に戻したというわけではなく、これまで積み重ねてきた味と、新素材としての「秋刀魚」が加えられている。海老や昆布なども加わった味は「あっさり」と言いつつも濃密な味わいで、スープの奥に仕込まれた柚子の香りが後半になって香ってくる。
麺はカネジン食品の太麺。様々な素材が入ったスープを丁寧に引き上げてくれて、啜るほどに魅力を楽しめる。
具の中で存在感を発揮しているのは、柔らかく煮込まれた豚の角煮。甘さがほどよく、スープの中でのアクセントになっている。
現在の麺屋武蔵各店舗の看板メニューでもある「つけ麺」。「創始麺屋武蔵」では「つけ麺」「濃厚つけ麺」「担々つけ麺」の3種類を提供している。中でも一番人気の「濃厚つけ麺」は、濃厚な動物系スープに、ここでもたっぷりの魚介出汁が組み合わさり、もっちりした太麺をグイグイと啜れる。同料金で麺量を最大600gまで増やせる。
更なる革新へ踏み出した一歩を感じさせる新境地へのリニューアル。これまでの「麺屋武蔵 新宿総本店」で食べた事がある方も、そうでない方も、味わってみてほしい一杯です。私のオススメは「ら~麺(あっさり味)」ですが、もちろん他の味も見逃せません。
山本剛志 Takeshi Yamamoto (ラーメン評論家)
2000年放送の「TVチャンピオンラーメン王選手権(テレビ東京系列)」で優勝したラーメン王。全国47都道府県の10000軒、15000杯を食破した経験に基づく的確な評論は唯一無二。ラーメン評論家として確固たる地位を確立した現在も年に600杯前後のラーメンを食べ続けている。
百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/)
本人Twitter @rawota
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