ヤフーのCDOもゲスト出席、「COVID-19データハブ」に見る「データを効果的に活用する力」
「データ」が牽引するコロナ禍からのビジネス再始動、Tableau
2020年07月06日 07時00分更新
新型コロナウイルス(COVID-19)はいまも世界中の人々の生命と健康に大きな脅威を与え続けているが、その一方でコロナが我々の生活にもたらした数々の物理的制約は、テクノロジの重要性をあらためて社会に強く認識させることにつながった。日本においてもリモートワークやデジタルコラボレーションなど、これまで普及が遅れていた分野のデジタル化が劇的に進み、その流れは現在も継続している。コロナ後のニューノーマルな世界では、これまで以上にデジタル化が企業にとって重要なミッションとなることはもう疑いないだろう。
「デジタルトランスフォーメーションとは“データトランスフォーメーション”である」――。2020年6月17日、報道関係者向けに「データとともに、今できること ― Leading Through Change with Data Analytics」と題した説明会を行ったTableau Software カントリーマネージャ 佐藤豊氏は、ニューノーマルにおけるデジタル化とデータの重要性をこう表現している。
ここ数年来、メディアの話題に上る機会も多いデジタルトラスフォーメーション(DX)だが、世界的パンデミックという危機的状況下でビジネスを再始動し、持続的な成長を図るためには、これまでよりもずっとデータを効率的に活用する姿勢が欠かせなくなる。ニューノーマルの世界では既存の常識や価値観が一変してしまうため、不確実性の高い状況の中で事業をドライブしていくには、データにもとづいた正確ですみやかな現状の把握と、それにもとづいた迅速な決断が不可欠となるからだ。
「データを正しく“材料”として使えるようになると、人々の暮らしやビジネスに大きなインパクトを与えることができる。Tableauは企業や社会がこの危機的状況を乗り越えられるよう、データを効果的に活用する力を提供していきたい」と佐藤氏は語る。データが示す事実をグラフやチャートを使って効果的に伝え、的確な意思決定につながるインサイトを提供するテクノロジがデータビジュアライゼーションだが、Tableauは長年、このデータビジュアライゼーション市場で大きなシェアを誇ってきた。
本稿ではTableauがCOVID-19対策としてひろく一般に提供する「COVID-19データハブ」の紹介を中心に、コロナ禍におけるビジネス再始動を成功させるデータ活用アプローチを検証してみたい。
医療機関や行政が多様なデータをダッシュボードで公開、市民のデータリテラシー育む
佐藤氏は「(企業や社会などの)組織は今後、3つのフェーズを経て強くなる」として、それぞれのフェーズにおけるデータ活用のあり方を以下のように定義している。
・会社の安定化 … 市場の状況や従業員の状況など、現状をデータで正しく把握し、継続して監視/周知する基盤の構築
・事業の再始動 … 営業再開のタイミング、今後のビジネスに向けての変更点などをデータをもとに決定、さらにコロナ後のビジネスを支えるデータ基盤やコミュニケーション基盤の構築
・ビジネスの成長 … ニューノーマルに適合するデータドリブンな組織への移行、従業員のデータスキルの向上など、組織全体のデータリテラシの底上げ
佐藤氏は「置かれている立場や規模によって組織が取り組むべき内容は変わってくるが、ビジネスを安定させ、事業を再開し、さらにニューノーマルに向けて持続的な成長を遂げるには、どのフェーズにおいてもデータの活用が欠かせない」と強調する。そして「危機的状況へのすばやい対応と、新しい現実世界に向けて準備するためのリソース」(佐藤氏)としてTableauが提供する「COVID-19データハブ」を紹介している。
COVID-19データハブは、大学や行政機関など信頼できる情報ソースから収集した新型コロナウイルス感染症に関連するさまざなまデータやリソースをダッシュボード上に可視化し、誰もがアクセスできるかたちで無料公開している集約サイトである。
ここでは、米国ジョンズ・ホプキンス大学のデータをもとに世界の感染状況をひとめで把握できるよう可視化した「グローバルデータトラッカー」のほか、ヘルスケア、金融、物流といった各業界ごとの動向を追えるトラッカー、事業再開に向けてのさまざまな指標や調査をビジュアライズしたワークブックなどが提供されている。さらに、公開されているトラッカーを自社のデータと組み合わせて新たにビジュアライズ/分析を行うためのスターターキットや、コロナ禍におけるデータ分析のハウツーを提供するワークブックなどもダウンロードして利用することができる。
そして、このデータハブを特徴づけているものが「Vizギャラリー」と呼ばれる、Tableauコミュニティの企業や行政組織が作成した数々のユニークなダッシュボード(Viz)のコレクションである。2020年6月末時点ですでに2万を超えるVizが登録されており、さまざまな視点や角度からCOVID-19にまつわるデータを把握し、その影響を分析したり、自社のビジネスへのアダプションを検討することが可能となっている。ここでは佐藤氏が紹介したVizの中から2つを紹介する。
・病院リソースダッシュボード「Slalom coSAFE」:
米国のコンサルティング企業であるSlalom Consultingが作成した、病院のリソース管理をサポートするパッケージ化されたテンプレート。病院のIT担当者はこのテンプレートを活用することで、病院内のCOVID-19陽性患者数、感染を調査中の患者数、PPEなど医療リソースの利用状況といった情報を直感的に把握できる。病院全体の状況を概観する「System Status」と、特定のリソース/患者/看護師の状況を追跡する「Unit Status」に分かれており、Unit Statusではたとえば看護師がいますぐ必要な場所や勤務可能な看護師および配属されていない看護師の数などもリアルタイムに把握できる。
・カリフォルニア州保健福祉局(CHHS)によるオープンデータポータル:
カリフォルニア州は同州のCOVID-19関連データを数多く公開しており、各種データを視覚化したダッシュボードのほか、データベース(Snlowflake)へのSQLクエリ、感染状況の現状と予測をモデル化するアセスメントツール(CalCat)などを無償で提供している。同州保健福祉局は州/群単位のCOVID-19に関する統計を示す「COVID-19 in the state」および州の医療システムに関するデータを表示する「COVID-19 in hospitals」「COVID-19 bed surges」などをTableauで作成、住民に対してCOVID-19の感染状況を広く伝えている。
これらのVizはいずれも米国の医療分野におけるデータビジュアライゼーションのユースケースだが、両者に共通しているのは「医療ビジネスや医療行政はデータをもとに取り組む」「公共行政機関(パブリックセクター)は一般市民に対し、最新情報を提供する義務がある」というコンセプトが徹底されている点だ。
データビジュアライゼーションに限らず、米国では医療機関やパブリックセクターがデータドリブンな組織運営を実践していることが多いが、彼らの提供するデータやツールを使うことで、そのユーザもまたデータドリブンな思考とアプローチを身につけていくという効果がある。データハブは単に便利なダッシュボードの公開サイトではなく、データドリブンなエコシステムを構築/拡大するコアになりうるという点でも興味深い。
なおTableau自身も、COVID-19が同社のビジネスにいかに影響を与えているのか、関連データにもとづいてTableauで視覚化/分析したダッシュボード「Tableau on Tableau」を公開している。ウイルスの感染拡大で営業や財務にどのような影響があったか、従業員の安全をどれくらい確保できているか、在宅勤務と生産性の関連はどうひもづけられるか、顧客サポートの現状はどうなっているか、など日本企業にとっても参考になる情報が共有されている。