対面でなければ臨場感がない、わけではない
社会変化を日本IBMの具体的な事例から示してみせる。
山口社長によると、「日本IBMの多くの社員がリモートワークを行っているが、8割近くの社員がリモート勤務でも生産性が変わらない、もしくはいままで以上に生産性があがったと回答している」という。
そして、コミュニケーションの仕方がオンライン化した結果、会議中でチャットなどを利用した活発な意見交換が増えたことで生産性が向上したり、リーダーと社員と話をする機会が増えて距離が縮まったという効果を指摘する声もあるという。
さらに、2020年4月1日には、デジタル入社式を開催。800人強の新入社員と、多くの社員や新入社員の家族、友人が参加。チャット欄には、タイムリーなコメントが数多く書き込まれたという。
「臨場感という観点では、フェイス・トゥ・フェイスで行うのとは異なるものがあった。入社式の最中も、参加者から次々とメッセージが発信され、別の臨場感を感じながらデジタル入社式を開催できた。これも新しい時代の新しい取り組みだと感じた」と振り返る。
一方でこんなことにも触れた。
「システム開発では、これまでオンサイト、ニアショア、オンショアという形でチームを組んでいたが、そうした概念もなくなるのではないか。日本IBMは、すべての開発をリモートにシフトし、オープンソースのツールを使って、効率をいままで以上にあげながら、お客様ととともに、新たなものを生み出せる仕組みに挑戦したい。そして、ニューノーマルの時代を見据えたコミュニティ活動の刷新やパートナープログラムの強化も行う」などと語りながら、「これまでのビジネスの仕方は、現地、現物を大切にしてきた。また、『お客様のところに訪問せずに営業ができるか』という考え方がベースにあった。だが、これからは営業のやり方も変わっていくだろう」
すでに、商談においても、顧客の経営幹部がリモートで出席し、日本IBMから提案を行うといったことが行われているという。「社員からも『問題なく提案ができた』という報告があった」とする。
そして、「すべてを見直す時期に来ているのかもしれない。物事の優先順位が変わってくることや、製品やサービスなどがリモートを前提にしたビジネスモデルに変わることで、価値提供の方法が変わること、バーチャルの新たな環境のなかで成果を出すための新しいスキルが求められるようになるだろう」とし、「ハンコの押印の問題解決を含めて、業務フローをバーチャルに対応させ、社内のすべてのシステムにリモートからアクセス可能にする必要がある。また、自動化やAIを徹底的に活用して、効率、品質、セキュリティ、協業を加速することができる運用モデルへと見直す必要も出てくる。バーチャルを前提とした人材配置や人事制度の見直し、オファリングの見直しをしていかなくてはならない」と、新型コロナウイルスによって一変した社会に対応した仕組みづくりが急務であることを示す。

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