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オービックのグループウェアを作ったスーパープログラマーは今日もコードを書き続ける

TinyBetterの樋口CEO、クラウド時代のグループウェアを再定義する

2020年06月02日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

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 TinyBetter(タイニーベター)のCEO樋口昭太郎氏は、オービック在籍時代に社内用のグループウェアを一人で書き上げたスーパープログラマーだ。そして、自ら立ち上げたTinyBetterでは「Hignull」でクラウド時代のグループウェアを再定義する。TinyBetterを切り盛りする小宮誠氏といっしょに、尖り続けたオービック時代とHignullへ至る道を聞いた。

TinyBetter CEO 樋口昭太郎氏

2000人規模の社内グループウェアを一人で作った新人時代

大谷:まずはオービック時代にグループウェアを作り始めた経緯を教えてください。

樋口:新卒でオービックに入社し、まずは開発部に配属されました。研修を経て、現場に行ったのですが、仕様書通りに定義を書き写すとか、テストを手順書通りに繰り返すという仕事ばかりで面白くなかったんです。だから、配属されてから半年後くらい経って、自らグループウェアを作り始めました。

大谷:じゃあ、別に会社からグループウェアを作ってくれと言われたわけではないんですね。

樋口:はい。家に帰ってきて、夜な夜な勝手に作っていました(笑)。

大谷:なぜグループウェアを作ろうと思ったんですか?

樋口:当時、オービックのシステムはVisual Basicで作られていたのですが、今後はC#になるので勉強してみようと思ったのがきっかけです。でも、ただ勉強だけだと面白くないので、社内で使われていたサイボウズみたいなグループウェアをC#で作ることにしたんです。

その後、いっしょにプログラムを自動生成するプログラムを作ったりして、データベースアクセスのコードを自分で書かないで済むようにしたり、再利用できる部品を作ったりしました。

大谷:結局どんなものができたんですか?

樋口:カレンダーやタスク管理、掲示板など、まさにサイボウズっぽい機能もあるのですが、座席表がちょっと特徴的でした。オフィスを上から俯瞰しているように座席表が見えて、各人が外出中なのか、休暇中なのか、ステータスが一発でわかるというものです。席に座っている担当をポイントして、クリックするとそのままスケジュールが見られます。

大谷:それは今までのグループウェアと違うユニークなUIですね。

樋口:はい。入社2年目頃までには、上司に「ちょっといいものができたので見てください」と持って行ったら、面白がってくれて、開発部で使ってみようという話になりました。当時のオービックは拠点によって使われているグループウェアがばらばらで、開発部は確かなにも入ってなかったので。

大谷:新人のチャレンジに理解のある上司だったんですね。

樋口:元専務である上司は、会社の上の方で他部署といろいろ調整してくれていましたし、創業社長である今の野田会長もこういうチャレンジを拾ってくれる器があります。

小宮:もちろん、上が拾ってくれたというのもあるのですが、2000人規模の会社でこんな変わった人、会ったことありません。普通は「こんなプロダクトを作りたいので、人とお金をください」という発想になりますが、樋口さんの場合は完成物を持ってきてしまったわけですから(笑)。

大谷:なるほど。アジャイル開発全盛の今となってはプロトタイプを持ってくるのは決して珍しくないと思いますが、あれだけ大きな業務ソフト会社でそれをやるのはかなりユニークですね。いずれにせよ、個人が培ってきた能力やスキルが組織的につぶされず、活かされたんですね。

樋口:その後、Hignelは社内のグループウェアとして使われるようになり、当初は開発部の仕事と兼務していたのですが、そのうち専任でやらせてもらうようになりました。開発部での導入後、人事・総務部にも導入され、その後福岡支店にも導入、最後の東京はサイボウズをメインで使っていたので、けっこう大変でした。

大谷:当時も一人でやっていたのですか?

樋口:はい。部門でのヒアリングから始まって、要件定義を行なって、設計から実装まですべて一人です。振り返れば、昼も夜もHignelのコードを書いていました。

ユーザーのリクエストを受けてからなるべく速く反映するようにしました。当初は至らない部分も多かったし、いまから考えればUI(ユーザーインターフェイス)もけっこうひどかった(笑)。でも、3~4日でリクエストが反映されたら、それを出した人も評価してくれます。なるべく使う人の要望に添った形で、機能を満足いくまで作らせてもらったのでいい体験をさせてもらいました。小宮も入社してすぐにHignelを使ったはずです。

大谷:どうでしたか?

小宮:なんと言うか、必要な情報に到達できるスピードがとても早いんです。だから、外部から問い合わせが入っても、ロスやミスが起こりにくかったんです。

オービックはとにかくお客さまからの問い合わせが多い会社だったので、レスポンスの速さが顧客満足度に直結します。その点でHignelは業務の質に影響を与えるグループウェアでした。

社内研修を担当し、システムのC#化をはかり、R&Dまで

大谷:では入社してから数年経って、Hignelの社内展開を進めていたのですね。

樋口:えっと、Hignelを社内展開するのと同時に、入社3年目で新人研修も手がけていて、C#を教えていました。

大谷:また、いろいろやってますね。

樋口:もともと大手IT企業にお願いして研修してもらっていました。最初はサブ講師として研修のお手伝いをしていたのですが、「これくらいならオレにもできるんじゃないか」と思ったんです。そこで人事にかけあって、次年度は私にやらせてくださいとお願いして、研修プログラム作りを全部やったんです。その1期生がここにいる小宮です。

小宮:ちょうど新オフィスが京橋にできたばかりで、銀座にあるヒサヤ大黒堂の「ぢ」の看板を見ながら、研修を受けていました(笑)。

樋口:最初は100人くらい相手に1人でやっていたのですが、2年目からはサブ講師も付けていって、講師も育てることにしました。属人化を防ぐため、サブ講師がまたサブ講師に教えられるよう、10人くらいをまとめて見ていましたね。

大谷:プログラマーでもあり、講師でもあったんですね。

樋口:はい。入社から5年くらいで全社導入が完了し、Visual Basicで作られていたアプリケーションをC#化していく「ハイブリッドセンター」という部門のリーダーになり、まずは不動産担保システムのC#化とコンポーネント化を進めることになりました。

社長からは「最高のメンバーで未来の製品の基盤を作ってもらいたいから、お前がいいと思うメンバーを連れてこい」と言われ、若手を集めたんです。そこでUIで用いるコントロールの開発やデータベースアクセスのコード生成の自動化などを拡げていきました。

大谷:どうやってメンバーを集めたのですか?

樋口:社員研修を介して、若手のメンバーを知っていたので、ハイブリッドセンターにはそこで見てきた優秀なメンバーを引っ張ってきました。メンバーは自分たちでコードを書けるので、できたコードを見ながら、設計やアーキテクチャなどを指導し、コンポーネントを展開できるようにしました。

結果として、オービックのC#に向けた基盤ができ、システムの開発品質が向上したので、なにより炎上プロジェクトが減りました。当時は、東京、大阪、横浜の各拠点が受注した案件にあわせて販売管理システムを作っていたので、ソースコードがまったく違っていました。でも、C#でシステムを統一したことで、不具合があっても別の拠点からサポートに入れます。当然、障害やトラブルが起こらないので、利益率も上がりました。

大谷:グループウェア作って、社内研修やって、正直スーパーマンですよね。次はなにをやったんでしょうか?

樋口:ハイブリッドセンターの次は「IT研究室」みたいな部署の室長となって、4人のメンバーとR&Dをやっていました。2009年当時は出たばかりのクラウドを研究して、マイクロソフトの「Build」にも行かせてもらいました。

同時にHignelも外販する動きになってきたので、メンバーを増やしてもらい、プラグラムをイチから教えて開発してもらいました。2012年からは「OBIC7 Hignel」という名前で、財務・会計以外の情報系商材として外販されるようになりました。

大谷:個人で社内グループウェアを作って、結局外販にまでこぎつけた樋口さんってけっこうユニークだと思うのですが、そもそもどういうキャリアを描いていたんですか?

樋口:あんまり考えてなかったです(笑)。とにかくプログラムを書くのが好きなので、今も毎日書いています。性能やUI/UX、システムの内部が日々少しずつ改良されていくのが楽しいので、日曜大工で家具を日々改良し続けているような感じです。

あとは教えるのが好きだったので、人材教育に関われたのは自分の中でも大きかったですね。今は小宮にゴルフを教えています(笑)。

小宮:樋口さんって、予備校や家庭教師なしで現役で東大入ってたり、プログラミングもOBIC入って始めてるんです。勉強もプログラミングもスポーツも、好きなことに対して、飽きずに続けられるというのがすごいと思います。しかも積み上げ方が丁寧だなと思います。

教え方もそうで、人の成長って、壁に当たると止まるじゃないですか。でも、樋口さんってゴルフだったら「その打ち方をしているとうまくならない」とか、プログラミングだったら「そのプログラムは動くけど、保守性が落ちるからよくない」とかを壁を意識して教えてくれるんです。

大谷:話を聞いていると、ゴルフでも、プログラミングでも使える汎用的な努力メソッドがあるんでしょうね。

樋口:どちらかというと戦略的に難しい方が続きますね。マラソンやジョギングよりも、ビリヤードやゴルフの方が面白いと感じます。プログラミングは最上級に難しいし、今やっている動画編集も面白いですね。

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