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〜医療AI 開発プロジェクトを成功に導くために〜 HACARUS 神戸オフィス開設記念イベント

大企業とベンチャーが共創する医療AIビジネスに必要なものとは?

2020年05月22日 09時00分更新

文● 野々下裕子 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

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 AI(人工知能)に関するビジネスは国内でも市場が拡がっており、医療およびデジタルヘルスでの活用が進んでいる。あるリサーチによると世界市場規模は2018年の推計21億ドルから2025年には361億ドル市場にまで拡大すると推測されており、幅広い分野からの参入も始まっている。

 少量のデータから特徴を抽出し、学習と推論を行なえるAI関連技術の1つである「スパースモデリング」を応用した独自の技術開発をするハカルスもそうした会社の1つだ。当初は食材の栄養成分を測るアプリ開発からスタートしたが、疾病で課題のあるユーザーに向けたビジネスに可能性を感じるようになり、産業から医療分野へとソリューションを拡げようとしている。

 ハカルスは2019年12月に、革新的なデジタルヘルステクノロジーを支援するバイエル薬品のオープンイノベーションプログラム「G4A Tokyo」において、AIを用いたMRI画像診断支援ツール開発で合意した(関連記事:製薬会社におけるデジタル活用を促進する6社を選定、今後の協業も視野に)。それをきっかけに神戸医療産業都市内に設立されたバイエル薬品のインキュベーション施設「CoLaborator Kobe(コラボレーター神戸)」にオフィスを開設。記念となるパネルディスカッション「医療AI 開発プロジェクトを成功に導くために」を2月20日に開催した。

 バイエル薬品と大学の研究機関やベンチャー・スタートアップを結びつけて新たなビジネスを開拓するといった活動を行なう同社オープンイノベーションセンターの高橋俊一センター長、AIに関する法務や知的財産を得意とするSTORIA(ストーリア)法律事務所の柿沼 太一弁護士、神戸市医療産業都市部誘致課の吉岡 幹仁課長、ハカルス代表取締役CEOの藤原 健真氏が参加し、モデレーターをハカルス取締役CTOの染田 貴志氏が務めたパネルディスカッションの模様をお届けしたい。

ハカルスが入居するCoLaborator Kobe(コラボレーター神戸)はバイエル薬品が運営するウェットラボを併設するインキュベーション施設でドイツ、米国に次いで日本で初めて2018年6月に開設された。大学発の研究やベンチャー企業らとともにイノベーションを目指す拠点として運営され、ハカルスを含む医療関連ベンチャー数社が入居している

自社の弱みを細部まで公開した上で共創すべき価値を検討

 プログラムは「AI事業・プロジェクトの進め方」「医療特有の課題」「オープンイノベーションへの期待」「AIのユースケース」の4つのテーマで進められ、実際に現場に関わる関係者ならではのリアルで具体的な話が交わされた。会場には医療関係者や医療関連のベンチャー、IT企業や行政関係者まで幅広い参加者が集まった。

 「AI事業・プロジェクトの進め方」では、大企業とベンチャーが一緒に事業やプロジェクトを進める場合の課題やその対応について話し合われた。

バイエル薬品オープンイノベーションセンターの高橋 俊一センター長

 バイエル薬品の高橋氏は製薬会社の立場から「小さなスケールで成功させたことを積み上げていくという大企業のやり方に対し、時間軸が早いベンチャーがあわせるのは難しいところもあるので、お互いの考えを共有して目線を合わせて事業を進めるのが大事」だと話す。また、バイエル薬品はパートナーを探す場合、自社の弱みを細かいところまで公開した上でコ・クリエイションする価値があるかどうかを検討しているという。

STORIA(ストーリア)法律事務所の柿沼 太一弁護士

 医療AIベンチャーから数多く相談を受ける弁護士の柿沼氏も「ビジネス意識が共通していなければ知財の方向性も定められないので、話し合いは大事だ」とコメントしている。知財をどう扱うかは協業では大きな課題であり、医療AIビジネスは個人情報や医療規制が複雑に絡むが、調整が上手くいけばいい方向に進むので時間をかける価値があるとも話す。

神戸市医療産業都市部誘致課の吉岡 幹仁課長

 医療領域に関連する企業とベンチャーのコラボレーションを支援してきた神戸市の吉岡氏からは、ハカルスのような新規参入を目指すベンチャーに対し、専門的な知識や経験をアドバイスする仕組みを神戸医療産業都市(以下KBIC)で提供していることを紹介。「行政の仕組みを上手く利用し、ビジネスにも巻き込むぐらい動き回ってほしい」とコメントした。

 また、KBICにはベンチャーに協力的な医療機関が多く、医師がAIセミナーに参加するなど出会いの機会もあるが、真に連携を求めるなら自分たちの技術を売り込むだけでなく、相手に付加価値を提供するか、社会課題解決のような一緒に取り組む価値のある目標を提案する方がいいとアドバイスしていた。

 柿沼氏の事務所では医療AIの相談案件が増えており、開発に必要なデータの扱いに関する相談も寄せられている。日本は状況が複雑で組織によって規制が異なり、“匿名化”という用語1つをとっても法律と医療ではその意味合いが異なり判断が難しいため、専門家のアドバイスは不可欠といえる。

 ハカルスの染田氏から「自分たちのような新規参入者があらかじめ知っておくべき知識や法規制はあるか?」という質問に対し、高橋氏は「製薬会社同士でもわからないことはあるので、知ったふりをせずにお互い何でも聞くようにする方が後々ダメージにならない。東京ではなく神戸にラボを構えたのも、すぐに会って話ができることを重視したため」だという。

 コラボレーター神戸の開設は、オフィス賃貸ではなく化学反応を生み出すのが目当てであり、できるだけオープンなスタイルにしていると高橋氏。ハカルスの藤原氏は「海外のスタートアップは見られて盗まれるぐらいなら成功しないという考えで、それ以上にオープンにすることで生まれる化学反応が期待されている」と言い、ラボを通じて新しい出会いが生まれることに期待していると話す。

ハカルス代表取締役CEOの藤原 健真氏

ハカルス取締役CTOの染田 貴志氏

海外で始まっている医療AIのデジタルトランスフォーメーション

 厚生労働省が実施している検討会の1つ「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」によると、医療AIには1)ゲノム医療、2)画像診断支援、3)診断・治療支援、4)医薬品開発、5)介護・認知症、6)手術支援の領域があり、医療機器や研究用機器、ロボットの開発などが製品やサービスとして想定されている。

柿沼氏からは事務所への依頼がある医療AIビジネスは画像解析のジャンルが多く、医療従事者が起業するか、ハカルスのように医療機関と組んで技術からスタートするケースが多いという

 ハカルスも画像診断支援と診断・治療支援がターゲット。藤原氏は「薬事方面の開発は費用がかかり、医療機器も発売後に問題があるとベンチャーではなかなか対応できないので、製薬会社と共創するか役割分担する方法が多いのではないか」という。

 海外ではアプリを処方したり、認知症のトレーニングなどに取り入れられるなど、すでにデジタルトランスフォーメーションが始まっている。その点、創薬での取り組みが積極的になったのはこの数年であり、製薬企業は生き残りをかけて積極的に動いているところだと高橋氏。ベンチャーとAIの組み合わせも当たり前になりつつあり、これから事例も見られるようになるのではないかと話す。

 最後にモデレータの染田氏から「AIは一社だけで開発できるものではないので、立場が異なる分野ともステークホルダーを組んで、目線をあわせながら神戸でビジネスに取り組んでいきたい」というコメントがあり、パネルディスカッションは締め括られた。

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