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電話/個人ISP事業は「4年後に6割縮退」、データ利活用基盤「SDPF」の拡充を軸に事業変革進める

「新たな事業モデル構築が急務」NTT Comの2020年度事業戦略

2020年04月30日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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機微データ/プライバシーデータの安全な流通を可能にする「DATA Trust」を紹介

 セキュリティサービスの拡充においては、今後提供予定のサービスとして、秘匿性の高いデータやプライバシーデータの安全な保管と流通(企業間での共有)を両立させる「DATA Trust」を紹介した。DATA Trustでは、データの所有者がデータ内の公開情報/非公開情報やデータの利用条件、利用者を細かく指定できるという。

 「これは、NTTソフトウェアイノベーションセンタの医療データ向け研究成果を活用したもの。たとえばプライバシーデータに該当する部分だけをマスク/自動削除したうえで流通させることができる。これにより精度を保ったままでデータ分析や解析が可能になる」

今後提供予定のDATA Trustの概要。機微情報の保護機能を提供することで、企業間や社会でのデータ共有/利用を促す狙い

 また社会課題でもあるサイバーセキュリティ人材不足に対応するために、FFRIと共同で新会社、N.F.Laboratories(エヌ・エフ・ラボラトリーズ)を2019年1月に設立し、教育研修事業を通じて高度セキュリティ人材の育成にあたっているとした。

 最後がアプリケーションのレイヤーだ。顧客企業におけるビジネスプロセスのデジタル化と、そこから抽出されるデータの活用を目的に、SDPFのプラットフォームを使って構築された各種アプリケーション“Apps on SDPF”も、さらに拡充を続ける。庄司氏は3つの新しいアプリケーションを紹介した。

Apps on SDPFの狙いは、ビジネスプロセスのデジタル化を通じてデータ収集とそのデータ活用を可能にすること

 1つめは、自然言語処理関連のAIサービス「COTOHA」シリーズの新たなラインアップとして追加された「COTOHA Summarize」だ。これは、ドキュメントの要約文を短時間で作成するエンジンであり、その高い精度で「要約評価指標のROUGEにおいて世界最高レベルのスコアを獲得した」と紹介した。

記者説明会終了後、庄司氏の説明内容を「COTOHA Summarize」で要約処理した全文が配布された

 2つめが、今年秋のリリース予定で開発が進められている、コンタクトセンターのCX(カスタマーエクスペリエンス)向上を支援する「CX Platform」だ。

 コンタクトセンターに問い合わせる顧客の多くは、事前にWebサイト上のサポート情報やFAQを閲覧している。CX Platformでは、そうした顧客の閲覧履歴(ページ遷移情報)を収集、解析して「どの製品の、どんな情報(使い方、故障対応など)を求めているのか」を把握する。顧客がコンタクトセンターに問い合わせる際には、CX Platformが担当オペレーターに把握している情報を伝えることで、より迅速かつ適切な応対を行えるという仕組みだ。庄司氏は、製品メーカーなどに限らす「現在必要とされている遠隔診療などのシーンでも有効活用できるのではないか」と語る。

 最後に紹介されたのが、社員証をスマートフォンアプリとして提供する“Smart Me(仮称)”である。アプリ化によって社員証の発行が迅速化するほか、紛失時の無効化やゲスト入館証の配布、またゲストの訪問先記録などが容易にできる。また、社員が現在社内のどこにいるかを可視化する機能もあるという。このアプリは今夏リリース予定だと述べた。

パートナーや顧客企業との協業を通じ、業界ソリューションや新事業の創出を

 2020年度の重点取り組み項目の2つめに掲げる「ソリューション提供能力の強化」においては、今年度、7つの領域(製造、都市、教育、医療、ワークスタイル、モビリティ、CX)それぞれで実行組織や推進室を設けている。

 庄司氏は、業界課題や社会課題を解決するソリューションを提供していくためには、NTT ComやNTTグループ各社だけではなく、広く顧客やパートナーと「共創」していくスタンスが重要だと強調した。たとえば3月にトヨタ自動車とNTTが発表した「Woven City(ウーブン・シティ)」プロジェクトについても、NTT Comからスマートシティやスマートモビリティの推進室が参画しているという。

多様や業界課題、社会課題の解決を目指すために、幅広い顧客企業やパートナーとの「共創」を推進する

 現在開発しているソリューションの一例として、スマートファクトリー領域において調達業務を変革する「デジタルマッチングプラットフォーム」を紹介した。これは国内のあるメーカーと共同開発を進めている、業界横断型のオープンな調達プラットフォームである。

 このプラットフォームには複数の発注/受注企業が参画し、発注企業が必要な加工部品のデータを登録すると、それをAIが解析して、過去の受発注実績などに基づき最適な発注先を提示する。参加する企業間でデータは相互に共有するものの、前述したDATA Trustを利用することで、各社の競争力の源となる機微な情報は保護される。庄司氏は「現在はPOC(実証導入)を順次実施している」としたうえで、将来的には、受発注プロセスをさらに高度化する機能も追加していくと述べた。

製造業界向けの調達ソリューション「デジタルマッチングプラットフォーム」の概要と将来構想

 さらに教育業界向けソリューションとして、前述した「まなびポケット」に加えて、まなびポケットをパッケージしたPC端末「GIGAスクールパック」を紹介した。GIGAスクールパックは、文部科学省「GIGAスクール構想」向けにレノボ・ジャパンと共同開発したものだ。庄司氏は「まなびポケットは学校教育領域にとどまらず、たとえば企業の新入社員教育や人材育成などにも活用できると考えている」と述べ、新たな市場形成への期待感を示した。

 「新規事業創出」においても、パートナーや顧客企業との協業を進める。昨年2月にスタートした「NTT Communications OPEN INNOVATION PROGRAM」においては「200以上のアイディアが生まれ、事業化検討中のものもある」という。また社会課題の解決を目指すコミュニティプロジェクト「Cx4 BASE」にも、すでに1000名を超える参加者がいると紹介した。

* * *

 「新型コロナ対策という直近の課題も当然視野に入れているが、それにとどまることなく、コロナ終息後も継続できるような新たな働き方などへのチャレンジ、新しい行動原理や組織文化を創っていくという気持ちも、決して忘れていない。今求められている『行動変容』への(企業や働く個人の)適応を支えていく“DX Enabler”になることを考えている」

 庄司氏は最後にこう述べたうえで、昨年度から掲げる企業理念「今日と未来の間に。」を紹介した。この企業理念の下、NTT Comでは「自ら始める」「共に高める」「社会に答える」という社員の行動指針を定めている。

 「いままさに、混乱終息後の『未来』のために『今日』何をなすべきなのかが問われている。当社社員も、この未来に向かうための行動指針にのっとり、世界が疲弊している今だからこそ、どうすればNTT Comが社会に貢献できるのかを自分事としてとらえ、考えて、行動に移していきたい。“ポストコロナ”の時代が今日よりもよりよい世界となっているように、社員一丸となって取り組んでいく」

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