中の人が語るさくらインターネット 第18回
さくらインターネット研究所が量子コンピューティングを研究する意義、そして将来性
「技術進化と併走しながら考える」さくらと量子コンピューターの未来
2020年04月20日 08時00分更新
高度に複雑化するITインフラの運用管理にも適用を
さまざまなアニーリング技術の比較検証だけでなく、その具体的な適用先を見つけることも重要な研究対象だ。
「まだ早期の段階ですから、アニーリングマシンで解くべき問題とはどんなものなのかも含めて研究対象です。具体的にどんな適用先が考えられるのか、どんな社会問題やビジネス課題を解決できそうなのかといったことですね」(鶴田氏)
適用先の模索はさまざまな業界で始まっているが、さくらインターネット自身にも有望な適用先がある。「巨大なITインフラの運用管理」だ。その研究は、2019年8月に鶴田氏が入所してから本格化しているという。
「アニーリングで解きたい問題とは『人間の頭では考えられないほど複雑な組み合わせを持つもの』です。では、さくらインターネットとして解きたいものは? と考えると、自分たちが抱える大規模なITインフラがあります。仮想マシンやコンテナ、分散コンピューティング、マイクロサービス、さらにエッジ/フォグコンピューティングなど、複雑化がますます進んでいくITインフラの最適化に使えるのではないかと考えました」(鶴田氏)
鶴田氏は、可能性のある適用例をいくつか挙げた。たとえば地理分散したITインフラに対して、どのタスクをどのインフラで、どの順序で処理させるのが最も効率的か(ジョブスケジューリング問題)、複数台の物理ホストサーバーがある環境で多数の仮想マシン/コンテナをどう配置するべきか(ナップサック問題)、多数のノードがある中から異常なふるまいをしているノードを迅速に見つけ出す(教師なし学習によるクラスタリング)といったものだ。
「ITインフラの運用管理に対しても有効そうだということがわかりましたので、現在はここからもう少し具体的な課題に落とし込んで、研究をスタートしようというフェーズです。さくら社内の課題だけでなく、クラウド環境全体の運用管理を支援できるような、汎用的な解法として研究していきたいと考えています」(鶴田氏)
量子コンピューティング研究における今後のロードマップをどう考えているのか。
菊地氏は、超個体型データセンターのロードマップではおよそ10年後となっているものの、「この1、2年のうちには『こういう所でも利用できましたよ』という実例は出していきたい。量子コンピューティング技術の進化と並行して、数年おきに少しずつ成果を出していけたら」と語る。また鶴田氏も「手探りで進みながら発展していきたい。アニーリングそのものの改善にも貢献できたら」と語った。
「現状では、業界全体もわれわれ自身もまだ、さまざまな方式を“味見をしながら”進んでいる感じで、最終的な着地点は未定です。ただし、この技術がやがてどこかに落ち着いたときには、すぐさま『さくらならできます』『さくらは用意しています』と言えるようにしておきたい。とにかく今は乗り遅れないようにキャッチアップし続けていきます」(菊地氏)
(提供:さくらインターネット)

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