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Webサイト管理者のための2020年版“IPv6対応入門”第1回

Webサイト管理者やWebサービス事業者、アプリ開発者に「IPv6対応」を進めてほしい理由

なぜいま、あらためて「IPv6」を学ばなければならないのか

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 監修● 久保田 聡/日本ネットワークイネイブラー

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IPv4/IPv6インターネットの共存状態、課題は

 IPv4インターネットとIPv6インターネットの並行運用は、こうした共存技術を組み合わせることで実現されている。そのため、IPv4/IPv6といったことを意識しなくとも、表面的にはインターネットはほぼ従来どおり使えている。

 ただし、それは必ずしも理想的な姿とは言えず、全体最適が図られた「効率の良い」状態ではないことも知っておきたい。

 たとえばユーザー側から見ると、上述したIPv4/IPv6の共存技術を使う環境下では、いずれも通信処理にオーバーヘッドが発生することになる。これは通信処理のレイテンシ(遅延)につながり、快適なインターネット利用の妨げになる。また、NAT方式で複数のユーザーが1つのグローバルIPv4アドレスを共有する場合、社外(インターネット側)からリモートアクセスVPNの接続ができない、オンラインゲームなどでP2P通信ができないといった、ユーザーが利用するうえでの制約が生じることもある。

APNICが公開している国別のIPv4/IPv6 RTT比較マップ(https://stats.labs.apnic.net/v6perf)。緑はIPv6が速い国、赤はIPv4が速い国、日本はほぼ中間(若干IPv6が速い)でグレーとなっている

 しかし、より大きな課題を抱えるのは通信事業者やISP(インターネットサービスプロバイダー)の側だ。

 増加し続けるインターネットトラフィックに対応し、安定した快適な接続サービスを提供するためには、ネットワーク機器/設備の増強を続けなければならない。しかしIPv4インターネットとIPv6インターネットが共存し、その両方に対応するために、IPv4/IPv6共存技術を実現するための機器も含めたネットワークインフラへの「二重投資」が続く。さらに、すでに枯渇したグローバルIPv4アドレスを調達するために、市場で他の事業者から買い取る「IPv4アドレス移転」のコストも上昇しつつあるといった課題もある。

 そして、こうした通信事業者やISPでの“無駄”=コスト増大は、間接的にユーザーコストにも反映されることになる。長期的に見れば、快適なインターネット接続サービスの維持にとってマイナスの効果しかもたらさない。事実、NAT方式で1つのグローバルIPv4アドレスに収容される接続数(ユーザー数)を増やさざるを得なくなり、トラフィックのボトルネックになる問題も生じているという。

「IPv6対応に向けて」IPv6を学ぶべきときがやってきた

 ここで冒頭の問いかけに戻りたい。本連載が主な対象としているWebサイト管理者やアプリケーション開発者の皆さんが「なぜいまIPv6を学ぶべきなのか」についてだ。より正確に言えば「なぜいま『IPv6対応に向けて』IPv6を学ぶべきなのか」である。

 ここまで紹介してきたように、IPv6のユーザー利用率は現在のところ30~40%程度であり、IPv4/IPv6の共存技術もあるため、現在「IPv4アクセスのみ」に対応するWebサイトやWebサービスを提供しているとしても、すぐに大きな支障が出るわけではない。しかしその裏側では、本来IPv6対応していれば生じない、無駄なコストやリソースの浪費が発生している。その負担が「インターネット全体に」薄く広がっているために、個々人では実感しづらいだけだ。

 また海外では、IPv6インターネットしか利用できないユーザーも出てきている。そのため、たとえばGoogleやFacebookといったグローバル展開するWebサービスでは、IPv6アクセスもできるように対応している。日本でもスマートフォンユーザーを中心としてIPv6アクセスが増えているのが現状であり、それならばWebサイト側もIPv6対応するほうがシンプルで無駄がない。WebアプリケーションやWebサービスの構築/開発においては、可能な限りユーザーの待ち時間(レイテンシ)を減らすことが至上命題になっているが、アプリケーションレベルだけでなく、IPレベルでの違いにも目を向けてほしい。

 そして最後にもうひとつ、WebサイトのIPv6対応は、現在ではそれほど難しいことではない。IPv4用とIPv6用のサーバーを個別に用意する必要はないし、コストもほとんどかからない。本連載ではその具体的な方法も説明していくが、きっと読者の皆さんが想像するよりもずっと易しいことのはずだ。本連載を通じて、ぜひ一緒に学んでほしいと思う。

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