業務を変えるkintoneユーザー事例 第71回
顧客の要望にも社内の要望にも最後まで応え続けるたけひろ建築工房
たけひろ建築工房が業務改善で気づいた「アプリは完成しない」という事実
2020年03月31日 09時00分更新
業務改善のためのシステムを開発するうえで、課題となることがある。課題を把握し、用件定義を行ない、システムを開発し、現場に導入する頃には、ビジネス環境も現場の課題も変わっているということだ。一度完成したシステムを変更するのは容易ではなく、現場のニーズとずれを抱えたまま運用することになりがちだ。しかし、有限会社たけひろ建築工房は、kintoneを使うことでこのジレンマを克服した。キーワードは、「完成しない仕組みづくり」だ。
顧客の要望を優先しすぎて経営が悪化、利益率改善が急務に
kintone hive 名古屋で5番手に登壇したたけひろ建築工房は、岐阜県可児市でスタートした建築会社だ。2018年には愛知県長久手市にもオフィスをオープンしている。SE構法を用いた完全注文住宅しかづくらないこだわりのビジネスを展開していると、経営企画室の堀 太一氏は言う。
「SE構法では、耐力壁に頼ることなく高い耐震性能を確保できます。壁を最小限にできるので、30畳を超えるLDKも作れる工法です。耐震性と顧客のこだわりを両立できます」(堀氏)
顧客のこだわりを形にするために、工法にこだわるたけひろ建築工房。ビジネスの流れ自体は、一般的な建築会社と大きく変わらない。広告を発信して、営業活動を行ない、設計・積算に基づいて見積を作る。その後は実際の施工、納品、そしてその後のメンテナンスと進む。大きな違いは、顧客のこだわりに最後まで応えるという点。どうしても高コストになってしまうのだ。それが理由か、売上は右肩上がりに伸びているにもかかわらず、近年は利益率が伸び悩んでいた。
利益率を高めるもっとも簡単な方法は、コストを下げること。しかし家づくりには妥協できない。そこでたけひろ建築工房では、それに付随する業務を効率化して経営体質の改善を図ることにした。そのためのツール選びは、利益率が伸び悩み始めた2017年頃から始まっていた。原価管理ソリューションをいくつも見てみたが、自社のビジネスにしっくりくるものはなかった。代表取締役を務める山田 雄大氏の口癖は「ないものは作る」であり、建築会社らしい方針でもある。しかしゼロからシステム開発するわけにはいかない。何かベースになるものはないかと、さらに情報収集は続いた。
そうした情報収集をする中で、中途採用された社員たちから前職で使っていた業務システムとしてサイボウズOfficeやGaroonの名前が挙がった。それ自体は目的に合わなかったものの、調べているうちに同じサイボウズ製品であるkintoneに出会った。
「これなら自分たちの望む通りのシステムを作れるのではないかと感じました。既に社内で危機感は共有されており、改善しなければ、そのための手を打たねばという意識を持っていました。ですからkintoneについて調査する際にも、導入前提で動きました」(堀氏)
導入前に役立ったのは、自社の課題に合わせた具体的な導入ステップについてアドバイスをもらえる、kintone導入相談カフェだ。そこで受けたアドバイスは、少人数でスタートすること、少ないアプリからスタートすることだった。
開発を始めてわかったのは、アプリは完成しないということ
kintoneを使って業務効率化に取りかかったたけひろ建築工房。取り組みを牽引するのは堀氏だが、実はシステムに詳しくなかった。それどころではなく、営業経験もなければ、建築の実務についても詳しくなかった。こんなことで業務効率化は成功するのだろうか。キーとなったのは、前述した小さく、少ないアプリからスタートするという手法だった。
アカウントは堀氏のほか、各責任者に持ってもらった。店長などに持ってもらったが、担当者から報告を受けて入力をするのはすぐに面倒になる。入力を部下のひとりに任せたくなり、アカウントの追加依頼が来る。任された人は、担当者それぞれが直接入力すればいいのに、と思い始める。そしてアカウントの追加依頼が来る。堀氏いわく「ネズミ講みたいにkintoneユーザーが広がっていく」仕組みだった。
アプリの方で最初に手を付けたのは工事台帳、業者名簿、顧客対応の3つ。
「住宅を建築するためにはいくつもの業者さんと連携しなくてはなりません。大体、1軒あたり40社くらいの業者が関係していて、それだけの数のExcelを使って原価などを管理していました。これを5つのkintoneアプリで管理できるようにしたのが、工事台帳アプリ群です。3つのうちこれは一番複雑で規模も大きかったので、外部のSIerさんに依頼しました」(堀氏)
ほかの2つも含め、システムも営業も建築もわからない堀さんが徹底したことは、試作の段階で運用し始め、利用者の意見を聞きまくるということ。完成していないまま走り出すので、「もっとこうしてほしい」という意見がたくさん出てくる。「少しずつやれば大変じゃない」と堀さんが言う通り、システムに明るくない人であっても、ちょっとした要望にひとつずつ応えるくらいなら、kintoneでは難しいことではない。出てきた要望に少しずつ応えていくうちに、自然と現場の担当者が使いたくなるアプリに成長していった。
「始めてみてわかったことは、アプリは完成しないということです。ひとつの要望に応えると、次の要望が出てきます」(堀氏)
それができるならこういったこともできないか、という相談もあっただろう。仕事のやり方が変わったことによる要望もあっただろう。業務で使いながらアプリを改善していけるのは、kintoneならではの魅力だ。アプリが完成するのを待って現場に投入しようと思ったら、いつまで経っても業務改善をスタートできなかったに違いない。
顧客のこだわりに最後まで寄り添うアプリを作り、利益率改善に成功
次から次へと要望が出てきて完成しないkintoneアプリと同様、顧客も自分の家に最後までこだわり続ける。たけひろ建築工房では、できる限りそれに応えることにしている。見積作成後であっても、発注書作成後であっても、完成して請求書を書くそのときまで、顧客の「やっぱりここはこうしたい」に寄り添って住宅をつくる。かといって採算度外視では困る。いや、顧客は喜ぶと思うが。
「工事途中での変更がある前提で利益率を向上させていくだめに、見積時だけではなく、発注書作成時、請求書入力時と3段階で利益率を計算しています。算出された利益率をリアルタイムに全員で共有することで、健全なコストで工事を進めてもらえるようになりました」(堀氏)
変更に応えるため、見積作成後に追加予算を入力できるようにしたりと、入力側にも工夫をこらした。そうした取り組みが実を結び、2019年は利益率が大幅に改善。顧客の満足度を下げることなく、会社の経営を健全化することに成功した。
「少人数、少アプリから始めて、完成を目指さず改善し続けたことが、成功の要因のひとつでしょう。もうひとつは、トップダウンでもボトムアップでもなく、関係する社員全員にヒアリングして作っていることでしょうか」(堀氏)
使う人の声をフラットに採り入れ続けたことで、偏りのない、誰にも使いやすいアプリ群を作れたのかもしれない。そして、システムにも営業にも建築にも詳しくなかった堀氏だからこそ、そうした方針でニュートラルに取り組めたのだろう。
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