トヨタとNTTの提携には
どんな意味があるのか?
3月24日、トヨタとNTTが業務資本提携を発表した。「スマートシティプラットフォーム」の開発から実装までを見据えて、2000億円相当の株式を相互に取得し、スマートシティビジネスのパートナーになるという。具体的には、すでにトヨタが発表している静岡県裾野市東富士エリアの「Woven City(ウーブン・シティ)」と東京都港区品川エリア(品川駅前のNTT街区の一部)にて「スマートシティプラットフォーム」の実用化を目指し、その後に他の都市への展開を図るという。
「スマートシティプラットフォーム」とは、街で利用する情報のマネージメントや街づくりのためのシミュレーションなどを行なうためのシステムで、情報通信ネットワークも含まれる。自動運転車両のインフラ側からのサポートや個人向けの通信デバイスなど、幅広いサービスが想定されている。その構想には、ソフトウェアだけでなくハードウェアも含まれ、社会実装にはそれなりに長期間かかることが想定されたため、両社は資本提携にまで踏み込んだという。
自動車メーカーと通信事業社の立ち位置が変わりつつある
トヨタとNTTが、次世代のスマートシティの開発に熱心なことは周知の事実だ。トヨタは2年前のCES2018において自動運転専用車両「e-Pallet」の発表と共に、「クルマを単に売る会社から移動サービスを提供する、モビリティ・サービス・カンパニー」へのフルモデルチェンジを公言している。その実現のためには、クルマ単体ではなく、インフラの必要性も強く感じており、それがスマートシティ「Woven City」(ウーブン・シティ)プロジェクトへつながっている。
一方、NTTは、自社の持つIoT、ICT、AIなどの技術を活用し、国内だけでなくラスベガスなどでも、スマートシティ・ビジネスを進めてきた。その新しいパートナーとして、世界トップレベルのトヨタと組めることは、願ってもないこと。NTTの澤田 純社長は「トヨタと組めることが大きい」と正直に言う。
しかし、過去のトヨタとNTTの関係を知る人からすれば、この発表は驚くものだろう。もともと、トヨタはNTTのライバルであるKDDIの株主でもあり、NTTとは少し距離を置く関係であった。一方、NTTは日産とのつながりが強かった。ちなみにソフトバンクはホンダだ。
つまり、NTT、KDDI、ソフトバンクという各通信会社は、それぞれの相棒となる自動車メーカーがあって、互いににらみ合うという形だったのだ。
ところが近年になって、トヨタがそうした従来の形を崩す動きを見せてきた。2018年10月には電撃的ともいえるソフトバンクとの戦略的提携を発表。MaaS事業を行なう「MONET」という共同出資会社を立ち上げた。ここにはトヨタだけでなく、日野自動車、ホンダ、いすゞ、スズキ、スバル、ダイハツ、マツダも資本を投入し、仲間となっている。
そして、今回のNTTとの提携だ。これにより、トヨタはNTT、KDDI、ソフトバンクという日本を代表する大手通信会社すべてとのつながりを得たのだ。また、その通信会社の先には、ホンダや日産といった日系自動車メーカーが存在している。つまり、トヨタを世話役にしたオールジャパン体制が構築できたことになるのだ。
「デジタル化が推進し、5Gの時代を迎えて、クルマも自動運転の技術革新が実装の時を迎えると、通信の中でも協調と競争の部分が出てくると思います」とトヨタの豊田章男社長は説明する。この協調のための仲間。それをトヨタの豊田社長は、「無色透明な連合」と呼んだ。どこか1社の色に染まらない無色透明だというわけだ。また、NTT社長の澤田氏も「オープンマインドで排他的ではない」と重ねて言う。
オールジャパンで「GAFA」に立ち向かう
では、こうした無色透明なオールジャパンが戦う相手は誰であろうか? それはGoogleなど世界の巨人「GAFA」だ。NTTの澤田社長はずばり「GAFA対抗という意識はある」という。豊田社長も「NTTは(日本)国家そのもの」に見え、その国家そのものと組んで世界のライバルから「日本もなかなかやるなと言われたい」と述べる。
クルマが進化し、インフラと協調する存在になる。自動運転技術の開発の先には、そうした未来もあるだろう。そして、実際に日本だけでなく、欧米企業もそうした開発の動きを見せている。そうした中で、リアルな街を作り出そうという「Woven City」プロジェクトをスタートさせるトヨタは、先頭グループの一人と言える。この動きをさらに加速させるべく、オールジャパンを結成した。それが、今回のトヨタとNTTの提携といえるだろう。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。