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小野員裕「魂のラーメン外伝」 第5回

尾道ラーメンの先駆的存在 尾道ラーメン麺一筋(東京・水道橋)

2020年03月28日 12時00分更新

文● 小野員裕 編集● ラーメンWalker

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 水道橋西口から「東京ドーム」を背にして、水道橋西通りを歩くこと4分、「尾道ラーメン 麺一筋」が現れる。

 昼時は近隣のサラリーマンや学生で行列をなしている人気店である。お勧めはご覧の「魂のラーメン」だ。

 この美しいデコレーション、眺めているだけで食欲がそそられる。香ばしくトロトロのバラ肉の焼豚、半熟の味付け玉子、たっぷりのアサツキに関西以西のラーメンで見受ける細切りのメンマ。スープの表面を覆っているのは、醤油で下味された背脂だ。一口すすると深い旨味とコク、このスープによく絡む自家製の平打ち麺の食感も心地よい。

 ご主人の矢辺治氏(残念ながら他界されました)は大のラーメンフリークで、全国のラーメンを行脚すること十数年。果たして自分の舌にしっくりきたのが、尾道で出合ったご当地ラーメンだった。「これをちょっとアレンジしたらもっと美味しくなるだろうな」 とピンときたらしい。スープは豚の背骨、モミジ、鰹節のほか、はぎ節(カワハギの干物)という珍しい干物を使用しているのが特徴で、これがコクのある旨いスープを表現しているのだ。

 また「塩ラーメン」を方々の店で食べるのだが、正直どれも物足りず、損をした気分になる。「タンメン」なら肉や野菜が豊富に入っていて満足できるが、これが塩スープにメンマや焼豚となると、やはり醤油や味噌特有の旨味成分の力強さには及ばない。スープが弱い上に、塩の元ダレに底力がなければ「塩ラーメン」は成立するワケがない。しかし「麺一筋」の「藻塩そば」は実に力強い味わいに大満足。

 ここで使われている広島から取り寄せた「藻塩」とは古代の製塩方法の一つで、海水に浸した海藻を乾かし、その焼いた灰をさらに海水で漉し、土器で煮詰めたものらしい。また塩分濃度が低いためまろやかな甘味があるという。

 この「藻塩」に、昆布、貝柱、干し海老、日本酒など、さらにまろやかにするため苦汁を少量添加し、4日間熟成させたものが「麺一筋」の力強い塩ダレとなる。この店の基本の力強いスープと合体すれば、その奥行きのある味わいは群を抜く。塩の尖りのないまろやかな旨味、コク、それでいてサッパリとした味わいは、まるで隙のない美味しさだ。具は焼豚のほか、細切りコブと海葡萄のプツプツとした口当たりが楽しく、小皿の醤油味の背脂を浮かべればさらに旨味が増す代物だ。

 また「特製つけ麺」や夏場にピッタリの「冷やし坦々麺」なども旨いぞ。

〈店舗データ〉
【住所】東京都千代田区三崎町3-1-18 03-3264-5018
【営業】11時~22時30分
【休日】無休
【アクセス】JR総武線「水道橋駅」西口から徒歩4分

小野員裕 Kazuhiro Ono (大衆料理研究家)

 17歳からカレーの食べ歩きをスタート。以降、大衆料理研究家として早い時期からジャンルを問わず各メディアで情報発信。著書「魂のラーメン(プレジデント社)」はラーメンファンのみならず食に関わる多くの評論家やブロガーにも多大な影響を与えた。現在も1日1軒は食べ歩きの日々。

百麺人(https://ramen.walkerplus.com/hyakumenjin/

本人ブログ https://onochan.jp/

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