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業務を変えるkintoneユーザー事例 第68回

社長には「ホワイトボードでの情報共有」を禁止してもらう

kintoneの案件管理で属人化の沼から抜けた食品工場メーカー

2020年03月09日 10時30分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

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 2020年2月25日に開催されたkintone hive nagoya Vol.4のユーザー事例2番手は食品工場の建設や自動化を手がけるF.テクノ。登壇した伊藤 有基氏は属人化していた案件管理の解決からスタートし、売上確認や原価管理まで進めた同社のkintone導入をわかりやすく解説した。

F.テクノ 伊藤 有基氏

案件管理のために「とりあえず安い方」からスタート

 F.テクノは食品工場の建築に関わる事業を行なっている。食品工場自体の建築はもちろん、生産ラインや搬送ラインの設計から導入、その後のメンテナンスまでを請け負う。登壇した伊藤 有基氏の言葉を借りるなら、食品加工における「人の作業をロボットに置き換える」のが同社の仕事だ。

 各案件にかかる時間が長く、工程や外注先とのやり取りが多い。そしてその段取りはすべて担当者の頭の中に入っていた。すなわち、担当者でなければ案件の詳細がわからない場合があり、なおかつ案件自体お多かった。案件ごとに担当者がついているため、スケジュールや進捗具合は担当者に聞かなければわからない。個人任せになり忘れや抜け漏れが生じたり、外注先への発注でバッティングしたりと、問題も生じる。社内の情報共有がうまくいっていない典型例だが、いつになっても業界を問わず、よく聞かされる話だ。

「案件が多く、各案件に関する情報が属人化していたため、案件全体を把握できない状況に陥っていました。案件全体を把握できず、対応が遅れてクレームにつながることもありました。また、他人の案件が見えないので全体を効率化することができず、同じ外注先への発注でバッティングするなど、困ることは少なくありませんでした」(伊藤氏)

案件管理にまつわるさまざまな課題

 長らく使っていた情報共有の場は、ホワイトボード。しかし完了案件を書き忘れて請求漏れが発生するなど、人的ミスはなくせない。Excelでの原価管理にも取り組んでみたが、入力が面倒で使ってもらえない。F.テクノはこうした属人化の沼から抜け出すため、社内システムの導入を検討し始めた。

 そんなとき、三重のkintoneインテグレーターのコムデックから紹介されたのがkintoneだった。しかしクラウドを使ったことがなく、有効性がわからない。知っている製品と比較しようとSalesforceと見比べてみたものの、やはりクラウドの特性がわからず優劣を見極めきれなかったと伊藤氏は言う。

「結局、安い方を1年使ってみようということになり、kintoneを契約しました」(伊藤氏)

 わからないから、安いものをとりあえず使ってみよう、というのは、初めてのジャンルに手を出すときに筆者もよくやる方法。とりあえず使ってみれば、自分に合うものかどうかがわかるし、自分に合わなかったときには無駄な出費を少なく抑えられる。もっと使ってみたいと思ったら、次のステップアップに向けて不足を感じる機能を軸に製品選びができるし、そもそも最初に手にしたものが身の丈に合っていればそのまま使い続ければいい。どのパターンでも、出費の無駄を小さくできるのがいいところだと思っている。

プラグインやAPI連携を使ってさらに使いやすいシステムに

 と、筆者のことはどうでもよく、F.テクノさんの話だ。とりあえず安い方、ということで選んだのはkintoneだった。そして、クラウドというものが自社の業務にフィットするのかどうかを見極めることになった。その際、「面倒だから使わない」という人がたくさん出てきたら、フィットするのかどうかの判断材料自体が意味を成さない。そこで伊藤氏は、社長にあるお願いをしたという。

 「社長の後押しをもらい、ホワイトボードを使用禁止にしました。必要なコミュニケーションはすべてkintoneで行なうこと。みんなで使えば、いろいろな意見ももらえます」(伊藤氏)

 改善要望については、パートナー企業に依頼してJavaScriptを使ったカスタマイズで対応した。たとえば、 ノートPCやタブレットなど画面の小さい端末で使うには常に表示されるコメント欄が邪魔だという意見があり、自動で非表示にすることにした。

 業務改善の本丸である案件管理について、伊藤氏には目標とする画面イメージがあった。かつて使用していたプロジェクト管理ツールのダッシュボードが使いやすかったので、同じような画面をkintoneで実現したいと考えていたのだ。

「2~3ヵ月かけて見つけたのが、アーセスが提供するKANBANプラグインです。案件状況がひと目でわかる使い勝手が気に入り、導入しました。さらに、ステータス連動必須フィールド設定プラグインも使っています」(伊藤氏)

 KANBANプラグインは、各レコードをカンバンのように並べて表示するタスク管理プラグインだ。ステータス連動必須フィールド設定プラグインは、ある項目の値によって、入力必須フィールドの表示、非表示を切り替えるもの。たとえば案件状況が工事中であれば、納品予定を必須フィールドとして表示し、見積中や工事完了の場合は納品予定フィールドを非表示にする。

「こうして作り込んでいき、みんなが使ってくれるようになると、どんどん欲が出てきて、もっとkintoneを使って便利にしたいと思うようになりました。案件管理だけではなく、売上の確認や原価管理など、kintoneの活用は広がっていきました」(伊藤氏)

 売上管理にはkintoneとは別のシステムが使われていたため、kintoneからは案件の状況はわかるものの、工事金額を知るためには別アプリを使う必要があった。そこで、既存の売り上げ管理システムとkintoneを結びつけることに。見積が作られたらAPI連携でkintoneの見積アプリに自動登録し、案件管理アプリから参照できるようにした。

売り上げ確認の改善

 原価管理はExcelで行なっていたものをkintoneアプリに移行。工事ごとにExcelが増えて行っていたものがひとつのアプリにまとまり、できる限りフォーマット化することで入力の手間を低減できた。売上なども売上と原価から利益などを自動集計できるようになり、利便性も向上した。

kintoneの最大の効果は可視化、コミュニティで情報収集

「いろいろな業務をkintoneに移行したことで、情報入力の抜け漏れがなくなりました。案件登録が癖づき、どこにいてもスマートフォンなどから登録してもらえるようになりました。またこれらは社内の業務を効率化するための取り組みでしたが、対外的な効果もありました」(伊藤氏)

 伊藤さんが対外的な効果の例として挙げたのは、監査だ。監査法人から質問があった際に、すぐに記録と数字を示して話ができるので、信頼感が増したという。

kintone導入でよかった話

 属人化や紙での情報整理から脱却した今、F.テクノは次のステップとして過去の見積データを参照して見積業務を省力化するなど、蓄積したデータの活用を考えている。そうした将来像をを示しつつ伊藤氏は、kintone導入のステップについて次のように語る。

「kintone導入の最大の効果は情報の可視化。標準機能でできることはスタート地点だと思ってください。その上で私がやったことは、プラグインを検索する、kintone Caféに参加する、SNSを活用するということです。特にSNS活用はお勧めしたいと思います。特にTwitterが熱いです。ラジカルブリッジさんのカレンダーPlusを使っていて疑問点をツイートしたら、あちこちから解決策のリプライをいただきました。中には、ラジカルブリッジさんの公式アカウントからのリプライもありました」(伊藤氏)

 安いからという理由で選んだkintoneだが、SNSを含むコミュニティの作用にすっかり魅了された伊藤氏。エコシステムやコミュニティの力が大きなkintoneだからこそ、検索してみる、人に聞いてみるという行動を通じてkintoneを使いこなしてほしいと感じる事例だった。

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