「次はどの店を書くの?」「あの店はまだ書かないの?」など、最近地元の方々にこのコラムの話をされるようになりました。完山です。
やはり、このラーメン店を書かずにはいれません。佐賀県基山町の人気店「丸幸ラーメン」の唯一の暖簾分けが、大川市にあるのです。本店の方に行ったことがある方は、違いをぜひ楽しんでみてください。
小さな交差点の角にあります。ちなみにここの交差点は点滅信号のみで、交通事故が多いです。車が横転していたことも。
初めて一人で来た時、店の外でもすでに強烈な豚骨臭が漂っていて、入店をためらったのを思い出します。裏で豚を飼っているのかと本気で疑ったほど。
暖簾が出ていたので、今日は朝10時過ぎに入店。扉が閉まってましたが、中からおとうさんが開けてくれました。いつもは小上がりの柱にもたれて座っているおかあさんがいませんでした。ご夫婦だけで続けられています。見た目は若いですが、おとうさん(僕はそう呼ぶ)はもう81歳。
昔、一度だけちゃんぽんを食べたことがあります。美味しかったんです。毎回「今日はモヤシがない」とかの理由で断られ続けて、やっと食べたあのちゃんぽん……。
以前、海外の友人をこの店に連れてきたら、店内も強烈な豚骨臭でギブアップしました。今はもう慣れてしまった自分が感慨深い。
ちなみに、お二人は写真を撮られることが極端に苦手です。「でけん!」とおかあさんに叱られます。コテコテの大川弁はちょっと怖いです。
手際よくおとうさんがラーメンを仕込みます。
その間にゆで卵を剥きます。
セルフで水を入れ、ゆで卵を食べ終わるくらいには、ラーメンができ上がります。
丼一杯に溢れんばかりに(いや、運ぶ時に溢れていますが)たっぷり浮かんだ透明感のある脂の下に、表面張力限界の熱々のスープ。ここも鶏を使っておらず豚骨のみ。塩気が強いですがなぜか不思議と優しくほんのり甘さも感じられます。店内の匂いの割には、スープは全然臭くないのです。そして美味しい。この意外性に驚きながら、どんどん箸が進んでしまうのです。最近は紅生姜を入れなくても、食べれるようになってきました。
ネギがたくさん入っていて嬉しい。食べた後は手はもちろん、顔全体もコラーゲンでパックされたような感じになります。日によっては、服にも髪にも匂いが残るので帰ってシャワーを浴びることもあります。そして胃腸の弱い僕は大抵次の日はお腹を下します。でも美味しいから食べたいんです。 「ここのラーメンしか食べない」という近所の飲み屋のおじさんもいるほど。
めしを頼むと高菜が付いてくるんですが、これがまた絶妙な塩加減で美味しい。
大牟田出身のおとうさんは、関西でパン屋を転々とし(今でもパンを焼けるとのこと)、おかあさんと知り合い結婚。それから夫婦で基山の丸幸に住み込みで働き、先代に暖簾分けを許され、大川で独立したそうです。2度のがんを克服しつつ、もう48年続けているとのこと。ご夫婦ともに大川出身じゃなかったのは驚きでした。
結局、おとうさんと30分以上長話をしてしまいました。なんで大川の人々の歴史はこんなにも面白く、僕を魅了するのでしょうか。それを知りたく、またラーメン店(やスナック)に通うのです。
マル幸ラーメン
福岡県大川市大字向島930-4
10時から10時半くらいから開いてますが、13時半には閉まっています
定休日も特にありません。大体毎日やってます
完山京洪 Keihiro Kanyama (映画監督)
映画制作をきっかけに東京から福岡県大川市に移住して4年半。完全にとんこつラーメンの中毒に。映画の他にゲストハウスLittleOkawoodを運営。
本人Twitter @Keihiro
ラーメン食べ歩きインスタ @ramencrazyfukuoka