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なぜビジネスで「宇宙」を目指すのか?当事者が語るそれぞれの答え

2020年02月18日 16時11分更新

文● Yasuhiro Hatabe

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画像クレジット:yahikoworks

テクノロジーの進化やリスクマネーの流入などを背景に、宇宙ビジネスが世界的に活況を呈している。だが、多くの企業にとって宇宙はまだ遠い存在であり、事業化には多くのリスクと困難が伴う。なぜ、宇宙を目指すのか?異なる立場から宇宙ビジネスに取り組む当事者たちの答えとは。

東京・日本橋の室町三井ホールで、2019年11月29日に開催されたテクノロジー・カンファレンスFuture of Society Conference 2019(主催:MITテクノロジーレビュー[日本版])。この日の最後のセッションでは、大企業・ベンチャー企業・国の機関という異なる立場で宇宙ビジネスに取り組むゲストを迎え、「宇宙ビジネスの時代—なぜ、人は宇宙に魅せられるのか—」をテーマに宇宙への思い、宇宙ビジネスの魅力について語り合った。

パネラーは、月面探査ベンチャーispaceファウンダー・代表取締役の袴田武史氏、清水建設 フロンティア開発室 宇宙開発部部長の金山秀樹氏、JAXA 新事業促進部 事業開発グループ長・プロデューサーの上村俊作氏。モデレーターは、アンタレス代表取締役で宇宙タレントとして活動している黒田有彩氏が務めた。

自己紹介では、金山氏と袴田氏がSFドラマ・映画を通じて宇宙に関心を持つようになったことを明かし、会場を頷かせた一方、JAXAの上村氏は「実は宇宙にはそれほど興味がなく、ビジネスに関心がある」と意外な一面を見せた。黒田氏は、中学時代に応募した科学に関する作文コンクールの副賞でNASAを訪れて以降、「宇宙へ行きたいという具体的な目標ができた」と語り、宇宙に惹かれたきっかけを紹介した。

アンタレス代表取締役の黒田有彩氏

宇宙ビジネスは地上の社会をどう変えるのか

自己紹介の後、黒田氏は壇上のパネラーに、「宇宙ビジネスの延長線上で、社会や人々の生活のどのような変化を見据えているのか」という質問を投げかけた。3人は口々に「難しい質問ですね」という言葉を添えて次のよう回答した。

金山氏は、「清水建設では『小型の衛星を打ち上げる輸送機の開発』『衛星データ利用』『月面探査・開発』の3つの柱で宇宙ビジネスに関わっている」と説明した上で、「いまは事業化しやすい前の2つから取り組んでいるが、地球近傍に限られている現在の経済圏を、月をも巻き込んだ形に広げていくことが、私が一番願っていること。それが実現すれば、輸送も利用も大きく変わる。月のような厳しい環境で人が生きていくために開発した技術が、ひいては地球にも恩恵をもたらすものになると思っています」と語った。

清水建設 フロンティア開発室 宇宙開発部部長の金山秀樹氏

これを受けて、上村氏も実例を挙げて金山氏の言葉を補強する。「たとえば枕などに使われるテンピュールは、ロケット打ち上げの際に宇宙飛行士にかかる負荷を分散するためにNASAが開発した素材。⽇本でも、⼈⼯衛星の姿勢制御のノウハウが、エレベ
ーターの制御に活⽤されている例がある。宇宙という極限の厳しい環境で研ぎ澄まされた技術が研究・開発されて、私たちの生活を変えるような技術は今後も出てくる」(上村氏)。

袴田氏は「地球の閉鎖系の中だけでは、生態系は拡大せず滅びてしまうのではないか。今の時代、人はようやく宇宙に少したどり着き始めて、国際宇宙ステーション(ISS)にも滞在するようになった。これを今後、加速していく必要はある」と答えた。また、金山氏の言葉に重ねて、「地球が重要なのは、その通り。全員が宇宙へ行く必要はないが、一部の人が宇宙というフロンティアに挑み、生活圏を広げることで地球はより豊かになる」と話した。

宇宙ビジネスは困難が大きいからこそ楽しい

その後、話題は「宇宙ビジネスのやりがい、楽しさ・難しさ」へと移った。「建設会社は基本的に請負業。新たに商品を開発して自ら売り出していくというビジネスは社内にほとんど前例がない。意思決定者に投資判断を仰ぐ上で、宇宙を分かりやすく説明するコミュニケーションが難しく、工夫が必要」と金山氏はいう。

上村氏が金山氏に「私たちのビジネスパートナーに大企業の方がいるが、やはり意思決定に苦労している印象がある。その難しさを克服するコツはあるのか」とたずねると、「社内の意思決定フロー上では宇宙ビジネスだからといって特別扱されないので、コツはない」としつつも、「普段から上層部の人たちをつかまえて、熱く語ってはいる」と金山氏は答えた。大企業から資金調達の経験があるispaceの袴田氏も、「大きな金額の投資も伴うので、トップの方々がまずやりたいと思ってくれるかが大事。トップが決断すると、あとは非常に早いですよね」と賛同した。

また、「困難だから面白い」という金山氏の言葉に、袴田氏、上村氏は大きく頷いた。

ispaceファウンダー・代表取締役の袴田武史氏

袴田 われわれは新しいものをつくろうとしているので苦労ばかりだが、自分はポジティブな人間なので、常に楽しい。特に楽しいのは、自分たちが動くことで、周囲のいろいろなことが変わり始めること。自分たちが提案すれば変わるし、自分たちが動くことでポジティブな動きが出る。これを自分たちが創出できるのは非常に面白いし、楽しいです。

上村 「できないことがある」ということが、人類にとって進歩の原動力。できないことを、1人の力でなく、チームで成し遂げた瞬間、達成感とやりがいを感じます。宇宙は未踏の領域が多い分、「ゼロイチ」に関われるので、一番やりがいがあると思う。逆に難しいのは、サービスインするまでの期間が非常に長いこと。

袴田 われわれも10年近くやっていて、そういう意味ではかかる時間は長いのですが、最近は、サービスインまでの時間は確実に短くなっていますね。一般の方が思われるよりも早く売り上げが立ち、ビジネスモデルが確立していく環境にはなってきたと思います。

宇宙の魅力は「多面性」にある

セッションの最後に、黒田氏はあらためて「宇宙の魅力」を尋ねた。

金山 地上の社会は20年、30年先を見通すことが難しい、不確実性が高まっている時代だと言われます。半面、宇宙というのは、実は意外と「見通せる」のではないか。もしかしたら地上よりもはるかに宇宙のほうが、将来を見通せる可能性があるのではないかと、今日の話を聞いて思いました。宇宙はいつまでたっても難しいところであり続けるでしょうし、そこにチャレンジし続けて、自分も社会も豊かになっていければそれに越したことはないと思っています。

JAXA 新事業促進部 事業開発グループ長・プロデューサーの上村俊作氏

上村 余白がたくさんあるからこそ、そこに夢とか、計画とか、目標が描けますよね。私は宇宙の魅力は、多面性にあると思います。宇宙は今、われわれJAXAだけなく、大手からスタートアップまでの民間企業、法律の専門家などいろいろな方が携わっているし、宇宙へ向かう目的も、科学技術からビジネス、安全保障、教育などの多面性がある。そういう意味で、多様なプレーヤーが集まって厚みのある宇宙開発をやっていきたいと考えています。

袴田 宇宙ビジネスは次の時代の大きな産業になると思っています。それはすなわち、多くの人たちの豊かな生活を支える基盤になるということ。そういった部分が、自分にとって宇宙の一番魅力です。われわれが国際レース「グーグル・ルナ・エックス・プライズ(GLXP:Google Lunar X Prize)」にチームHAKUTOとして参加していた頃、「『夢みたい』を現実に。」というスローガンを掲げていました。そして今、宇宙ビジネスは本当に「現実」になり始めと思います。これを皆さんと一緒に加速して、大きな産業をつくれたらと思っています。

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