シンクタンクのピュー研究所(Pew Research)の新しい研究によると、米国人の60%以上は、企業や政府に追跡されずに日常生活を送るのは不可能だと考えている。この結果は、長年問われている疑問に重要な背景を提供する。どれだけの米国人がプライバシーについて本気で大切に考えているのか? という疑問だ。
米国人は企業がユーザー・データを必ずしも正しく集めていると考えているわけではない。一方でそれを好ましく思っているわけでもない。米国人のおよそ69%は企業が個人情報をユーザーにとって好ましい形で利用するかどうか懐疑的であり、さらに79%は企業が個人情報を悪用したとしてもそれを明らかにしないだろうと考えている。
米国人は誰を信用するのか? その答えは人種によって異なる。たとえば、アフリカ系米国人の73%は司法当局が把握している自身の情報について少なからず心配しており、白人の56%とは差がある。だが全回答者のうち80%以上は、ソーシャルメディアや広告主による監視を懸念していた。
こうした懸念にかかわらず、80%を超える米国人が、個人情報の収集方法について一切管理できないと感じている。
調査では、プライバシー・ポリシーを読んでいる人はほとんどいないことも明らかになっている。無理もない。主要なWebサイトに掲載されている150のプライバシー・ポリシーの調査では、平均的なポリシーを読むには約18分かかり、少なくとも大学レベルの読解力を必要とすることが分かっている。そこまで時間をかけられる人はごくわずかだろう。たとえポリシーを読む時間があったとしても、ほとんどの人はそのサービスが本当に必要ならば同意せざるを得ない。
懸念は理解できる。 フェイスブックとケンブリッジ・アナリティカのデータス・キャンダル以来、 データがいかに集められ監視されているかに関する話題は事欠かない。アプリは ユーザーの位置を知っており、秘密のままにはしない。体重から生理周期、妊娠の有無に関するまであらゆるデータを集め、他の企業とデータを共有する。アップルは、請負業者にシリ(Siri)の個人的な録音を聞かせていたし、ある無名の企業はエアビーアンドビー(Airbnb)のメッセージや食品の注文などのデータを集めている。顔認識テクノロジーは空港と学校で使われている。ちょうど先週、グーグルは大手病院運営会社「アセンション(Ascension)」と提携し、何百万人もの米国人の健康データにアクセスできるようになった。
いくつかの動きは、正しい方向へと向かっている。グーグルとアセンションの提携は、すでに連邦政府が調査に乗り出している。カリフォルニア州の司法長官は、プライバシー侵害でフェイスブックを捜査している。活動家たちは 顔認識テクノロジーが官民両部門で利用されないように、取り組んでいる。民主党の一部議員は、プライバシー侵害を理由に当該企業の年間売上の最大4%の罰金をテック企業に課す権限を米国連邦取引委員会(FTC)に付与する法律の立法化を目指している。現在の罰金よりもはるかに大きな金額だ。ほかにも、デジタル・プライバシーに取り組む新しい連邦政府機関の設置を提案する声もある。一連の動きで、プライバシーは以前よりもはるかに多く注目されている。 しかし依然として、平均的な消費者は個人データが収集されることには大して何もできず、本当の変化が訪れるまでにはまだしばらく時間がかかるだろう。