2019年11月18日、日本マイクロソフトは小売・流通分野における取り組みを披露するプレスラウンドテーブルを開催した。ウォールマートやクローガー、スターバックスなど北米での小売の事例も披露され、店舗のデジタル武装からサプライチェーンの再編、データ分析まで幅広いフィールドでマイクロソフトのテクノロジーが用いられていることがアピールされた。
小売の変革要因は「オフェンスとディフェンス」
マイクロソフトはアマゾンの脅威を受けるウォールマートやクローガーなどと積極的に提携することで、小売業界でのデジタルトランスフォーメーションを進めている。マイクロソフトで小売・流通領域を統括するシェリー・ブランステン氏は、まずは小売業の変革要因について「オフェンス(攻撃)とディフェンス(守備)の両方が必要になること」とまとめる。前者の攻めは顧客のロイヤリティ、コマースのモバイル化、中国におけるイノベーションの促進、次世代の物流などにより、さまざまな機会が生まれていることを指す。また、後者の守りはセキュリティや個人情報の保護、規制などの課題への対応することだ。
続いてブランステン氏は、小売業界における「顧客の理解」「インテリジェントサプライチェーンの実現」「従業員の生産性向上」「小売りの再考」という4つのシナリオとソリューションを披露する。このうちもっとも重要なのは、やはり顧客を理解することだ。「いいものを作っていれば売れたという時代は終わった。顧客の声を360度のビューで集めていかなければならない」(ブランステン氏)とのこと。
マイクロソフトはウォールマート(Walmart)、クローガー(Kroger)、ユニリーバ(Unilever)、スターバックス(Starbucks)など数多くの小売り顧客とパートナーシップを築いている。これらは一部のソフトウェア、店舗システムではなく、バックエンドのサプライチェーンまで含めた包括的なパートナーシップになっている。「ほかの企業をクールにできる」と現CEOに請われてマイクロソフトに入社したというブランステン氏は、マイクロソフトの広範なテクノロジーを採用した“クールな”事例をいくつか披露した。
強みはデータとAI 購買に結びつくテクノロジー
たとえば、イタリアの家具メーカーである「Natuzzi」の最新のショールームでは、マイクロソフトのARヘッドセット「HoloLens」を用いることで、ショールームと家具をオーバーラップさせ、家具を置いたときのレイアウトを体験できるという。「エクスペリエンスをテクノロジーが変えていく。そして、テクノロジーによってイノベーションが起こるだけでなく、実際の購買に結びついている」とブランステン氏は語る。こうした最新テクノロジーの導入によって、従業員の業務負荷や離職率も下がったという。
また、スターバックスとマイクロソフトは強化学習による顧客体験の向上やコーヒー豆のサプライチェーンの見える化、機器の予兆保守を実現するIoTの活用を進めている。さらに、消費財(CPC)のユニリーバーは、工場のデジタルツインを作り、石けんの温度や成分の一貫性を確保し、生産性の向上を実現。全米大手のスーパーマーケットであるクローガーもマイクロソフトと提携しており、販促や価格変更をリアルタイムに行なえるスマート商品棚「クローガーエッジシェルフ」を用いた店頭のデジタル化を進めている。
マイクロソフトの強みになるのは、「データとAI」だ。「顧客を理解するにはデータの活用が必須になる。その点、小売・流通で利用できる共通データプラットフォームを持っているのはマイクロソフトの強み」とブランステン氏は語る。