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中の人が語るさくらインターネット 第13回

「超個体型データセンター」コンセプトで目指す未来像、チームで研究に取り組む理由【後編】

研究員たちが考える、さくらインターネット研究所「これから」の10年

2019年10月29日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

提供: さくらインターネット

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「コンピューティングが社会に溶け込んでいく」これからの10年に向けて

 超個体型データセンターというこれからの目標が定まり、さくらインターネット研究所メンバーの活動も活発化している。今年度は松本氏と坪内氏の論文が国際会議の「IEEE COMPSAC 2019」で採択されたのをはじめ、各メンバーが国内外で多数の論文発表や講演などを行っている。

 たとえば坪内氏と松本氏、はてなの古川雅大氏が共同発表した「超個体型データセンターを目指したネットワークサービス間依存関係の自動追跡の構想」では、リソースの高度な分散化に伴って人間では管理できないほど複雑化していくサービス間の依存関係を把握するための、自動化された新たな監視手法を提案している。

 また松本氏、宮下氏、坪内氏の3名による発表「分散型データセンターOSを目指したリアクティブ性を持つコンテナ実行基盤技術」では、超個体型データセンターを実現するうえで必要になると考えられる新たな抽象化レイヤーを「超個体型データセンターOS」と定義し、その適切なあり方を模索している。

過去数年間、学術的な研究活動の成果を示す発表件数は着実に増えている

 この超個体型データセンターOSについて、鷲北氏が執筆したブログ記事では「各データセンターを総体として透過的に扱えるOS」と定義している。松本氏は、超個体型データセンターの世界になると新たな課題も「山ほど出てくる」と語り、そうした課題を解決するために新技術の研究開発が必要であることを説明する。

 「超個体型データセンターができたときには抽象化のレベルがまた上がり、VM(仮想マシン)やコンテナという単位が現在のOSで言う『プロセス』『スレッド』に当たる存在になるのではないか、そういうアナロジー的なイメージをしています。現在のOS上でアプリケーションを実行するとプロセスやスレッドが立ち上がるように、リソースがどこの拠点のどのハードウェアにあるのかを意識することなく、VMやコンテナを自由に配置、実行、管理できるというイメージですね」(松本氏)

 この超個体型データセンターOSを技術的に実現していくうえでは、たとえばプロセス/スレッド管理やスケジューリングのような、これまでのOSで培われてきた知見や実装が生きてくる可能性もあるという。そのためさくらインターネット研究所では、OSについて専門的な知見を持つはこだて未来大学のシステムソフトウェア研究室(松原克弥研究室)との共同研究を進めていく。同様に、超個体型データセンターのネットワーク領域については、京都大学大学院情報学研究科の岡部研究室とさまざまな共同研究を行う計画だ。

 そのほか個人的な研究目標として、青山氏はKubernetes関連でも話題に上がるエッジコンピューティング、フェデレーション、サーバレスといった領域から、超個体型データセンターOSに近づけるためにはどんな部分を補い、伸ばせばよいかを検討していきたいという。また宮下氏は、論文執筆など研究者としてのバックグラウンドを身に着けつつ、自身の興味分野である「技術者を手伝う技術」により磨きをかけていきたいと述べる。坪内氏は、さくらのパラレルキャリア制度(副業制度)を活用して企業の技術顧問を手がけ、宮下氏や青山氏のように現場課題を収集することにトライしたいと語った。

 最後に松本氏は、研究者としてこれまでとはまったく違う領域の人とも連携し、共同研究や議論を重ねていきたいとした。最近、そのように強く思わせる出来事があったのだという。

 「つい先日、ゆううきさん(坪内氏)とIEEEの国際会議に出席したのですが、そこで印象深かったのが、キーノートやディスカッションの場に薬学や心理学の人も登壇して、コンピューターサイエンスとの連携について語っていたことです。僕らが日本にいて想像するよりも、ずっと広い領域のコラボレーションが起きています。『サービス事業者と利用者』という狭い視点だけでなく、もっと世界中の、まったく違う立場で違うことをやっているような人たちとも連携して研究開発していかないといけないと、強く思いました」(松本氏)

 まさに“コンピューティングが社会に溶け込んでいく”時代には、これまでの枠組みを超えた異分野の研究者どうしの交流や議論も必要になるだろう。松本氏は、さくらインターネット研究所が国際会議のキーノートに呼ばれるような存在になれば、そうした連携も活発になるだろうと述べ、その段階から「また次の大きなステップを踏み出せると思います」と語った。

 「所長の鷲北さんが田中さん(社長の田中邦裕氏)とも話をされて、チームとしてやりやすい研究所のあり方はだいぶ整いました。まずは今のメンバーで、ひとつ大きなことをしていきたいなと考えています」(松本氏)

(提供:さくらインターネット)

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