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社会のインフラを担う企業への成長を目指して

Chatworkの山本正喜CEOに聞いた上場の意義、プロダクトの強さ

2019年09月24日 11時00分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders 写真●永山亘

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 2019年9月24日、Chatworkが東証マザーズへの上場を果した。2011年、業界に先駆けてビジネスチャット「Chatwork」を開始し、最新の導入企業は22万5000社を突破している。昨年から代表取締役CEO兼CTOを務める山本正喜氏に今回の上場の意義、過熱するビジネスチャット市場におけるプロダクトの強みを聞いた。(インタビュアー アスキー編集部 大谷イビサ 以下、敬称略)

Chatwork 代表取締役CEO兼CTO 山本正喜氏

社会インフラを担う企業になるための上場

大谷:上場おめでとうございます。まずは今回の上場の意義について教えてください。

山本:2015年に資金調達をしたのですが、そこから4年ですからわりとストレートに進めたのかなという気がしています。

もともと僕らの会社って長らく上場する気はなくて、自己資金だけでやることを社内にも明言していました。でも、2014年にChatworkでわりと大きな障害を起こしてしまって、「仕事にならない」というSNSがバンバン飛び交って、責任の重さを痛感したんです。もはやChatworkはインフラだから、今までの感覚で事業やっていたらやばい、このまま成長したらエンジニアも足りなくなると。

そこでポリシーを変更して、外部の資金を入れ、社会インフラを担う会社になろうと考えました。今回の上場も、社会インフラを担う会社がプライベートカンパニーじゃダメだろうという考えが基本にあります。

大谷:数年前に比べれば、確かにビジネスチャットはインフラとして根付きつつあります。障害が起こると新聞に載るようになってきました。

山本:企業にとって非常に重要なやりとりを預けていただいているわけですし、もはやチャットが止まるとビジネスが止まってしまいます。だから、それを預けるに足る企業になる必要があります。外から見て信頼に耐えうる会社かどうかを表す方法が上場です。証券会社、証券取引所、監査法人などの審査を経て、事業計画や健全性、継続性などをしっかり見られた上での上場なので、そのプロセスを経てきたことはそのまま信頼につながります。だから、上場の最大の目的は社会インフラを担うに足る信頼性の獲得です。

もう1つの側面はやはりファイナンスの力。資金調達の柔軟性が増し、事業継続性を高めることができます。ビジネスチャット単体で事業やっている会社としては日本初だと思います。

大谷:Slackもほぼ同時期に上場しましたが。

山本:われわれとしてこの数年間準備してきた結果がたまたまSlackさんの上場時期に近かっただけですね(笑)。

ようやくChatworkというプロダクトカンパニーになった

大谷:兄である山本敏行氏を継いで代表取締役CEO兼CTOというちょっと変わった役職に就いてから1年以上経ちますが、社長就任以来やってきたことを教えてください。

山本:昨年の6月に社長就任して、やりたいことはいろいろ思いついたのですが、一番最初にやったのはミッションのアップデートでした。前身のEC studio時代から経営理念として「Make Happiness」を掲げてきたのですが、社名もサービスもChatworkになり、ミッションもより具体的な方がよいと思いました。あと、ビジネスチャットも競合が増え、市場も拡がってきたので、Chatworkならではの存在意義が求められてきたというのもあります。

結果、一人サウナにこもって悶々と考え、ボードメンバーにぶつけて、ブラッシュアップしてできたのが「働くをもっと楽しく、創造的に」です。これでプロダクトや会社の方向性もはっきりしたし、このミッションを自ら体現し、社会に拡げていこうというのをメンバーに共有しました。

大谷:「働き方」に言及しているのが、確かに具体的ですね。

山本:ミッションといっしょにビジョン、バリューを作ったので、すべてがそこに合っているか整理していきました。かなりベクトルが揃ってきたし、EC Studioといういろいろな事業をもった中小企業から、ようやくChatworkというプロダクトカンパニーになった気がしますね。OSの入れ替えをやってきたという感じです。

大谷:昨年、言及されていたグローバルの動向はどんな進捗でしょうか?

山本:基本的にはアジア圏の日系企業とセキュリティ意識の高いローカル企業に対してテストマーケティングしていくというフェーズは変わっていません。とはいえ、アジア各国はまだまだ人件費が安いので、ITを活用するより、人を雇う方が早いという認識です。セキュリティに関してもあまり意識は高くなく、個人向けのチャットで十分という人も多い。G SuiteのようなITツールにお金を払うという意識がないので、ゆっくりですね。

強豪がひしめく中、Chatworkの強みとは?

大谷:日本のビジネスチャット市場の動向についての認識を教えてください。

山本:国内に関してはSlack、LINE WORKS、Chatworkの三強かと思っています。Office 365に付いてくるMicrosoft Teamsはなんだか独自のポジションだと捉えています。

Slack、LINE WORKS、Chatworkって、それぞれ強みが違っていて、得意なお客様にじわじわと浸透しているイメージです。Slackはテック系が強くて、これからエンタープライズに進んでいきそう。LINE WORKSはなんといってもLINEとつなげるので、個人事業者やスモールビジネスに近い領域。われわれChatworkはテック系ではない中小企業に強いと思います。

大谷:その認識は私も同じですね。

山本:では、どこがChatworkの差別化ポイントになるかというと、組織外との接続が圧倒的にやりやすいです。アーキテクチャがオープンなので、わざわざゲストIDを用意せずとも、同じIDで社内外をシームレスにつなげます。

実際にコンサルタントやフリーランス、受託開発の方々がお客様やパートナーとつなぐのにChatworkを使われるパターンはすごく多いです。われわれのボリュームゾーンって、300名未満の中小企業なのですが、彼らはリソースが社内で完結しないので、取引先やパートナーとの境界線があいまい。シームレスにつなげるChatworkのアーキテクチャがうまくはまります。

逆にエンタープライズは情報漏えいのリスクを心配するので、管理者がゲストIDを払い出し、プロジェクトが終わったら削除するといった運用をします。そういった場合は、うちらのアーキテクチャは向いていないかもしれません。

大谷:そこらへんはビジネスチャットとしての向き・不向きで選べばよいわけですね。

山本:Chatworkって2011年にサービス開始していますが、Slackの国内参入やLINE WORKSの無料プラン開始などいろいろな出来事があっても、成長率に変化がないんです。ずっと伸び続けていて、競合の圧力をあまり感じません。だから、ビジネスチャットの市場自体が拡がっている認識です。

先日は御社の企画でLINE WORKSの石黒社長と対談しましたが、どちらかというとビジネスチャットの市場を拡げる仲間とも言えるわけで、競合はメールなのかなというイメージは持っています。

大谷:「メールがビジネスチャットの敵」というのは私も同じ考えなのですが、結局メールをここまで延命させてしまったのは、サービス開始以来一貫してサービスを向上させてしまったGmailの功罪なのかなと思います。

山本:1回ぽっきりのやりとりであれば、やっぱりメールの方が楽です。アドレス知っていればよいし、ツールのインストールも不要なので。だから窓口としてのメールは残ると思います。

でも、受信トレイ(Inbox)の中に複数のコンテキストが入り乱れてしまうメールは、やっぱり非効率なアーキテクチャだと思います。メールは宛先を書き、自己紹介を書き、件名を書いて、初めて本文。いくらGmailが使いやすくても、コンテキストの共有は省けません。その点、Chatworkは継続的にやりとりしている人であれば、コンテキストの共有を省けるので圧倒的に楽です。社内はもちろん、社外とも継続的なやりとりであれば、ビジネスチャットに置き換えられていくと思います。

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