2019年7月18日、SoftBank World 2019に登壇したのは米Slack Technologiesのブライアン・エリオット氏とSlack Japanの水越 将巳氏。Slackというツールによって組織のコラボレーションがどのように変わるのか? 豊富な事例紹介や機能のデモンストレーションでわかりやすく解説された。
Slackが提供するのはチームと個人のベクトル合わせ
登壇した米Slack Technologiesのブライアン・エリオット氏は、Slackについてメンバー同士をつなぐメッセージングプラットフォームであり、既存のシステムや他のツールと連携するチーム向けのコラボレーションハブであると説明する。「調査によると、われわれと日本企業は同じ関心を持っているようだ。業務の改善、専門能力をいかに極めるか、チームワークと調和のとれた働き方、そして刻々と変わる作業環境への適応力などだ」(エリオット氏)。
異なる方向を向いた集団は、各人が違う方向に進むため、それぞれの動きが相殺されて、結局どこにも進めない。しかし、ベクトルを揃えることで、チームは前進できる。このベクトル合わせを実現するのがSlackの価値であり、競争力の源泉だという。現在、世界150カ国、1000万人にのぼるユーザーがSlackを毎日アクティブに利用している。
Slackは日本語版が出る前から、エンタープライズから教育機関、スタートアップまで幅広い日本企業で受け入れられてきた。ユーザー企業・組織のロゴを披露したエリオット氏は、「これらの組織は多くのチームを持ち、共通の目的を持っている。こうしたチーム同士がつながり、ベクトルをあわせることが重要だ。組織の俊敏性は規模に関わらず容易に実現されるべきだ」と語る。
Slackが提供するのは単なるコミュニケーション手段にとどまらない。「Slackが受け入れられたのは、新しい働き方を提案するだけにとどまらず、新しい協業のやり方を提案しているからだ。今日の企業はよりコラボレーションを進め、透明でなければ成功できない」と指摘する。
また、エリオット氏は、数年で労働力の半分がミレニアル世代になるという労働市場についても言及した。「デジタルネイティブな彼らは、テクノロジーはシンプルで、直感的で、便利であるべきだと考える。また、会社の構造も階層型ではなく、よりコラボレーティブであることを期待する」(エリオット氏)。しかし、残念ながらコラボレーションの手段はほとんど進化がない。「メールは使われ始めてもう40年経つが、コミュニケーションは個人間のものという考え方に立脚している。つまり、チームと個人が協業するシーンは想定していない」とエリオット氏は指摘する。その点、チャンネルをベースにしたSlackは、チームと個人での協業を前提としている未来のツールだという。
Slackを使うべき4つの特徴
エリオット氏はSlackの特徴として「チャンネルの効果」「使いやすい検索」「エンタープライズスケール」「Slackプラットフォーム」の4つのキーワードを挙げた。
チャンネルでは、メールのように個人で送受信するメッセージではなく、参加者があまねく同じ情報にアクセスできる。また、検索性も優れている。その点、Slackは機械学習でデータをアーカイブし、メッセージだけではなく、ファイルやアプリケーションのデータにも検索をかけられるようにしている。Slackで1週間にやりとりされるメッセージの件数は10億件に上っており、ユーザーのSlack利用時間はトータルで5000万時間に及ぶという。
さらに金融機関、官公庁、医療分野など規制の厳しい業界での利用に耐えうるよう、エンタープライズクラスのセキュリティやコンプライアンスを実現している。こうした背景から導入を決めたのが、NASAのジェット推進研究所(NASA JPL)だ。100以上の建物、数多くの組織で構成されているNASA JPLでは、従来複数のツールを使っており、コラボレーションも困難だった。しかし、Slackを導入することでミーティングの時間を節約したほか、以前から利用していたGitHub Enterprise、JIRA、Google Hangout、Twitterと連携させることでSlackからの透過的なアクセスを実現したという。
さまざまなツールと統合できるプラットフォームという点もSlackの魅力。Slackが公開しているApp Directoryでは1500以上の連携可能なツールも公開されている。日本でも電子署名のCloudSign、HRテックのカオナビ、ビジネスニュースを提供するNIKKEI、受付の自動化を実現するRECEPTIONISTなどと連携可能になっており、エコシステムは急速に拡大している。先日はNAVITIMEとの連携も発表され、新しい開発者向けのキットがさっそく採用されているという。
Slackの開発者は50万人にも及んでおり、サポートも拡充しているという。実際、Slackの発信したツイートでもっともリツイートされたのは、Slack APIチュートリアルが日本語化されたという発表だったという。また、7月中旬にはSlackアプリを簡単に開発するためのJavaScriptフレームワークである「Bolt」も提供され、日本語ガイドも登場したという。
チャンネルにいながら仕事が進むSlack
エリオット氏の次に登壇したのはSlack Japanの水越 将巳氏。Slackが重視するチャンネルをベースとしたコラボレーションとそれにまつわるデモを披露した。
Slackのチャンネルには3つの種類がある。誰でも自由に参加できるパブリックチャンネルは、開発、営業、サポートなど全メンバーへのアナウンスや、特定の顧客に向けた営業チャンネルなどの組織やプロジェクトで利用できる。また、限られたメンバーだけが利用できるプライベートチャンネルでは、新商品開発や人事・給与の情報など秘匿性の高い情報を取り扱う。さらに、共有チャンネルでは、お客様や取引先、パートナーなど別組織のグループやメンバーと情報共有できる。この3つのチャンネルをうまく使いこなしながら、コラボレーションを図るというのがSlackの使い方になる。
特徴的なのは、これらのチャンネルに業務アプリがつながること。たとえば、営業チャンネルにSalesforceがつながったり、G-Driveとつながったりすることで、Slackにいながら、他のサービスを利用できる。また、ユーザー独自のボットをチャンネルにつなげることも可能だ。外部からの情報を引っ張ってSlackに流し込んだり、ボットを使って承認処理を行なうことが可能になる。
さらに先日発表されたワークフロービルダーを使えば、Slackの中にワークフローを構築し、チャンネル同士をつなげることができるという。「Slackのチャンネルは人と人をつなぐだけではなく、業務やプロセスをつなぐことで、業務の促進と効率化を実現する。チャンネルに溜まったメッセージをナレッジとして共有できるのも特徴の1つ」と水越氏は語る。
水越氏は、デスクトップ版のSlackを開き、3種類のチャンネルについて説明。特定のコメントに対して返信できるスレッドや絵文字を用いたリアクション、複数の会社・組織のメンバーが混在で参加できる共有チャンネルなどのデモを行なった。
営業チャンネルではSlack上のメニューからG Driveの提案書のファイルを開いて、共同編集。ボットを使って適切な権限を付けることもSlackから行なえる。また、「ミーティングをしたい」とコメントすると、ミーティングボットがチャンネルメンバーの空き状況を調べ、最適な時間を提案してくれる。さらに提案書が完成し、クライアントを訪問する際は、コマンド一発でNAVITIME for Slackが最適な経路を導き出してくれる。さまざまなサービスやデータを一元的に扱えるハブであり、数多くのSaaSを利用する企業にとって有用な機能と言える。
続いて検索のデモを披露した。Slackでやりとりすると、メッセージがナレッジとして蓄積するので、これを効率的に探す必要があるという。Slackの場合は、単語で検索すると、メッセージ、ファイル、チャンネルという3つでの検索結果が表示される。ファイルは当然中身まで探すことができ、メッセージの場合は投稿者、チャンネル、期日まで細かく絞り込むことができる。水越氏は、モバイル版からSalesforceと連携されているチャンネルに対して検索をかけ、商談を探しだし、さらにフィールドをそのまま更新するというデモを披露した。
さらに水越氏は、便利なSlackボットのデモも披露。営業実績を通知してくれるボットから数値をメンバーに共有したり、人事チャンネルで規定の業務時間より超過した場合に承認処理を行なって見せた。
最後、水越氏はSlackの導入の結果として、パブリックチャンネルを用いることによる「透明性の確保」、チャンネルと業務がつながることによる「業務の効率化」、そしてコラボレーションの促進による「イノベーションの創出」の3つを挙げた。
新機能も続々! 国を超え、組織を超えて拡がるコラボレーション
再び壇上に戻ったエリオット氏は、メールのブリッジ、ワークフロービルダー、共有チャンネルなどの新機能について説明した。
メールのブリッジは、文字通りメールからSlackへの移行を促進するもの。GmailとOutlookに対応し、受信メールをそのままSlackに取り込める。メールの送受信をSlackから行なえるようにすることで、非Slackユーザーともシームレスにやりとりすることが可能になる。
ワークフロービルダーは、Slackのシンプルなタスクを自動化するもの。コードを書かないで設定できるので、営業やマーケティング、サポートなどさまざまな部門のユーザーが利用できる。マーケ担当がフォームを作って、新しいキャンペーンのアイデアを募ったり、営業がドキュメントをメンバーと共有することができる。
共有チャンネルは、社外のユーザーとコラボレーションできるチャンネルの機能。Slackのチャンネルを使って、外部のパートナー、顧客とやりとりすることが可能になる。たとえば、クラウド型CDNを展開するFastlyでは、世界各国のサポートチームがエンタープライズ顧客とチャンネルを共有して、リアルタイムのサポートを提供しているという。
エリオット氏は、「働き方改革を進める日本の企業はSlackのようなツールを求めています」と語る。2018年11月、自動車部品を製造する武蔵精密工業は本社管理部においてSlackを導入し、社内システムに連携させることで、ITコストの削減と時短を実現させようとしている。また、ゲーム開発を手がけるバンダイナムコスタジオではSlackを社内外のコラボレーションツールとして利用している。さらに近畿大学ではSlackを全職員に導入することで、組織の視認性を向上させ、部門横断のプロジェクトを推進している。そして、日本全国に拠点を持つカクイチは、CEOと社員が直接やりとりできるチャンネルを構築し、コミュニケーションをフラットにした。「絵文字を使うことでエンゲージメントが向上し、CEOも従業員のつながりを見ることができました」(エリオット氏)。
エリオット氏は、「ビジネスを長期的に拡大するのにあたっては、製品を作り、ビジネスを作り、仕事の文化を作る必要があります。みなさまのミッションはどんな事業であれ、社風を作る基盤となる目的を明らかにすることです。われわれは創業以来ずっとみなさまのビジネスライフをよりシンプルに、より快適に、より有意義にすることを使命としていました。その道のりはまだ長いし、終わりはありません。みなさんといっしょにその道のりを歩いて行きたいと思います」とまとめた。