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業務を変えるkintoneユーザー事例 第52回

モチベーションを保つ「管理」を進めたお掃除でつくるやさしい未来

子育てママが働く福岡の清掃業者はkintoneでオフィスレスに挑む

2019年06月27日 10時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●大谷イビサ

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 2019年4月18日に開催されたkintone hive fukuoka vol.4での事例セッション。ラスト5番目に登壇したのは、株式会社お掃除でつくるやさしい未来 代表取締役の前田雅史氏。「『働きがい』+『働きやすさ』キントーン」というテーマでプレゼンが行なわれた。

お掃除でつくるやさしい未来 代表取締役 前田雅史氏

子育てお母さんが働きたい時間に働けるお掃除屋さん

 お掃除でつくるやさしい未来は、マンションの共用部の清掃業務を請け負っている企業だ。1999年に創業し、最初は前田氏がひとりでゴミ拾いするところから始まった。オフィスは福岡県春日市にあるのだが、現在、北は宮城県の仙台、関東には埼玉県春日部、関西には大阪、そしてこの3月からは熊本にも展開している。総勢スタッフは85名で、女性率94%、主婦率92%と、圧倒的に子供を育てているお母さんが多いのが特徴だ。

「会議や掃除の現場に、子供連れでいいよと言っています。何かができない理由に子供を使うくらいなら、連れて行っていいというのが僕の考え方です」(前田氏)

 東北から九州にまで展開しているが、オフィスとしては本社が福岡にあるだけ。よく、遠くに多数のスタッフがいて、どう管理しているのかと言われるそうだ。

「管理という考え方ではなく、営業所がなくても品質が高いサービスを提供できる仕組みを作るために、kintoneを活用しています」と前田氏。

 自分たちが暮らす街を自分たちが暮らしたくなるような安全安心でやさしい街に世代を超えて育てていこうという理念の元、地元で子育て中のお母さんが掃除をするという業務を始めたところ、評判が広まったという。福岡県の春日市でスタートしたものおの、久留米や北九州から依頼が来るようになった。

 しかし、子育て中のお母さんを雇用しているため、フルタイムでは働けない。働きたい時間だけ働いてくれればよく、日中の2時間だったら4人、4時間だったら2人雇ってひとり分の仕事量になる仕組みだ。しかし、春日から久留米や北九州に行くとなると、移動時間がかかり、そのような働き方では対応できない。そこで、前田氏は、それぞれの地域で子育てをしているお母さんたちに働いてもらおうと考えた。

「ここまではよかったのですが、一つ困ったことが出ました。それまでは僕自身が会社に来るスタッフをマネジメントしていましたが、遠方の人をどうマネジメントしていいのかわかりませんでした。どうしたものかと悩んでいたときに、当時福岡県でテレワーク導入支援という事業が行なわれました」(前田氏)

 早速、前田氏は県に相談したところ、テレワークの専門家を派遣することになったそう。しかし、福岡県の企業が福岡県内のマネジメントの悩みを福岡県に相談したのに、紹介されたのが北海道北見市にある企業だったそう。

「これは衝撃的でした。でも、よく考えてみると、これが僕たちがやりたいことでした。ハードはなくてもソフトでつながり、そこでマネジメントしていこうとしていたんだと思うと、すごく腑に落ちました」(前田氏)

モチベーションを保つ管理をkintoneで実現する

 前田氏の言うマネジメントとは、一般的な「管理する」という意味ではなく、モチベーションを保ってあげることだと言う。営業所がなく、ひとりで現場に向かい掃除をしていると、徐々にモチベーションが下がってくるそう。

 ひとりで作業していると孤独感からモチベーションが下がってしまうことが課題としてあった

「心のあり方と、仕事の質は比例します。ですから、人と人がいかにつながって、自分の仕事が社会的にどれだけ尊く、必要なものであるかということを実感してもらう必要があると思って、クラウドを取り入れました」(前田氏)

 同社は、まずサイボウズOfficeをグループウェアとして導入していたが、kintoneもコミュニケーションツールと考えて導入した。サイボウズOfficeは社内での利用だけだったが、kintoneは顧客も一緒に活用することにした。これは、スタッフに自分の仕事が問うというと実感してもらうため。それを感じる条件は「感謝」だと前田氏は語る。

 一般的に掃除の業務では紙の報告書をクライアントに提出する。すると、クライアントは働いている人のことを「おたくのお掃除のおばちゃん」や「お掃除の人」と呼ぶようになる。ところが、kintoneでクライアントと会社をつなぐことによって、直接スタッフの名前で声かけしてもらえるようになったという。

 スタッフは現場に着くと、スマホからkintoneにログインし掃除を開始する。その後、写真を撮って、作業報告を行う。クライアントもkintoneにログインできるので、時々コメントが付けられるという。

「東大阪の物件のオーナーさんから、「○○さん、いつもお掃除してくれてありがとうございます。物件が生きているようです。今後、私たちもがんばって神戸の方に物件を広げようと思うので、その時はお付き合いをよろしくお願いします」とコメントをもらったことがあります。そこで初めて、自分たちがやっていることがいかに尊いことかを感じることができ、モチベーションがあがって、この会社で働いてよかったと思い、次へのステップにつながっていくのだと思います」(前田氏)

 5年前にクラウドを導入してから、稼働地域数は11倍、雇用者数は3倍、清掃契約棟数は7倍という結果を出した。特に、この雇用者数の増加がすごいと前田氏は自賛する。

「われあれは、春日市の外れにある小さな中小企業ですが、東北や関東、関西で小さい子供がいるから働きたいけど働けないというお母さんたちの雇用を産みだしています。これだけ働き手が足りないという世の中で、すごい成果だと思っています」(前田氏)

 クラウドでコミュニケーションすることで、同社のスタッフは九州と宮城の距離を感じていない。同じ価値観を持ち、同じ目標を持って一緒に歩んでいる仲間だと捉えているという。

 一昔前の遠いからとか会えないからとか駄目だという感覚は一切なくなったそう。今はハードがなくても、人と人とはつながれるし、質の高い仕事ができるという。前田氏は「そのためにはクラウドが必要で、僕たちから見ればkintoneだったわけです」という。

オフィスなしでも最高の品質でサービスを提供できる

 日本では2001年にIT(Information Technology=情報技術)基本法ができて、日本中でITと言われるようになった。しかし、「今の日本の省庁でITと言っているのは経産省くらいです。他の省庁やグローバルではICTと言っていますと前田氏。Cはコミュニケーション(Communication)を表している。技術革新というハードの進歩は想像を超えて進んでいるが、それをしっかりと根付かせるにはコミュニケーションをベースに置く必要があるという。

 前田氏は、そこで初めて働きがいややりがい、働きやすさが出てきて、その結果として生産性が向上するということに気がついたそう。そう考えた前田氏は、現在新しい取り組みにチャレンジし、悪戦苦闘中だ。

 すでに宮城県や埼玉県、大阪府でオフィスなしでも、最高の品質でサービスを提供できることを実証してきている。そこで、福岡県春日市にあるオフィスもなくせるのではないかと考えたのだ。

「オフィスには毎日30人くらいのスタッフが出社します。ハードは必要ない、オフィスは構えないでも必ずできるはず。kintoneを使えば大丈夫だと言いながら、旧態依然としたやりかたをしている実態があって、つじつまがあわないなと考えました」(前田氏)

 そして、労働集約型サービス業初の完全オフィスレス企業を目指しているという。4月頭に福岡の事務所で発表したところ、重たい空気が流れたと前田氏は笑った。

「僕たちはそのノウハウをすでに持っているのだから、もっといいものを作っていけると思っています。その時の基礎になるのがICTで、人と人がつながるためのツールとしてしっかり活用すれば、オフィスレスは可能だと思います。僕たちはペーパーレスやキャッシュレスの次には、オフィスレスが来ると思っています」(前田氏)

 その時に必要なのは、ICTの観点でいかにkintoneを使いこなせるかが重要になってくるという。今後の中小企業にとって、kintoneを使いこなすことは、企業のライフラインでありインフラになると思う、と前田氏は締めた。

 そして、kintone hive hukuoka vol.4で代表に選ばれたのが、このお掃除でつくるやさしい未来となった。前田氏はファイナリストとして、秋に開催される「kintone AWARD 2019」にも参加することになる。

 ペーパーレスからキャッシュレス、そして次にオフィスレスが来るというのは驚きの予測だが、実際同社はその理想を実現しつつある。秋の「kintone AWARD 2019」で、そのチャレンジの結果を聞くのが楽しみだ。

お掃除でつくるやさしい未来 代表取締役 前田雅史氏が、kintone hive hukuoka vol.4 代表に選ばれた

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