“第3のモバイルOS”という言葉はもう聞かれなくなってきたが、「Sailfish OS」で知られるフィンランドのJolla(NokiaでMeeGo端末の開発に携わっていたチームが2011年に立ち上げた)にとって、2019年は重要な年になりそうだ。ロシアで進む大規模なプロジェクトにより黒字化も視野に入ってきたのだ。
2015年末に財務状況が苦しくなり、法人市場へのシフトを進めてきたが、「その成果が出てきている」とJollaの共同創業者兼CEOのSami Pienimaki氏は自信を見せる。MWC19でPienimaki氏に話を聞いた。
ロシアやボリビアでSailfish OSベースのスマホが登場
ライセンスビジネスも展開
――現在のビジネス状況をお聞かせください。
Pienimaki氏(以下、同) ロシア国営のRostelecomが、JollaのSailfish OSを開発するロシアの顧客企業を買収した。これにより、Rostelecomは大規模なSailfish OSの実装を行なうことになっている。
南米では、2018年9月にボリビアでSailfish OSベースのスマートフォン「Accione」が発売された。Accioneを開発するJalaとは2年前より提携しており、2018年のMWCで披露した。
Sailfish OSは法人や政府市場をターゲットとしており、Accioneも法人向けの端末となる。ブラジルでも法人向けとして展開する。B2B2Bモデルで、Jollaが法人のニーズに合わせたカスタマイズをし、Jalaが法人顧客に提供する。
――法人市場ではAndroidやiOSも法人向けの機能を拡充している。
重要なのは、OSの機能の問題ではない。Sailfish OSは独立性があり、顧客はソースコードにアクセスできる。これを利用して、自国向けにライセンスできる。ロシアRostelecomはロシア市場で独占的にSailfish OSをライセンスする提携を結んだが、こうした契約ができるOSはSailfish OSのみだ。Android、iOSは不可能だ。
Sailfish OSは柔軟性のあるOSで、オペレーターや端末ベンダーは独自のソリューションを構築できる。ソースコードを使って変更を加えて、あらゆるレベルでカスタマイズができる。これが我々の強みとなる。
――どのようなカスタマイズが行なわれている?
ロシアのデバイスメーカーINOIの場合は、ロシア企業や政府のニーズを受けてデバイス管理ソリューションを統合している。OSレベルでVPNソリューション、ファイルシステムの暗号化、安全なメール/メッセージも統合している。このように、セキュリティー技術の統合がニーズとして多い。従業員が持つデバイスを管理する必要があるが、Sailfish OSでは紛失や盗難の場合にデータを保護することもできる。
Xperiaにインストールしているユーザーも
――1月末よりソニーの「Xperia XA2」ラインで「Sailfish X」(ベータ)を利用できるようになりましたが、反応はどうですか?
これはソニーの「Sony Open Devices Program」を利用してXperiaユーザーにSailfish OSを利用できるようにするというもので、2018年にスタートした。1月に公開したものはAndroidのバージョンを4系から8系にアップグレードし、Androidアプリケーションのサポートがパブリックベータとなった。
コンシューマーはAndroidデバイスとして対象のXperia XA2ラインを購入し、Sailfish OSをインストールして利用できる。ソニーのSony Open Devices Programは素晴らしいプログラムだ。このようなオープンなプログラムを展開しているところはない。
――Xperia向けのダウンロードの数は? Sailfish OSを利用するコミュニティーはどこが活発ですか?
公開していないが、万単位。反応がこれだけあったことに驚いている。
Sailfish OSのコミュニティはプライバシーに敏感でLinux文化があるドイツをはじめ、欧州は強い。米国でもニーズがあるが正式には市場に参入していない。アジアでは、日本でファンが集まっていると聞いている。日本で正式にSailfish OSを提供しているわけではないが、ファンが利用している。
一方で、Sailfish OSのダウンロード提供は我々のメインのビジネスではない。OSは50ユーロで提供しているが、ここで収益を得ようとしているのではなく、コミュニティーの声に応えるのが目的。Sailfish OSを使いたいコンシューマーが利用できるようにする方法として重要だと感じて続けている。
AndroidとiOS以外の選択肢への要求は必ずある
――Jollaは設立から7年が経過しました。これまでを振り返ると……
決して簡単ではなかった。最初に打って出たコンシューマービジネスがうまく行かなかった。コンシューマービジネスは収益性が低く、大きな損失を出してしまった。2015年末には破産申請の危機も迎えた。そこで、新しい戦略を見出す必要があり、デバイス事業をやめて、法人向けにフォーカスすることにした。
簡単ではなかったが、続けることができたのは、モバイルプラットフォームの現状だ。現在、Android、iOS、そしてSailfish OSと3つしかないが、こうした状態が永遠に続くわけではない。選択肢へのデマンドがある。
財務的には苦しい状況が続いているが、ロシアのビジネスが進むことで大きく改善できる。数年がかりでの投資が利益を生むと期待している。収益に余裕が出てきたら、法人以外の市場に拡大したい。
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