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ブロックチェーンはバズワードのまま終わるのか、エマーゴ児玉氏に聞く

2019年03月20日 03時30分更新

文● ASCII

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EMURGO

 仮想通貨を支える技術として注目を浴びたブロックチェーンだが、データの改ざんを防ぐ分散台帳技術は、仮想通貨の分野に限って有効な技術ではない。しかし、その応用が今後進んでいくためには、取り組むべき課題が数多くあるのも事実だ。

 もっとも大きな課題は成功事例の少なさである。その裏を返せば、ブロックチェーン技術への理解度の乏しさ、さらに言えば、ブロックチェーン技術を支える技術者の根本的な不足ということになる。この点は「タマゴが先かニワトリが先か」の議論と同じで、有望な事例が増えれば、その分野を志す技術者の数は増える。しかし、技術者の数が増えなければ有効な事例も生まれにくい。このスパイラルが正の方向に動くか、負の方向に動くかはやってみなければわからないというのが現状ではないか。

 ブロックチェーン技術の目的は煎じ詰めれば「信用の担保」である。通貨が成立するために最も重要なのは「信用」である。次世代の通貨を支える技術として相性はよかった。いまだその信用は破られてはいないが、仮想通貨を運用していくうえでは別の形で信用を担保することも必要だった。一方で信用の担保には、コストやリソースとのバランスも不可欠だ。その意味で、信頼性を担保しつつも、負荷が軽く、より導入しやすいブロックチェーン技術の開発も求められている。安心を得るために、何が担保されるべきかの議論は続いていて、そのために新しいブロックチェーン技術の開発も進んでいる。

ブロックチェーンをサプライチェーンに応用する

 やや抽象的な議論から始めてしまったが、ブロックチェーンを普及させるためにいま何ができるかを考えるのは、投機的な意味合いで仮想通貨の熱が醒めた現在であれば有益だろう。人材育成、新たな応用分野、そして次世代のブロックチェーン技術を普及させるための施策という観点で積極的な取り組みをしているエマーゴの代表取締役 児玉健氏を取材した。

 エマーゴは、カルダノという次世代のブロックチェーン技術の導入を促し、この技術を応用したプロジェクトや組織を構築し、投資やアドバイスを行っている。最近では、ブロックチェーン技術の普及に向け、技術者の育成やベンチャー企業の支援にも積極的だ。

 技術者の育成という観点では、最近インドで本格的な教育ビジネス「EMURGO Academy」を開始した。年内に200の大学と提携し、講座を開設する計画で、コンピューターサイエンス分野を中心に2500人規模の学生を教育していく計画だという。内容はブロックチェーン全般で、インドで一定の成果を果たせれば、他国への展開も計画している。現状ではブロックチェーンの経験を持った技術者の数は少なく、雇用難という状況もある。そこで採用に直結した知識が得られる講座を提供する。

 ベンチャー支援という観点では、2月にアクセラレータプログラムについて発表した。一例としては、DNA解析の技術に取り組んでいるHelixworks社への支援がある。Helixworksは、あらかじめスプレーを振っておいたキャベツに機械を通すと、その産地の特定ができる技術を開発している。農作物に不具合があった際、その廃棄のために大きな損失が発生するが、生産地や出荷時期をより厳密に把握することで、その損失を最小限に抑えることができる。これをブロックチェーン技術と組み合わせることで改ざんを排除したより信頼性の高い情報を得ることができる。

農作物の信頼性や、品質の担保を、ユースケースが急務

 より信頼度の高いサプライチェーンはブロックチェーン技術の応用が有望視されている分野で、Helixworksはその支援のためにエマーゴが157社から4社を選定した中の1社となる。またサプライチェーン分野では、インドネシアのコーヒー生産における模造品や粗悪品の排除にブロックチェーンが有益に働くかどうかの技術検証も実施している。コーヒーは複雑な流通経路を経て、消費者のもとに届く農産物のひとつであり、信頼性が高く、高品質なものを手に入れるために有効であるという考えだ。

 児玉氏は「世界中の国すべてで言えるが、ブロックチェーン=仮想通貨という認識になっているが、その応用のひとつに過ぎない」とコメント。ブロックチェーンの可能性を理解している人は一部で、仮想通貨のマーケットが縮小する中、その印象がマイナスの方向に変化がないようにしたいとした。

 具体的な応用分野としては、上述したようなトレーサビリティや物流に加えて、医療分野や政治システムなどがあるが、「具体的にブロックチェーンに携わったことのない企業がほとんどで、導入コストやそれに見合った成果などがクリアではない」とも語る。そのうえで、「小さくてもいいので、成功体験を作り、ストーリーを作っていくことが重要だ」と語った。

 児玉氏の言葉を借りれば、エマーゴが手掛けるカルダノのみならず、ブロックチェーンの分野は「ビジネスを作るフェーズに変わってきた」。それをどう成功させるかが重要だ。過去には、バズワードだからという理由で、ブロックチェーンを取り込んだプロジェクトも多かったとするが、「本当に必要性があるものに注目すべきだ」という。

 「重要なのは、ユースケースが増え、一般消費者がブロックチェーンを使っていると気付かないうちに、自然とその恩恵を受けていられるようになること。いいサービスを提供することを実現するのが、2019年のフェーズだ。これができれば、一気にブロックチェーンの普及を加速できるだろう」とする。

 ブロックチェーンが社会の基盤となる技術になるか、それともこのまま失速してしまうかは、まさに正念場といったところだろう。

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