データで見るVTuber 第5回
この2週間で注目が集まったバーチャルYouTuberを分析 2019年2月23日~3月8日
「斗和キセキ」大ブレイクの影にあのVtuber? マイクラで友達を増やしていく「夢月ロア」も紹介
2019年03月14日 17時00分更新
ガンダムがきっかけでブレイクしたキセキのVTuberに注目
現在7000を超えるバーチャルYouTuber(VTuber)。この連載では、このうち自分がチェックしている約7600のVTuberのTwitterアカウントから、過去2週間でフォロワー数が増加したVTuberを2名ピックアップし、どのような動きでどのようなフォロワーが増加したかを分析して紹介しています。
今回は2019年2月23日から3月8日にかけての2週間の変化を見ました。
今回は3月1日にデビューした新人VTuber「斗和キセキ」が劇的な大ブレイク。この連載で紹介した新人VTuberでは「ピンキーポップヘップバーン」「バーチャルジャニーズ」を超えるブレイクとなりました。
ほか、初投稿で12本の動画を投稿して話題をあつめた「なちょこ」、3月8日にTwitterをスタートさせたにじさんじ新人の「御伽原江良」や「真堂雷斗」(御伽原江良は執筆時点ではまだ動画・配信なし。また真堂雷斗は3月12日ににじさんじから契約解除され引退しました)、3月にTwitter開設した「ハッカドール2号」、まだ投稿等はないものの1万フォローを超えたOverideaの「ミア・ルーニス」など新人のヒットが目立ちました。
以前からのVTuberでは第3回で紹介した「白上フブキ」、第2回で紹介した郡道美玲と同時デビューの「夢月ロア」、第1回で紹介した「夢咲楓」が今回も好調。以下ゲーム部関連の「道明寺ここあ」、にじさんじの「本間ひまわり」「久遠千歳」、「犬山たまき」、第3回紹介の「「ベルモンド・バンデラス」、「ディープウェブ・アンダーグラウンド」などが人気です。
バーチャルYouTuberと言われるもののの、VTuberの活動の場所はYouTubeだけではありません。YouTubeにチャンネルを持たないVTuber、YouTubeを活動の中心としていないVTuberもいます。こうしたVTuberも共通して活用しているのがTwitterであり、Twitterはプラットフォームに依存せずVTuberの注目を比較するのに有益なサービスです。
VTuberについて、YouTubeのチャンネル登録数とTwitterのフォロワー数は相関することもよく知られています。またYouTubeのチャンネル登録と異なり、TwitterはVTuberの個々のフォロワーの情報を取得することが可能なため、後述のようなフォロワー傾向の分析などにも有効です。こうした点から本調査ではTwitterアカウントのフォロワー数を中心に調査を行なっています。
斗和キセキのブレイクをデータで分析!
「斗和キセキ」(とわきせき)は3月1日にデビューした新人VTuber(斗和キセキのYouTubeチャンネル)。VTuber界で著名な「じーえふ」氏が同時にプロデュースを発表した5名のVTuber(所属はそれぞれ別)のひとりです。初投稿では実写のバンドとともに「画面から出れないの」と歌うMVと、画面を割られないために必死でプロレスラーとトークする自己紹介動画を投稿し、デビューから「迂闊に次元を超える」活動をアピールしました。
この斗和キセキのブレイクのきっかけはガンダム。斗和キセキは背中に特徴的な三角形のユニットを付けていますが、このユニットがアニメ『機動戦士ガンダムSEED』のスピンアウト企画「機動戦士ガンダムSEED ASTRAY」のマンガに登場する「ガンダムアストレイ レッドフレーム改」の装備タクティカルアームズIILのデルタフォーム形態に似ているのを指摘するツイートに斗和キセキが反応したことがブレイクの起点となりました。
前日まで斗和キセキは3000フォロワーに満たなかったものの、「レッドフレーム改」に反応した4日は夜までに3万フォロワーを突破。翌日には約7万フォロワーに達し、現在9万フォロワー近くと劇的なブレイクを果たしました。
ブレイクの最中にはレッドフレーム改のガンプラが全国のショップで急に売れる、サンライズライツ営業部から斗和キセキにリプライが来るなどの出来事も派生し、この経緯から斗和キセキのフォロワーはガンダムオタクが多いと見られがちですが、実際にはガンダム関連のアカウントをフォローしているのはごくわずかで、明確なガンダムオタクのフォロワーは少ないようです。
またプロデュースの「じーえふ」氏のフォロワーも一部で、プロデューサーの知名度も直接的な影響とはなっていません。
斗和キセキのフォロワーが最も多くフォローしていたのはVTuberの「輝夜月」。以下VTuberをフォローしているフォロワーが多く、こうしたVTuber関連のフォロワーが7割を占めます。比較的VTuber外のフォロワーも多いものの傾向としては第1回で紹介した「ピンキーポップヘップバーン」に近く、従来からVTuberを追いかけている層が話題のVTuberの登場に反応したという構図が近いと思われます。
VTuberをフォローしていないアカウントについてもよくフォローしているのはソーシャルゲームの公式や人気同人作家やイラストレーターで、VTuberファンと近い傾向のオタク等のフォロワーを集めていると評価できます。ガンダムはオタクの教養ですので、もちろんこれらのフォロワーでもガンダム好きは多いでしょうが、斗和キセキがガンダムオタクにウケてブレイクした、とは言い切れないようです。
もちろん動画のクオリティーや斗和キセキのTwitter対応の面白さなども大きく、ガンダム好きやじーえふ氏のファンなどもありますが、斗和キセキのブレイクは複合的なもののようです。
そうしたブレイク要因の1つとして、第3回で紹介した「白上フブキ」の影響が挙げられます。
じつは斗和キセキのブレイク前の初期フォロワーの大半は白上フブキのフォロワーです。白上フブキは斗和キセキのキャラクターデザインの「泉彩」とはホロライブゲーマーズのパートナー「大神ミオ」のキャラデザでもあるなど縁があり、斗和キセキのデビュー直後に紹介しています。この関係で白上フブキのフォロワーの一部が斗和キセキをフォローしたと考えられます。
また斗和キセキがレッドフレーム改に言及した後も比較的早期から白上フブキは反応。積極的に斗和キセキを紹介し、斗和キセキのイラストなども投稿しました。白上フブキは交友も広く、彼女のツイートがほかのVTuberやVTuber好きのイラストレーターの目について反応を引き出した側面も予想されます。
Twitterのフォロワー傾向の変化などのデータをふまえると、レッドフレーム改への反応で斗和キセキが面白いと思われた早期に白上フブキが紹介したことでVTuber界隈に広がりフォロワーが急増、その後バズがバズを呼ぶ状況にハマってVTuberファンを中心にフォローされていったという構図が自分には自然に思えました。
斗和キセキのバズりのなかで同じ泉彩デザインの「姉妹」である「紡絆にあ」「大神ミオ」もよくネタにされてフォロワーを増やしています。「白上フブキ」のフォロワーも同様に加速しており、この期間で予想より早く10万フォロワー達成、また先日YouTubeのチャンネル登録数も10万人を達成しました。斗和キセキを「推し」たことが、結果的に白上フブキの「推され」にもつながったようです。
にじさんじマイクラ鯖と夢月ロア
着実とにじさんじに馴染んでいく新人たち
「夢月ロア」(ゆづきろあ)は1月17日にデビューしたにじさんじの新人バーチャルライバー(夢月ロアのYouTubeチャンネル)。キャラクターデザインは「ベコ太郎」。魔界からやってきた13歳の悪魔。第2回で紹介した「郡道美玲」と同時のデビューで「半同棲」と言われ、お互いを話題にすることや二次創作されることが多いです。
これまでは郡道美玲人気の影響でゆるやかに伸びていましたが、2月下旬より第3回で紹介したマインクラフトのにじさんじ鯖に参加。プレイの中でにじさんじの先輩ライバーとからむことが増えて注目されました。
特に最近やっと収益化して話題になった「でびでび・でびる」とはお互い悪魔ということもありコラボが多く、2人の微笑ましいやりとりでファンになった人も多いかと思います。特に一緒に猫を探しに行ってオウムを捕まえた帰りに「ベルモンド・バンデラス」の家に落ちた回は必見。最近では同じく悪魔仲間の「魔界ノりりむ」や1月デビュー仲間の「久遠千歳」ともマイクラコラボをすることが増えました。
増加フォロワーはやはりにじさんじ関係がほとんどですが、フォロワー規模も考慮すると「郡道美玲」が相変わらず多いほか、よくコラボする「でびでび・でびる」やよく話題にする「ベルモンド・バンデラス」、コラボ経験がありマイクラでの活動も活発な「鷹宮リオン」「舞元啓介」などのフォロワーも目立ちます。
「夢月ロア」だけでなく「久遠千歳」や「童田明治」なども最近は積極的にマイクラで活動しています。1月にデビューしたにじさんじ新人ライバーも活動1ヵ月以上を経て少しずつ先輩ライバーとも馴染んできており、マイクラが仲間と打ち解けるための代表的な場になってきたようです。
夢月ロアとでびでび・でびるがジャングルに猫を探しに行ったときの配信。中盤ででびでびのオウムを探した後の2人のやりとりが微笑ましい。終盤のベルモンド・バンデラス宅の天井を掘り抜いた箇所も面白い神回。
地下室づくりに「でびでび・でびる」「魔界ノりりむ」「久遠千歳」とともにコラボした回
新人VTuberと先輩VTuberの良い関係
今週は斗和キセキの劇的なブレイクが話題となりました。記事では1つの要因として白上フブキの影響を示しましたが、今回のようにVTuberのブレイクには先輩VTuberの存在が非常に大きいと思われます。夢月ロアなどグループ内で自然とコラボが進んでいくにじさんじのように、グループ所属のVTuberはこうした点でもアドバンテージがあります。
今回取り上げた両者の例をみるといずれも先輩側の指標にも良い影響が出ており、先輩VTuberが新人と関わってバズらせることは、先輩側にもメリットがあることがわかります。新人は話題にされやすいことに強みがあり、界隈への広めやすさでは先輩に強みがあるため、良い新人を見つけて積極的に関わってバズらせるのは先輩VTuberにとっても有効な戦略と言えるのかもしれません。
また今回は白上フブキ・郡道美玲・マイクラなど過去に取り上げた話題に関連した動きが目立ちました。VTuberの動きは連鎖しており、連載というかたちで追いかけるのは有効なようです。ともあれ連載は次回で最終回。最後もお付き合いいただけますと幸いです。
告知など
調査対象のVTuberのTwitterアカウントをまとめたリストはhttps://twitter.com/myrmecoleon/lists/VTuberほかで公開中。ニコニコ動画での「バーチャルYouTuber」タグの盛り上がりも紹介している「ニコニコ動画統計データハンドブック2019」はCOMIC ZINに委託中。
筆者紹介:myrmecoleon
趣味で同人誌やニコニコ動画関連の研究をしてる人。コミケ・ニコニコ動画・pixiv・deviantARTなどの調査を行ない、『ニコニコ動画統計データハンドブック2019』など同人誌としてコミケで頒布。2014年に自身の企画で「次元の壁をこえて 初音ミク実体化への情熱 展」を開催。元明治大学米沢嘉博記念図書館スタッフで元ニコニコ学会β実行委員。
Twitterアカウントは@myrmecoleon。
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