Tileのデザインパターンを探る
もう少しTileをメタ的に捉えれば、Bluetoothタグを低消費電力で稼動させっぱなしにして、スマートフォンと紐付けて、アプリからタグとの接続の有無や、タグのボタンに対するアクションを設計するという仕組みです。
ちょうど同じ時期に、腕に装着するアクティビティトラッカーも話題になっていたことから、Bluetoothなどでスマートフォンと接続するデバイスがさまざまな形で検討されていた時期だったんですね。
スマートフォンとシンプルなBluetooth機器をつないで、データをやりとりするというデバイスの設計は、スマートウォッチやスマート家電などにも通じるものがあります。しかしTileは近くにあるかどうか、そして音を鳴らしてどこにあるかを見つけられる、というシンプルな目的を果たしています。
Bluetoothデバイスは必ずしもインターネットに接続されている必要がない点も、IoTデバイスの設計とは異なります。最近ホームスピーカーからTileを呼び出せるようになりましたが、家の中で鍵の在処が見つけられれば、それで良いわけです。本来はネットは必要ありません。
その上で、Tileはグローバルな探し物ネットワークをクラウド(群衆の意味、CloudではなくCrowd)で構築しています。自分のスマートフォンの範囲に自分のTileがない場合、他のTileユーザーがアプリで電波を拾った場所を活用できるのです。
これを「Crowd GPS」と呼んでいます。Tileユーザーが増えれば増えるほど、ネット接続機能を持たないTileタグをなくしたときの捜索範囲が広がっていくわけです。Tileを使い始めたら、どんどん広めたくなってしまう仕組みがここにあります。
とはいえ、鍵にしてもカバンにしても、Crowd GPSに頼らなければならなくなった段階で、かなり危機的な状況ですよね。鍵が手元にない場合は家には入れなくなるわけですし、カバンがないというのはいくらTileタグがあっても盗難の危機にさらされている状態だからです。
なくしてはならないモノにTileをつけるのですが、なくしてはならないものをなくさないようにするのは当たり前のこと。自分でズボラと書きましたが、なくして困るモノをなくさない人なだけ、なのかもしれません。
実際、Tileを導入して3ヵ月ほどが過ぎましたが、実は鍵の在りかをTileに頼って発見したことはありません。ただ、1年ずつボタン電池を交換する保険だと解釈すれば、十分納得ができる種類のモノでもあります。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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