クルマのエンジン音と赤ちゃんの関係性
年末迫る12月17日の朝8時、本田技研工業(ホンダ)は同社の公式Twitterアカウントで「クルマのエンジン音で赤ちゃんは安心する」とツイート。その実験過程や結果と共に使用した自動車のエンジン音を公開した。SNSの力によってそれは一気に拡散、3700を超えるリツイートと100万回を超える動画再生を記録した。
しかし、本当に赤ちゃんはエンジン音で泣き止むのだろうか。そして、そもそも何故このような実験をしたのか? 実際に生後6ヵ月の赤ちゃんと共に青山一丁目の本田技研工業の本社を訪問。エンジン音で赤ちゃんを安心させる「SOUND SITTER」の仕掛人にお話を伺うことができた。
「はじめまして」と登場したのは、SOUND SITTERの仕掛人の登那木さん。名刺を見ると、広報のウェブ部門を担当している、その中でもいわゆるSNSの世界でいう「中の人」だ。広報の方だけでこのような事はしないだろうと勝手に思った筆者は、挨拶をそこそこに「SOUND SITTERは何名くらいのプロジェクトだったのですか?」と切り出した。すると登那木さんは「関係各所や外部にご協力頂いておりますが、基本的に私ひとりです」と答えるではないか。てっきり産休明けの女性エンジニアが自身の経験を元に……という話を想定していた筆者のシナリオは大きく崩れた。
それではなぜ登那木さんはエンジン音で赤ちゃんが泣き止むということを思いついたのだろうか。「赤ちゃんがいるママさんにお話を伺うと、突然泣き出して周りに迷惑がかかるから、なかなかおでかけしづらいという声を聞きます。私の場合もそうでした」と、企業人というよりパパの優しさあふれる顔で、ご自身の体験談を語られながら「いっぽう自動車メーカーの人間として、移動を手助けする企業として、クルマ以外でも赤ちゃんとママさんが、もっとお出かけしてほしい。その手助けができればと思っていました」
仕事柄ウェブサイトやSNSをよく見ているという登那木さん。「ちょうど自動車の音で赤ちゃんが泣き止んだ、という投稿を目にしまして。最初はよくある都市伝説の一つだと思っていたのですが、これは面白いのではないかと思ったのです」。早速、専門家の元を尋ねた。「胎内音に近い音が新生児の鎮静効果に役立ち泣き止む可能性があるというではありませんか。もう少し具体的に申し上げると、子宮の中で聞こえる音はお母さんの血流音や心音などの低い周波数が多く含まれていて、それがエンジン音に近いかもしれないと」。
そこで、ホンダ車を動態保存するホンダコレクションホールのYouTubeチャンネルにあるエンジン音37種類を専門家に分析依頼。すると乗用車よりスポーツカーがその音に近いということがわかった。ならばと、登那木さんたちはマイクを持ってホンダコレクションホールに趣き、数台のスポーツカーのエンジン音を収録。
それを再度検証したところ、ホンダのフラグシップスポーツカー、NSX(NC型)の3.5リッターツインターボのエンジン音が、もっとも胎内音に近い周波数カーブを描いていた。