ドイツ・ケルンで開催中の写真関連展示会のphotokina 2018。開幕直前に独ライカ、パナソニック、シグマが共同で発表したのがLマウントアライアンスです。ライカのLマウントを2社がサポートして製品を提供していくというアライアンスですが、このアライアンスの最初の製品を発表したのがパナソニックです。
今回は開発発表という位置づけで、発売は2019年春とまだ先ですが、同社初のフルサイズミラーレスカメラの投入となり、大きな注目を集めました。
発表された「LUMIX Sシリーズ」は、どんな製品を目指しているのでしょうか。同社の担当者に話をうかがいました。
Lマウントに決断したのは
「35mm」の父=ライカが作ったマウントだから
――3社のアライアンスはいつごろから話を進めていたのですか?
津村氏 いつからというと難しいですが、パナソニックがフルサイズの検討をしたのは2010年ごろからです。ただ、当時はマイクロフォーサーズの提供から2年しか経っておらず、まずはマイクロフォーサーズをしっかりとやろうということになりました。
2014年になって、もう一度本格的にフルサイズができないかと具体的な検討に入りました。そうして、さらに2016年になって、今回のアライアンスの話を進めるようになりました。最初は、パナソニックとしてフルサイズを検討してきましたが、最終的にライカさんと一緒にやることになりました。
――Lマウントを選択した理由は
フルサイズを選択する中で、マウントに関してどれが最適なのか、ライカさんとは長い協業があったので、Lマウントも視野に入っていました。マイクロフォーサーズとの互換を大事にして新規マウントを作るか、Lマウントを選択するか、全く新しいマウントにするか、議論を重ねてきました。
その中で、今後も作品表現をするというニーズがあり、個性のあるレンズが揃うことが大事だと考え、互換性よりもLマウントを使うことで、そうした広がりがあるということで、Lマウントを選びました。
坂本氏 前回のphotokina(2016年)で、ライカさんと協業の強化を発表しました。それを皮切りに、従来よりも一歩進んだ形の協業に入っており、それが今回の発表に繋がりました。
――マイクロフォーサーズとLマウント、2つのマウントの両立は可能ですか。
津村氏 マイクロフォーサーズはオリンパスさんと共同で、マウント規格もオープンなので色んなレンズがそろえられます。何か特徴のある部分を見いだしながらレンズを強化していけるシステムです。1社で全方位的に作っていくというものではありません。また、システム自体の完成度も上がっています。フルサイズでも、3社のアライアンスによって個性的な部分をチョイスして作っていけます。
伏塚氏 どちらもミラーレスなので、レンズ技術の転用は容易ですし、市場性があって作れる限りは、両立は可能だとみています。開発面でも、うまいリソースの振り分け、技術の共有は展開できると踏んでおり、十分両立できます。全方位(でレンズを作ること)から解放され、ターゲットを絞って提供できます。
――今回、シグマさんが参加した理由は。また、ほかの会社がアライアンスに参加する可能性はありますか。
坂本氏 アライアンスの発起人自体は当社です。
津村氏 シグマさんとパナソニックは、企業間の関係が割と長く、誰かが選んだというより、選択肢を考えて意気投合して賛同してもらえるようになったのがシグマさんです。
伏塚氏 シグマさんの企業ポリシーは、パナソニックとしても共感する部分が多く、高性能なレンズを真摯にモノ作りをしているところに共感を覚えて、是非一緒にやりたいと考えています。
坂本氏 5年後10年後は分かりませんが、当面は3社でアライアンスをやるという計画です。
伏塚氏 マイクロフォーサーズはオープンですが、Lマウントはクローズです。ライカさんがライセンス元なので、判断するのはライカさんになります。
――Lマウントは、フルサイズミラーレスカメラに最適なマウントという判断ですか。
津村氏 内径の大きなマウントやショートフランジバックは、広角レンズの性能が高めやすく、設計の自由度が高くなります。マウント径は大きければいいというわけでもないし、フランジバックは短ければいいというわけでもなく、最適なバランスがあります。
LマウントはAPS-Cセンサーも入るし、フルサイズでも性能を最大限に出せる、ベストならバンスを考えた結果のマウントだと認識しています。ライカさんは35mm判を発明した会社なので、もっとも知見が多いと思うので、そのライカさんが考えたジャストなバランスのマウントだと判断しています。Lマウント自体はAPS-Cもサポートしていますが、我々がやるというわけではありません。
――今回、47MPのセンサーと24MPのセンサーをそれぞれ搭載した2機種を用意した理由は。
津村氏 共通のコンセプトは「表現力の覚醒」です。お客様の表現力を高めることがコンセプトで、風景やコマーシャルフォトなどは、突き詰めると高画素のセンサーが必須になります。それに対し、高感度で低照度に強いことは、暗所撮影の多いウェディングやジャーナリズム系で必要となります。こうした、まだ未開拓の大きなニーズがあるとみています。
ウェディングなどでは動画を使う人も増えており、4K動画を考えると47MPは必須ではありません。24MPで高感度の動画という特徴が出していけます。「表現力の覚醒」は方向性が広いので、1台でカバーするよりも2台でしっかりとカバーしたいと考えています。
プロフェッショナルカメラの作り方は
プロカメラマンと、とことんつきあうこと
――マイクロフォーサーズとのすみ分けはどうしますか。
津村氏 重なる、重ならないと棲み分けるよりも、マイクロフォーサーズはその良さが生きる市場があり、お客様の期待もあります。お客様が自ずと棲み分けたり、併用してもらえるようになると判断しています。
――Lマウントとマイクロフォーサーズでレンズの互換性はないですよね。
津村氏 互換性を最優先に考えると、フルサイズでもフランジバックを長くしないと成立しないと言うこともあり、どちらがお客様にとって最適なのかを考えました。フルサイズでも光学設計の自由度を失うシステムか、それぞれいいものを提供してシーンによって使い分けていただくか。さんざん考えた結果、互換性はないが、それぞれいいものを提供する、ということにしました。
――プロフェッショナル向けのカメラということで、工夫した点はありますか。
プロに認められるものを作れない限り、フルサイズに参入する意味がありません。LUMIX G9から、プロからの学びをしながら投入しました。プロにフィーリングを見てもらいながら作りましたし、フルサイズはさらに高い要求があるので、色々なデザインを作りました。
例えばシャッターフィーリングを追い込めるように設計から変えて、最後の最後までチューニングをしながら仕上げていきました。
伏塚氏 シャッターも精度のいい、本当のシャッタースピードが担保できるようなものにしたり、耐低温も0度などではなくもうちょっと踏み込んだ仕様にしています。プロにヒアリングをしていると、壊れたり途中で止まったりがあってはならないといいます。それはかなり気をつけて意識しながら、LUMIX GH5などで得た学びやフィードバックをふんだんに反映しました。信頼性を意識して作り込み、ボディレイアウト、フィーリング、ジョイスティックの配置もあれこれ試行錯誤して、何度も設計変更しました。
津村氏 何度もプロの撮影に同行して、現場での使用方法、何を求めているか、何か後構っているか、かなりの数を調べていました。極寒の中で手袋で操作したときの操作性といったものもいろいろとテストをして改善していきました。
低温の試験環境で動作すればいいものではなく、極寒の地だとファインダーを覗いたときの鼻息でボタンなどが凍ってしまうことがあります。そういう場所に重要なボタンを配置してはダメなのです。
伏塚氏 デュアルスロットを採用したのもプロにはバックアップが必須という声があったからですし、HDMI端子もType Aにしたり、ひとつひとつこだわりました。搭載しなければいけないものは妥協せず、そのため、あのサイズ感になりました。
大口径レンズはプロには必須で、それをつけたときのバランス感も大事にしています。カメラを動かしたときの不安定だといけないので、レンズを含めたサイズ感を追い込んでいます。
フルサイズセンサーこそ
コントラストAFで追い込む意味がある
――フルサイズになって、コントラストAFとDFD技術でのAFは影響を受けますか?
津村氏 フルサイズになったから難しいと言うことはありませんが、より精度を高くするためのチューニングレベルを高めたり、エンジンの高速化を図ったりしています。AFで動くレンズの重量をしっかり設計するとか、そういう配慮をゼロからしています。
伏塚氏 フルサイズだと大口径レンズをつけたときの精度はコントラストAFの方がいいので、課題となるピント位置の方向性を決めるためにDFD技術による演算でカバーし、被写体の認識はディープラーニングを使っています。マイクロフォーサーズの顔や瞳、人体の人気は、そういった認識技術を生かしています。この認識技術とDFD、コントラストAF、レンズの制御・レンズ玉の軽量化。この三位一体でAFの高速性と高性能を追求しています。
相対的にレンズ径が大きくなり、フォーカスレンズも大きくなるので、重量に速度は多少影響を受けます。マイクロフォーサーズよりはAF速度は落ちる可能性はありますが、体感的にはほぼほぼ満足いけるものになると思います。
津村氏 気にしているのは、連写が継続してできないと現実では使えないので、AFが追従できる範囲での実用性能を重視しています。そのためにXQDも採用しました。
――ちなみに、Sシリーズの「S」はどういう意味がありますか?
伏塚氏 プロをターゲットにしており、そのターゲットにあわせた「スペシャライズド(特化)」している、という意味合いです。色んなことに特化したモデルを開発していきます。
――例えば、ビデオグラファーに特化した機種、とか?
伏塚氏 そういうこともあるかもしれません。
――レンズは3本の開発発表をして、50mm F1.4だけはF値も公開されました。各社とも主力レンズの位置づけのレンズですが。
伏塚氏 50mm F1.4は、世界最高のレンズを目指しています。最後発のフルサイズ参入なので、そのシステムを理解してもらえるような、象徴となるレンズにしたいと思っています。プロ向けの本体に見合う性能で、世界最高の画質を出せるようにしています。
長年、ライカさんと一緒にレンズ開発をやってきてかなりの力をつけられました。一朝一夕にフルサイズの高性能レンズが作れるわけではなく、長年の経験の中で得られた知見の蓄積がフルサイズでも生かせます。
画質をとことん追求したレンズにするためにあのサイズ感になっています。フルサイズで高性能な大口径レンズとなると、物理的に大きくなります。それに見合うボディのバランスも考慮しています。
アライアンスを組んだとはいえ、最初の製品となるので、実用性を考慮してスタンダードな24~200mmはまず抑えようと、24-105mm、70-200mmを用意しました。
――プロ向けということは、例えば24-105mmはF4、70-200mmはF2.8でしょうか?
伏塚氏 まだ話せません(笑)。ただ、性能が高いレンズにはなると思います。F値イコール性能ではなく、いずれにしても高性能なレンズを作っていきます。
――レンズは動画も考慮されていますか。また、ボディ側の動画撮影性能も教えてもらえますか?
伏塚氏 考慮しています。AFなどに関しても動画を考慮した設計にしています。ボディは「最低でも4K60Pをやる」ということで、それ以上のものをご提供できるようにしていますので、期待してもらいたいですし、ご期待に沿えるようなものを仕上げられると思っています。
――今後のレンズラインナップの戦略を教えて下さい。
伏塚氏 レンズは、2020年までに10本以上出す、ということしかお話しできません。その中で、どういうバリエーションにするのか、ターゲットとなるお客様に満足してもらえるようなものを提供できるようにしていきたいです。
高画質で高性能を追求して(Lマウント用レンズの)ブランドを作っていきたいので、変な性能のレンズを出して、意図しない評価を受けるとかえってマイナスが大きくなってしまいます。高画質・高性能は担保しながらレンズシステムを考えていきたいと思っています。