複数のオフィス向け機器製造会社を買収し
ソリューションビジネスを展開する
さて、この3つ(正確に言えばBundy Manufacturing CompanyとITRはこの時点ではまだ別の会社だったので4つ)の会社をまとめて買収したのがCharles Ranlett Flint氏である。Flint氏はなかなかおもしろい経歴の持ち主で、いわゆるコングロマリット形成を手がけてみたり、その一方でチリの領事やニカラグア/コスタリカの総領事を務めたりしている。
ただ氏は1892年から複数の合成ゴム会社をまとめてU.S. Rubber(現在はMichelin/Continentalの傘下)を立ち上げたり、複数のチューインガム会社を統合して1899年にAmerican Chicle Company(現在のブランドはAdams)を作ったり、繊維会社を集めてAmerican Woolen Company(2014年にLoro Piana SpAにより買収)を作ったりと、複数の企業をまとめて大きな会社を作ることを得意としていた。
その彼が次に手がけたのが、オフィス向け機器製造会社をまとめることだ。かくして4社を株式買収の形で手に入れたFlint氏が立ち上げたのが、Computing-Tabulating-Recording Company(CTR)である。要するに3つの社名を連ねただけであるが、幸い当時はこの3つ(正確には4つ)の会社の製品には重複や社内競合はほとんどなかったため、合併すれば自動的に売上が増えるという仕組みだった。
もっとも当時CTRそのものは単なる持ち株会社で、CTRの下にThe Tabulating Machine CompanyとITR、Computer Scale Companyの3社(実際にはさらにあと2社ほど同時に買収されたらしいので、トータル5社)がぶら下がる格好になっていた。
ただこのうちHollerith氏は健康を害しており、それもあって自身の持ち株をすべてFlint氏に売却してしまう。となるとThe Tabulating Machine Companyの運営もFlint氏が行なわなければならないのだが、基本的には金融畑を歩いてきたFlint氏にはさすがに大変だったようだ。
そもそも持ち株会社の経営そのものが決して楽ではなかったようで、それもあって彼は1914年にキャッシュレジスターで有名なNCRでNo.2のポジションにいたThomas J. Watson, Sr.氏を雇い入れ、まずCRTの部長に、翌1915年には社長のポジションに就けて、実質的な会社運営を任すことになる(Flint氏は取締役会に1930年まで残った)。
ちなみにこの直前である1912年、NCRは独占禁止法違反の罪に問われており、当時のNCRの社長だったJohn Patterson氏と一緒にWatson Sr.氏も有罪判決を受ける。これを受けてPatterson氏はWatson Sr.氏を解雇するが、Watson Sr.氏は有罪を認めず控訴している。
最終的に1913年に政府はNCRに対する独占禁止法の訴訟を取り下げたので、結果的に両氏とも無罪になっているのだが、この解雇はPatterson氏とWatson Sr.氏の仲を引き裂くには十分であり、以後Watoson Sr.氏はNCRの最大にして最悪のライバルとなった。
さて、Watson Sr.氏はCRTのポートフォリオを確認した結果、同社の未来はThe Tabulating Machine Companyのラインナップにあると確認したらしい。確かにタイムレコーダーやComputing Scaleは1915年時点ではよく売れていたが、模倣は難しいことではなく、すぐにありふれたものになる可能性が高かった。
一方Tabulating Machineはこれから大きく成長する可能性が高かった。かくして氏は経営資源をTabulating Machineに集中させていくことになる。また旧NCRのセールスマンを多く雇い入れるとともに、彼らにWatson Sr.氏が受けたのと同じような教育を施し、新しいTabulating Machineの知識を基に顧客の問題を解決する、いわばソリューションビジネスを展開していく。
Watson Sr.氏が入社した1914年には420万ドルだった売上は、1919年には1300万ドルに達した。ちなみにインフレ率を加味すると、1914年の売上は現在で言うところの1億584万ドル、1919年は1億8937万ドルに相当する。当時からどれだけ大きな売上を上げていたかがわかろうというものだ。
この続きは次回。
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