ひとつのデザインを大量にから、少し違うものを大量にへ
デジタル印刷のメリットはいくつかある。
第1に「必要なタイミングに、必要な枚数を印刷できる点」だ。これまでの印刷技術では、印刷版が必要であった。その用意だけでなく、刷りだしまでに色調整が必要で、手間がかかり、オンデマンド型の印刷は事実上不可能であった。だが、デジタル印刷では、データから直接印刷工程に進むことができ、増刷にも柔軟に対応できる。
「印刷された雑誌のうち、35%が廃棄されている。デジタル印刷によって、必要な部数だけを、必要な時に印刷すれば、印刷コストの削減だけでなく、輸送費用、倉庫費用なども削減でき、環境にも配慮することができる」(ボイル副社長)
第2に大量印刷のなかでも「パーソナル化した印刷が可能になる点」だ。
具体的には、雑誌や書籍、ダイレクトメールなどに固有名詞を入れたり、個別の住所を印刷したりといったことが可能になる。
女性向けファッション誌の「ELLE」では個人的なメッセージを入れた雑誌を作った。コカ・コーラでは、ボトルのラベルにメッセージを入れている。
「コカ・コーラでは、HPのIndigoシリーズを活用して、異なるラベルを印刷したマーケティング活動を実施している。2012年にオーストラリアで開始して以来、すでに80ヵ国で展開。先頃は、インドにおいて、29種類のメッセージ、17言語、1億1000万枚のラベルを3ヵ月に渡って制作した。また、中国の生理用品メーカーABCでは、パッケージにクレバー、キュート、クールなどの異なるデザインを採用。好みにあわせて選択できるようにした」
デジタルの技術がなければ、これからの商業印刷は成立しない
HPでは、Mosaicと呼ぶ技術を提供。素材データを入力するだけで、自動的に拡大、回転などを繰り返し、同じデザインがひとつもない形で、大量印刷を可能にできる。2017年には、ロッテがキシリトールガムの発売20周年を記念して、世界にひとつだけのキシリトールガムのパッケージデザインを生産し、日本で販売した経緯がある。これもデジタル印刷ならではの成果だ。
デジタル印刷には、工程が簡素化できるだけでなく、インクを必要な領域だけに塗布するためコスト削減につながること、インクの調合ノウハウなどの専門性が不要であること、短期間で印刷を開始できるなどのメリットがある。
また、HPの商業印刷プリンタは、水性インクを使用しているため、インク特有の臭いがない。環境に配慮する必要がある医療分野や教育分野でも印刷できる点をメリットに挙げた。
ボイル副社長も「同じものを、大量に印刷するのであれば、オフセット印刷の方が安い。しかし、多品種少量印刷が求められたり、マーケティング手法の進化により、パーソナライズされた印刷物が求められたりしている。このニーズには、デジタル印刷でないと対応できない」と自信をみせる。
米HPでは、全世界250社のパートナーとともに、デジタル印刷の普及に向けた活動を加速している。その一方で、すでに中国で展開している「HP Indigo INNOPARTNERプログラム」を日本でも展開することを明らかにした。
同プログラムは、ビジネスバートナー、開発パートナー、プロダクションパートナーが参加するオープンエコシステムプログラムであり、今後、日本における取り組みの詳細などが明らかにされることになる。
では、シンガポールのCenter of Excellenceの様子を写真で紹介する。