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ツール事業30周年記念イベント「Toolsの杜」の基調講演レポート

グレープシティ会長が語るMS-DOS開発ツールからの30年

2018年07月11日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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 2018年7月10日、グレープシティは開発支援ツール30周年の記念イベント「Toolsの杜(ツールのもり)」を開催した。基調講演では会社紹介や事業概要の説明とともに、会長であるダニエル・ファンガー氏がツール事業の30年を振り返った。

会場で披露されたグレープシティの開発支援パッケージ

30年の歴史を刻んできた開発支援ツール

 MS-DOS対応BASIC「開発ツール・ライブラリシリーズ」を1988年に発売して以来、8月で30周年を迎えるグレープシティ。Toolsの杜の冒頭、登壇したグレープシティ 代表取締役社長 馬場直行氏は、参加者に対する謝辞を述べた後、会社紹介と事業概要について説明した。

グレープシティ 代表取締役社長 馬場直行氏

 グレープシティの前身となる文化オリエントが設立されたのは、1980年にまでさかのぼる。宮城県仙台市の泉区紫山にキャンパスを構えており、創業者の強い思いから1980年台後半からグローバル展開をスタート。現在は国内3拠点、海外は米国、中国、インドなど12拠点。従業員1000名のうち、日本人200名、外国人800名という割合になるため、名実ともにグローバル企業と言える。

 現在のグレープシティは開発支援ツール、私立学校向けソフト、映像企画・制作、英語教材など4つの事業をグローバル展開している。このうち今回のイベントの主体となっているツール事業は、技術動向や開発トレンドが大きく変わる中、もっとも大きく成長してきた。「新しいプラットフォームが誕生したり、開発手法が変わった30年でした。リーマンショックや東日本大震災など大変な時期もありました。これらを乗り越えてこられたのも、みなさんのご支援と激励があったからこそ」と馬場氏は謝意を伝える。

開発トレンドが大きく変わる中、ツール事業は大きく成長

 その上で、馬場氏は最新動向としてEnterprise Solutions事業を紹介。Excel感覚でアプリが作れる「Forguncy」やkintone向けのプラグインである「krew Sheet」などを展開し、ノーコード・ローコードの分野を開拓していくとアピールした。また、ツール事業部 事業部長 小野 耕宏氏が登壇したセッション後半は、2017年以降の製品に関してはサポート期間が3年から最大7年に伸びたこと、AWS、Azure、GCPの3大クラウドにフォーカスする点などが披露され、今後も開発者がより多くのことを達成できるよう支援していくとアピールした。

ゼッパチパソコンから生まれた会計ソフトからスタート

 馬場氏に続いて登壇したのはグレープシティ会長であり、宮城明泉学園の園長を務めるダニエル・ファンガー氏。「岩手県で生まれた生粋の日本人。25歳の時に初めて祖国のアメリカを訪れてショックを受けた」と語るファンガー氏は、自身の人生とグレープシティの歩みについて講演を行なった。

グレープシティ会長のダニエル・ファンガー氏

 ファンガー氏の両親は、キリスト教の宣教師としてオレゴン州から来日し、東北で布教活動を行なっていた。ダニエル氏は養子・実子あわせて20人の兄弟の7番目として生まれ、小さいときから日・英・中の3ヶ国語で教育を受けてきたという。そしてファンガー氏が1976年から4年間、英語教師として勤務したのが、父の友人であったポール・ヘラルド・ブローマン(岩佐勝)氏が立ち上げた宮城明泉学園。そして、ブローマン氏に誘われる形で仙台で立ち上げたのが、文化オリエントになる。

 IT企業になったきっかけは明泉学園でのパソコン導入だ。1982年に導入したのは、8ビットCPUのZ80B、64kb RAM、8インチFDDを搭載した「Oki if 800 Model 30」。これで作られた学校向け会計ソフトが文化オリエントの1つ目の事業になる。ちなみに、動画制作や英語教材などの事業もこの明泉学園のニーズから派生したもの。そして、ちょうど30年前の1988年に自社開発のために作ったMS-DOS開発ツールを販売したことで開発支援ツール事業部がスタートし、あわせて中国の西安にも子会社を設立したという。

きっかけは明泉学園でのパソコン導入

 25年前の1993年には、いよいよWindowsの時代が到来。MS-DOSからの移行を迫られていた文化オリエントもビジネスチャンスとして、Visual Basic対応の開発支援ツール「PowerToolsシリーズ」を手がけることになる。ファンガー氏は、「自社製品であるInputManの開発担当は、Windows SDKのプログラミング経験はなかった」「チラシをイベントで挟んだら、2日間問い合わせのFAXが鳴りっぱなしだった」「Chat BuliderはVisual Basicにもバンドルされたはずなのにコンスタントに売れていた」など当時のエピソードを披露した。

ビジネスの素人だったけどお客様に育ててもらった

 こうして同社の稼ぎ頭となったPowerToolsだが、文化オリエントが日本市場のために手がけたのはダブルバイト対応のローカライズだけではなかった。「Excelのようなアプリを作れる『SPREAD』というツールは、開発元に人を送り込んで、日本のお客様向けのデザイナーを作り込んだ。帳票作成のためのActive Reportは 『罫線の角に丸みを付けて欲しい』という日本の罫線文化を反映してもらい、グローバルより日本の方が売れるプロダクトになった」(ファンガー氏)。日本市場の改善要求を伝えるだけではなく、開発にまで深く携わったことが、成功の秘訣だったと言える。

日本のユーザー向けに改善要望を出し、開発まで深く携わった

 面白いのは、ローカライズしたツールの開発元を次々と買収したことだ。「創業者が引退したいから、事業を買ってくれないかという声が来るようになった。われわれも買収する戦略は持ってなかったが、ユーザーを守るためにやらなければならないと考えた」(ファンガー氏)ということで、2008年にはActive Reportsを開発したData Dynamics、2009年にはSPREADを手がけたFarPoint Technologies、2012年にはFlexGridなどを開発したComponentOneを買収し、そのままグローバルで事業を継続している。開発元と厚い信頼関係を構築できたからこそ、こうしたコラボが実現したわけだ。

ローカライズを手がけてきた開発元は次々と買収

 グローバル展開の現状を説明したファンガー氏は、「これまでの30年を振り返ってみると、われわれはビジネスの素人だった。品質やサポートでご迷惑をおかけしたこともあった。でも、お客様が育ててくれたおかげで、ここまで成長できた」と聴衆に対して謝意を伝える。その上で、ビジネスにおいて「気概」「誠実」「勤勉」「顧客中心」「謙虚さ」という5つのキーポイントがあるとアピールし、最後もパートナーや顧客への「感謝」で締めた。

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