アップルは6月4日10時(日本時間6月5日2時)、毎年恒例のWWDC(Worldwide Developers Conference)の基調講演を開催した。奇しくも、米マイクロソフト社がプロジェクトホスティングサービスの「GitHub」を75億ドルで買収した日と重なったかたちだ。
ASCII.jpではすでに基調講演の一部を複数記事化しているが、現地からの情報を織り交ぜながらその内容を振り返っていきたい。
既存機能のブラッシュアップが目立ったiOS 12
まず最初に、 2時間強の基調講演の時間の1時間半ほどをiOS 12の解説に費やしたのが印象的だった。発表された内容は、iPhoneやiPadの既存モデルでの最大40%の速度向上、既存アプリの機能強化など。最近は新機能よりも正式版発表後の不具合の多さが目立っていたiOSだが、その印象を払拭するかような堅実な発表内容だった。
主な機能強化としては、アプリやチャットのスレッドごとに通知をまとめられる「グループ通知機能」がある。これにより、ロック画面が各種アプリからの通知で埋め尽くされることを防げる。
個人的には「まさか」だったアニ文字の強化。ゴースト、コアラ、トラ、T-REXという新キャラが加わっただけでなく、舌の動きを検知する「Tongue Detection」が搭載され、表現の幅は広がった。
さらに、ネーミングからは任天堂のアレを連想させる「MeMoji」という機能も加わった。こちらは自分の似顔絵をスキャンしてキャラクターとして利用できる機能。顔の各パーツが多数用意されており、自分好みにキャラクターを構築できる。自分の顔をスキャンしてキャラクターを自動生成してくれる機能は、サムスンのGalaxy 9シリーズに搭載されている「AR Emoji」があるが、MeMojiとは異なり詳細にはカスタマイズできない点で異なる。
Siriについてはショートカット機能が加わった。複数の操作をワンフレーズで一括操作できる機能だ。具体的な活用方法としては、Bluetoothの忘れ物防止タグを付けた鍵を「My Key」と名付けておけば、鍵をなくしたときに「Hey Siri,I lost my keys」と話しかけるだけで、Bluetoothタグが反応して音を鳴らしてくれる。そのほか、旅行のスケジュールなどを「Travel plans」と名付けておけば、そのフレーズをSIriで呼び出すだけで飛行機の時間や宿泊するホテルの情報などをまとめて参照できる。すでにGoogle Homeなどが実現している機能だが、帰宅した際にSiriによってHomeKit対応機器を一括制御することも可能。照明や温度調整、家族へのメッセージ送信などをワンフレーズで実行できる。
アプリなどの使用時間をiOSが記録して一覧できる機能にも注目だ。ペアレンタルコントロールの一部とも言える機能で、子供が使っているiPhoneやiPadの使用時間を把握して、アプリを使える時間の制限したり、iPhoneやiPadを使えなくなる時間を設定したりできる。具体的には、「マインクラフト」で遊ぶ時間は1日1時間などと細かく設定可能。もちろん自分自身のiPhoneの使い方を見直すきっかけにもなるだろう。
FaceTimeでは、最大32人での同時ビデオ通話が可能なグループFaceTimeが可能になる。話しているユーザーの顔が自動的に大きくなるなど実にアップルらしいUIを採用する。
CarPlayにも改良が加えられる。最も大きな変更点は、アップル純正の「マップ」だけでなく、サードパーティー製のマップを組み込めるようになる。「Googleマップ」や「Yahoo!地図」などがCarPlayで使えるようになれば、国や地域、提供する機能・情報によって好みの地図を使える。
新アプリや新ファイルフォーマットが登場したARKit 2
新アプリとしては「Measure」が加わる。その名のとおり、iPhoneでさまざまなものを計測できるもの。アップルが提供するAPIである、ARKit 2を利用することで従来以上に正確な採寸が可能になるようだ。
AR向けの新フォーマットとして「USDZ」も発表。このフォーマットはオープンな仕様となっており、画像やHTMLなどのように3Dオブジェクトを手軽に配布や共有できるようになる。
ARKit 2を利用したサードパーティーのアプリとしては、ARレゴが披露された。目の前の床に建物や自動車を自然に配置して、動かしたり、破壊したりできる。ARレゴは今年後半のリリースになる予定だ。
ワークアウトがより楽しくなるwatchOS 5
次に紹介されたのがApple Watch用のOSであるwatchOS 5の新機能。基調講演での発表時間は十数分と短かったが、実用性の高い機能やアプリが目白押しだった。
個人的に最もうれしいのが、ワークアウトの自動検知機能。Fitbitなどですでに利用できる機能だが、ランニングやサイクリングなどを自動検知して記録してくれるのだ。ヨガやハイキングなどのワークアウトも追加され、心拍数や高低差などを記録できるようになった。友人などと1週間のワークアウト量を競う機能も加わるなど、健康に気を遣うユーザーにとってはモチベーションアップにもつながる機能が満載だ。
アウトドアスポーツはもちろん、室内でも活躍しそうなのがApple Watchをトランシーバー代わりに使える「ウォーキートーキー」機能。モバイル回線もしくはWi-Fiを利用して付近の人と音声通話が可能になる。NTTドコモがスマートフォン向けに「プッシュトーク」という同様の機能を提供していていたが、それのApple Watch版とも言える。プッシュトークはあまり需要がなかったのかすでにサービスを終了しているが、果たしてApple Watchではどうなるだろうか。
「ヘイシリ」が不要で手首を上げるだけでSiriが起動するのも便利。Apple Watch内蔵のNFCをIDカードとして使うことも可能になり、導入が決定している複数の大学が紹介された。これまでApple Payなどに限られていたNFC機能を一般にも開放したことになり、学生向けだけでなく、社員証やビルの入退出カードなども応用できそうだ。基調講演ではそれ以上の詳細は語られなかったが、iPhoneのNFCも解放されたら、応用範囲はさらに広がるだろう。
なおApple Watch関連には唯一、ハードウェアの新製品といえる「PRIDE」のバンドが発表され、即日販売が開始された。同様の文字版については現行のwatchOS 4.3.1以降で利用可能だ。
Apple TV 4Kが立体音響に対応しケーブルテレビの置き換えも
watchOS同様に短時間のプレゼンだったが、Apple TV 4Kについては、立体音響のDolby Atmos(ドルビーアトモス)に対応した。そのほか、すでに購入した映画などの映像コンテンツについては無償で4K HDRに映像にアップグレード可能だ。米国やカナダ、スイスなどのケーブルテレビ会社は配信するコンテンツをApple TVで受信できるような仕組みも発表された。専用アプリによって、Apple TVに接続したテレビやモニターはもちろん、iPhoneやiPad、Macなどでのもケーブルテレビの番組が見られるようになる。もちろん、スクリーンセーバーも4Kだ。
砂漠の名を与えられた新macOSはiOSから機能やアプリの流入が続く
最後に紹介されたのがmacOS。Mavericksから始まったカリフォルニア州の地名シリーズは健在で、次期バージョンはモハベ砂漠から名付けられた「Mojave」となる。YosemiteからHigh Sierraまでの山シリーズは終止符を打ったかたちだ。
新機能としては、ダークモードの搭載とデスクトップ上のファイルのスタッキング、iOSから取り入れられたスクリーンショットの即時編集機能、プレビュー機能であるQuickLookの強化など。ダークモードは、一部のアプリですでに採用されていた黒に近いグレーを基調色としたUIモード。MojaveではFinderなどで全面的にダークモードを利用可能になる。
ファイルのスタッキングは以前からあるアイデアだったが、デスクトップ上に実装されたことで、フォルダー分けが不要になり、デスクトップ上が手軽に整理できるのはうれしいところ。
プライバシー保護については、ウェブ閲覧履歴のトラッキング阻止などの機能が組み込まれた。そのほかmacOSでも、各種アプリのデータ、マイクやカメラなどの物理デバイスに至るまで、プライバシー関わる部分をOSが保護して勝手に使えない仕組みが導入される。
Mac App Storeも完全に作り直され、iOSのApp StoreのようなUIに変わり、アプリごとのレビュー記事などを読めるようになる。また、Office 365やAdobe LightroomなどのメジャーどころがMac App Storeから購入可能になる。
基調講演のラストでは、ウワサされていたmacOSとiOSの融合について言及。OS自体を統合することは「No」とハッキリ表明したが、開発環境の融合については進めていくことを発表した。2018年はフェーズ1として、macOSにiOSのUIKitを組み込んで、トラックパッドやマウスの入力、ウィンドウのリサイズ、コピー&ペースト、ドラッグ&ドロップの機能などを共通化していく。アップルがiOS 12用に開発した、「株価」「ボイスレコーダー」「News」などのアプリは、このフェーズ1の仕組みを使ってmacOS用アプリとして開発されたそうだ。開発環境を共通化することによって、将来的にはiOSのアプリ開発者がmacOSアプリを手軽に作れる未来が来るかもしれない。
今回はハードウェアの新製品は発表されず、2時間強の時間を使って本来のWWDCの基調講演と言えるような開発者向けの内容が紹介された。個人的は、macOSへのUIKitの移植、NFCの利用がApple Pay以外に広がった点、機械学習の機能をアプリに容易に取り込める点、徹底したプライバシー管理などが印象に残った。iOS 12に関しては旧モデルでの処理速度アップをアップルが明言しているので、期待して待ちたいところだ。