4月30日から5月5日の期間、IOHKのスタッフに同行して取材する機会を得た。イスラエルのテルアビブで開催された「EuroCrypt」での学会発表、エチオピアのアディスアベバでのカルダノのブロックチェーンを使った産学共同事業とカンファレンスだ。
この記事ではエチオピアでの発表内容と、現地のインキュベーターやスタートアップ企業を交えたカンファレンスの内容を中心にまとめる。
既報の通り、エチオピアでは同国の科学技術省と共同で実施する「Cardano Enterprise」を利用したコーヒーのトレーサビリティ確保のための取り組みが発表された。加えてCardanoのための言語である「Haskell」を教えるHaskell Schoolをエチオピアで開講する。
現地の起業家やスタートアップ企業などと連携しながらブロックチェーン技術の普及とアグリテックを中心に据えた、IT活用の支援をしていく。このプロジェクトはエチオピア人とイギリス人のハーフであるジョーン・オーコネル氏を中心に進められた。約3ヵ月という短期間で立ち上げたもので、具体的な施策がまとまるのはこれからという段階だ。
Haskell Schoolは無償で提供されるもので、最大100人の学生を対象としている。卒業生の一部はIOHKのスタッフとして雇用したり、エディンバラ大学にあるIOHKの研究室での受講も可能になるという。「理想としては、カルダノを利用したブロックチェーンやアフリカとしては初の仮想通貨界のベンチャーを現地で立ち上げてほしい」(IOHKのチャールズ・ホスキンソンCEO)とのことだ。また女性だけのコースの開講が予定されている点にも注目したい。
欧米式の資本流入で、一気にグローバル化が進む可能性も
この発表に伴い、エチオピアの科学技術省とIOHKは、同地では初のブロックチェーン。フォーラムを開催した。5月3日と4日の両日にエチオピアの科学技術省とアディスアベバを拠点としたインキュベーター/シードインベスターであるBlueMoonが提供するシェアオフィス「Addis Garage」で実施したもので、特に4日のプログラムは現地のスタートアップ企業が参加する意義深い内容となった。
エチオピアは非常に若い国で、1憶を超える人口のうち7000万人が30歳未満という非常に若い国でもある。一方で輸出品はコーヒーなど農業に頼っている状態で、人口1000人当たりの起業数で比較した場合、同じ東アフリカのルワンダの2%程度にとどまるという。スタートアップ業界では、次なるIT立国の中心地として東アフリカが注目を集めており、この10年で各国が数倍~10倍近くの伸びを示している中、大きく後れを取っていることになる。IT×農業を実現する、アグリテックはこの1年で急速な伸びを示しているが、IT技術を活用した成長が望まれる土壌があるわけだ。
農業関連では新鮮な生産物を素早く消費者に届ける流通の効率化や効率的なエネルギーの利用、コーヒーだけでなくミルクなど様々な生産物への応用といった課題を抱えているが、BlueMoonではこの5年間で300のスタートアップ企業の支援を目的としているということで、そのためのシードファンドとして500万ドル、ベンチャーファンドとして2000万ドルの資金を用意している。同社の提供するシェアオフィスは、アディスアベバの中心通りに面してたビルの1フロアーを占めており、25社が利用している。
1Fには現地で最もおしゃれで人気のあるカフェTomocaが店を構えている。エチオピアにおいては、先進国とは異なり、欧米資本が直接流入もしやすい環境もあり、仮にビジネス環境が立ち上がれば、グローバルのロジックに沿った形での発展がなされると考えられる。大きな伸びが期待できる可能性があるだろう。
フォーラムの中では、Tatami、AXIOM、GebeyaNetという3つのスタートアップ企業の担当者が自社で計画しているプロジェクトについて、IOHKのチャールズ・ホスキンソン氏の前で直々にプレゼンテーションするプログラムも用意されていた。若者が効率的に報酬を得るための仕組み、時に入る、鋭い突っ込みに悪戦苦闘しながらも、ブロックチェーンをどう活用するかについて、自分たちの考えを熱心に伝える様子が印象的だった。
Tatamiのプレゼンでは雑用を引き受けるアウトソースサービスを提供。料金を競売制で決めていくというもの。若者の労働力を効率よく活用することを目的としている。AXIOMはお金を融資するリスクをプログラミングとAIの技術で解決していくというもので、ID確認、トランザクションの記録、スマートコンタクト、プライバシーの確保などにブロックチェーンを活用する。GebeyaNetは農業におけるサプライチェーンを改善し、適切な価格や収穫物が腐ったりするこおによるロスを減らすというもの。エチオピアでは収穫物の40%がロスされているほか、バリューチェーンが長くなりすぎることにより市価が高くなったり、タイムリーな市場投入ができないといた課題があるという。エチオピアは人口の約8割が農業従事者であり、生産者とバイヤーをウェブを使いダイレクトにつなぐことで、効率化が図れるほか、毎年160万㎏作られ、12憶ドルの金額が動く農作物の流通にスマートコントラクトを導入し、2%程度の手数料を付加することで、高成長高収益のビジネス開発が見込めるというものだった。
爆発する人口と経済成長、IT立国で生まれ変わる東アフリカ
エチオピアでのフォーラムに先立つ5月2日、編集部ではチャールズ・ホスキンソン氏にカルダノおよびエチオピアでのビジネスの可能性について取材する機会を得た。同氏はエチオピアでのフォーラム開催ののち、ルワンダに旅立ち、アフリカでのビジネスチャンスを模索するとのことだった。
アディスアベバの街は、まだまだ発展途上であり、街中ではプレハブ建ての建築物や舗装されていない道路が大半を占める。その中に近代的な建物が混在し、さらに多くは中国資本によるものと思われる、骨組みがむき出しの建設中のビルが居並ぶ(一部は建設が止まっているようにも見える)。貧富の差が大きく、ある意味混沌とした風景が広がっていた。
しかし実際に歩いて感じたのは、街の人々の表情が思いのほか暗くはないという点だ。まだ限られたものしかないが、それゆえに先には発展しかない。そんな雰囲気を感じ取った取材旅行であった。