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ドキュサインのキース・クラック会長が日本のビジネスリーダーに熱い檄!

デジタルトランスフォーメーションは官民挙げて進めよ

2018年04月25日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders 写真●曽根田元

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電子署名やDTM(Digital Transaction Management)の分野でグローバルで高いシェアを誇るドキュサイン。日本のデジタルトランスフォーメーションを推進すべく政府や経営者に働きかける米ドキュサインのキース・クラック会長が熱いメッセージを発した。

米ドキュサイン キース・クラック会長

「日本に進出し、FAX機を壊してくれ」とお願いされた

 日本は一人あたりの紙の量が世界で第2位だ。文化的に紙が多くなってしまうのは理解できるが、デジタルトランスフォーメーションの時代にあっては、企業や政府が積極的にモデル作りを進めて行く必要がある。今回来日した背景も、ペーパーレスとデジタルトランスフォーメーションを政府に働きかけるのが大きな目的だ。

 日本は工場でのロボット化をいち早く進めてきた。しかし、工場でのロボット化は世界に先駆けて進めてきたのに、オフィスの働き方を見てみると、世界でもっとも生産性の低い国としてランキングしてしまう。2025年の日本は4人に1人が70歳以上になると言われている。つまり、ほかの世代が70歳以上の世代を支えなければならないという状況が近づいているわけだ。オフィスでの生産性を向上させ、ビジネスのスピードを上げ、国民の一人一人の生活の質(QoL)を向上させていくことが重要になる。そこでお役に立てるのが、われわれドキュサインのソリューションだ。

 5年ほど前、日本郵政の会長とお会いしたが、彼はドキュサインや電子署名のことをすでに知っていた。ドキュサインも、今でこそ約3億のユーザーを抱え、毎月200万ユーザーが増えているので、ある程度認知度もあるが、当時は数百万ユーザーしかいなかった。それでも、彼は電子署名やペーパーレスの重要性を理解しており、私は「ぜひ日本進出し、FAX機を壊してくれ」とお願いされた。

 その上で、日本の印鑑市場で高いシェアを誇るシヤチハタを紹介していただき、両者の提携による電子印鑑ソリューションの展開にこぎ着けることができた。先日お会いしたシヤチハタの社長からは、「ドキュサインこそが信頼される電子印鑑のスタンダードになりましたね。これがあればスピード、効率、セキュリティも間違いなし」と高い評価をいただけた。

デジタルトランスフォーメーションに対する決定をとにかく早く

 われわれの競合は、ずばり紙だ。紙のあるところはどこでもドキュサインで置き換えられると考えている。日本は紙というものに対して宣戦布告すべきだ。紙を撲滅し、デジタルトランスフォーメーションの展開を速めていかなければならない。

 デジタルトランスフォーメーションのスピードはどんどん加速している。1つの会社のように一枚岩で動いている中国がそうだ。昨年、中国には2週間ほど滞在したが、約30万台の産業ロボットを購入したり、AIの研究に対して莫大なコストをかけたり、恐ろしいスピードでデジタルトランスフォーメーションが進んでいる。中国企業のトップは、「もはや中国は安い労働力を使って品質の悪いものは作らない。これからは高い品質、イノベーション、生産性にフォーカスする」と声を揃える。

 チャイニーズタイガーを凌駕するには、やはり彼らより速く進むしかない。日本の首相だって、高齢者だって、同盟国である米国だって、日本のビジネスリーダーに期待を寄せている。どうやったらデジタルトランスフォーメーションを加速できるのか、日本を前に進めるにはどうすべきか。昨日は実際にハガティ駐日米国大使(ウィリアム・F・ハガティ 駐日米国大使)と話した。

 昨日都内で行なわれたビジネスリーダーのイベントで、私は「ビジネスにとってもっとも重要なコンセプトは変化(チェンジ)である。変わらなければ、成長も、前進も、繁栄もない」というメッセージを訴えた。

 歴史を振り返れば、ビジネスは変化によって生まれてきた。移動手段、ものづくり、メッセージなどあらゆるビジネスは変化によって生まれてきた。ドキュサインで提供する承認やトランザクションも同じだ。しかし、日本ではいまだに紙と印鑑による承認プロセスが使われている。なぜ印鑑を使うのだ? 紙だらけの日系企業はグローバル企業と戦っていけるのだろうか?

 デジタルトランスフォーメーションが最重要課題という私のメッセージに対し、他国の企業のトップは、「やらない選択肢はない」と口を揃える。しかし、日本の経営者たちは「目の前に課題が多い」「時間がない」「どこから手を付けていいかわからない」などさまざまなな懸念を訴える。日本企業は自らを正当化することに麻痺してしまっている。だから、プロジェクトのパイロット期間がどんどん先に伸びる。日本企業は「決まれば速い」とコメントするが、そもそも決まるまでに時間がかかってしまうのだ。

ドキュサインがデジタルトランスフォーメーションの「触媒」に

 私はビジネスリーダーたちに問いかけた。あなたたちが動かないのであれば、誰かが動いてくれるのか? 役員会か、若い人か、競合か? 今じゃなければ、いつやるのか? 問いかけた。そして、今日は家に帰って、ゆっくり寝て、明日起きたら、なんでもいいから決意を書いてほしいとお願いした。「実行する」でもいいし、「実行しない」でもかまわない。とにかく時間がすでにないのだ。

「誰がやるのか? やるのか? 私はビジネスリーダーたちに問いかけた」(クラック氏)

 どうやったらデジタルトランスフォーメーションに取り組んでもらえるか考え、私はシティグループの事例を出した。世界最大の金融グループだが、彼らも普通の会社と同じ課題を抱えている。「リテールバンクでは7年後に1/3の仕事がなくなる」という危機感を持っている。FinTechの領域ではいわゆるディスラプター(破壊者)も数多く存在している。我が社の50マイル範囲内には、200社以上のスタートアップがあり、600億ドル近くの資金を調達している。世界中から集まってきた彼らは若く、失敗も恐れないような連中だ。

 こうした中、シティグループはドキュサインを導入し、一切の紙をなくした。「ドキュサインがデジタルトランスフォーメーションのいわば『触媒』になってくれた。投資対効果もきわめて高い」とコメントしてくれた。

 約3000店舗を抱えるモバイルキャリアのT-Mobileでは、かつて携帯電話の契約に一人あたり68分かかっていたが、ドキュサインの導入により、今やたった8分で携帯電話を使えるようになり、1億5000万ドルのコスト削減に貢献できた。大手銀行の15社中14社、大手保険会社の15社中13社が、われわれのソリューションでデジタルトランスフォーメーションを進めている。

 3000年前の孫子の兵法にも「兵は拙速を尊ぶ」と謳われている。ビジネスにとって究極の武器はスピードだ。だからそのイベントでも「イキマショウ!」と訴えた。

先進的でスピード感のある日本を世界は待っている

 私自身は過去ファナックに所属していたので、日本とのつきあいは長い。ファナックとGMのジョイントベンチャーを立ち上げたり、ソフトバンクとアリバとの提携も進めてきた。

 そんな私が初めて日本に触れたのは、ハーバードビジネススクールに通っていた1979年の頃。まだ20代の頃だ。経営管理について勉強する日が続く2年の中で、日本に関する授業が20件くらいあり、そのときは「太平洋戦争で荒廃した日本が、なぜ世界第2位の経済大国にのし上がったのか」がテーマになった。

 クラスでは「荒廃した国を米国が助けたから」とか、「米国の技術を日本がうまく改良したからだ」とか、「日本の文化として精密さや完璧さへのこだわりがあったから」、「単に日本人が勤勉だから」など、さまざまな意見が出た。授業の最後、ある日本人が「みなさんは日本のことをなにも知らない」と控えめに言いながら、「米国での優先順位は『個人>企業>国家』になるが、日本はまったく逆。これが答えだ」と説明した。日本では、個人をなくしても、国家の方向性に邁進するというこの説明は、まだ若造だった私にものすごく大きなインパクトを与えた。

 デジタルトランスフォーメーションは官民挙げて進めるべきだ。生産性とビジネスのスピードをアップし、競争力保持のための不可欠な、国としての緊急課題だと思っている。

 先週、トランプ政権下の米国政府も国を挙げてITのモダナイゼーションプログラムを開始することを決定した。いわゆるデジタルトランスフォーメーションの一環で、政府がペーパーレスを進めるため、民間企業のベストプラクティストを政府にも適用していくことになる。こうしたことを日本政府にも働きかけていきたい。

 デジタルトランスフォーメーションのためのテクノロジーはすでにあるが、情報発信が足りない。文化を変えるにはオオタニさんのような記者による情報発信が絶対に必要になる。私は長らく日本と深くつきあってきたが、やはり外国の人間だ。本当の意味で日本の文化を理解し、変えるのは正直難しいと思う。でも、シリコンバレーを代表する日本のファンとして、「先進的でスピード感のある日本を世界は待っている」と伝えてほしいのだ。

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