約2万社におよぶレンタルサーバーをクラウド型のZenlogicホスティングに移行したファーストサーバ。移行がまったく進まなかった1年半、社内外の反発と理解を受けて、半年で進めた後期移行など、3人のメンバーにプロジェクトの舞台裏を聞いた。(インタビュアー アスキー編集部 大谷イビサ、以下、敬称略、肩書はプロジェクト当時のものです)。
1年経っても移行は10%しか進まなかった
大谷:まずは今回のプロジェクトでの移行先に当たる「Zenlogic」についておさらいさせてください。
ファーストサーバ カスタマーサービス部長 辻野欣悟氏(以下、辻野):2015年2月に発表されたZenlogicは技術的に古い資産を取り除き、時代にあった最新のサービスを使ってもらいたいという思いで開発したホスティングサービスです。単純な場所貸し、サーバー貸しから脱却し、よりユーザーに近いことをやるため、基盤にクラウドサービスを採用しています。
大谷:ここで言う「古い資産」とはどんなものでしょうか?
辻野:一言でレンタルサーバーと言っても、共有型、専有型などさまざまなサービスがあり、利用するハードウェアやOS、ファームウェアなども異なります。
ファーストサーバの場合、サービスを提供するための基本的なアーキテクチャが前世代から変わっておらず、ほぼ20年に渡って利用されてきました。しかし、古いアーキテクチャの場合、脆弱性対応やアップデートなどを施すのは困難を極めます。
大谷:物理インフラに依存すると、何世代も保守しないといけないので、人手もコストもかかりますよね。
辻野:機能追加も困難を極めます。後発の事業者がわれわれには実装できない機能を追加し、サービスの競争優位性が損なわれることもありました。過去の互換性をどうするかも考えたけど、やはりある程度は割り切る必要があると考えていました。
大谷:次に移行計画について教えてください。当初はもっと早く移行できる計画だったのですよね。
辻野:はい。Zenlogicではリリースから約半年で移行ツールの提供を開始しました。ですから、2015年9月からお客様は任意に移行することが可能になっていました。
旧サービスより料金が下がることもあるし、機能面も強化されているので、新サービスには1年くらい移行してもらうつもりでした。お客様には「ガラケーをスマホに変えるのと同じことをやらせてください」と説明しました。でも、移行はまったく進みませんでした。
ファーストサーバ 経営企画室長 岩崎文美氏(以下、岩崎):旧サービスの終了時期をアナウンスし、そこまでになるべくお客様自身で移行していただくというプランを考えていましたが、1年経っても結局10%しか移行していただけませんでした。
辻野:事業者としては新サービスに移行した方が絶対によいと思ったのですが、お客様としてはある意味ガラケーで十分だと考えたようです。使い慣れてるし、特に困ってないと。
大谷:もちろん、ファーストサーバとしても、手をこまねいていたわけではないんですよね。
岩崎:普段はメールでやりとりしているのですが、それだけだと見ていただけないかもしれないので、Webサイト、電話、封書、全国への移行セミナーまで、できることはやったつもりです。
ファーストサーバ 移行推進事務局長 矢倉利昭氏(以下、矢倉):2016年2月からは旧サービスの環境が新サービスで動くかどうか確認できる環境も用意しました。でも、本番環境までなかなか進んでもらえなかったです。
大谷:移行が進まないことで、ファーストサーバにはどのような影響が出たのでしょうか?
辻野:旧サービスのサーバーの老朽化が限界に近くなってきたので、いつ壊れるかわからないという爆弾を抱えている状態。しかも部材の調達も難しい。延命するのか、止めるのか、とにかく先が見えないのが不安でした。
岩崎:移行期は旧サービスと新サービス、それぞれに技術やサポートの工数が発生するので、コストが二重にかかっています。しかも、数億円かかるデータセンターの予備電源のリプレースが控えていたので、ビジネス的にはかなり厳しい状態に陥りました。
待ったなしの後期移行、ユーザーの強制移行に迷い
大谷:移行が進まなかった昨年の状態から、移行完了のアナウンスに至るまでのプロジェクトを教えてください。
岩崎:はい。後期移行プロジェクトは2017年5月からスタートし、約半年後の2017年度末までに終わらせるという期限を切りました。「なにがなんでも移行を終わらせる」という決意を持って、社内組織も移行に最適な部署横断的なチームに変え、業務も技術も精通している矢倉が移行を取り仕切ることになりました。その上で、共有サーバーに関しては、当社が主体となってサービスを切り替える方針に変更しました。
大谷:ユーザーではなく、サービス事業者が主体的にサービスを移行させるというのは前代未聞です。
矢倉:それまでの前期移行が完全に行き詰まっていたので、お客様自身に移行をうながすのは難しいという感覚でした。でも、お客様の知らないうちにサービスが変更されるって、現在の契約上ありなのかという議論も社内に巻き起こりました。
岩崎:「お客様のデータを勝手に移行するなんてとんでもない」という社内の拒絶感は確かにありました。でも、移行作業でミスるのも失敗なら、お客様に影響を与えるリスクを抱えながら移行が終わらないのもそれは失敗なんです。うまく移行ができず、サービスを解約する人が増えるというのがワーストパターンだと考えていたので、粘り強く説得しました。
辻野:使い続けたいのに、移行できないから辞めるというのが最悪。お客様の移行を待つか、事業者が能動的に移行してしまうか、どちらがよいか判断したら、お客様のためにも後者の方がよいだろうという判断です。
大谷:なるほど。ユーザーの反応はどうだったんでしょうか?
岩崎:はい。一部のお客様からサービス終了と移行作業のお願いを400~500件くらいに流したのですが、ほぼ無反応。当日は多少反応もあるのですが、それからずっと無反応。1ヶ月くらい待っても、ほぼ移行されなかったので、次は作業を代行しますというアナウンスを出したのですが、こちらは喜んでいただいたようです。あとはZenlogicで使えなくなる機能は旧サービスは先だってディスコンさせてもらいました。
辻野:こちらも社内で議論はあったのですが、お客様には必ず影響が出るので、切り替えた瞬間にいきなりなくなるより、準備期間を設けて徐々になくした方がよかろうという判断です。うちの場合、契約者の先にさらにユーザーがいたりしますので、ご迷惑をかける前に先行ディスコンさせてもらいました。