VDPや透かし技術を通じて、デジタル技術と連携も
デジタル印刷ならではの強みも積極的に展開する。
従来のオフセット印刷では、刷版と呼ばれる印刷用のシートを用意し、そこにインクをのせて印刷するが、デジタル印刷ではこの刷版が不要で、デジタルデータもとに直接インクジェットで出力して本や印刷物が作れる。製版代のコストを抑えられるため、一般的には、少部数のオンデマンド印刷などに適するとされる。しかし近年デジタル輪転機と言われる機器が登場。パッケージ印刷など大規模な印刷でも積極的な導入が進んでいる。
ここでポイントとなるのは、刷版がない=1枚ごとに印刷する内容を変えられるという点だ。バリアブル印刷(VDP)などと呼ばれるが、Wordの差し込み印刷のように、ページごとに異なるシリアルナンバーを入れたり、微妙に異なる写真に置き換えるといったことが容易にできる。
バックエンドシステムを用意すれば、単純な要素の差し替えだけでなく、大胆にレイアウトや内容を変えた印刷も可能だ。例えば、ダイレクトメールなどを作成する際に、個人情報や購入情報を反映したカスタマイズができるわけだ。
国内の出版で用いられる例はあまり聞かないが、書籍や雑誌などの商業印刷でも、ソーシャルゲームの異なるシリアルコードを印刷したり、表紙など内容が微妙に異なる少部数の限定版冊子を制作するといった応用ができるだろう。販売チャネルやターゲットユーザーに合わせた異なる書籍を1部単位のきめ細かさで用意したり、「固有のシリアル番号を書籍に付与して、イベント抽選の応募に使う」といった応用方法もあり得るかもしれない。
さらにHPが提供する印刷技術でさらに興味深いのは「Covered Water Marking」という目に見えないタグをページごとに印刷できる点だ。これはイエローやシアンのインクを使い、印刷物に個別のパターンを入れていくものだ。人間の視覚では判別できないスペクトラムを使っているが、スマホのレンズを通して画像認識することは可能。つまり目に見えないQRコードのようなタグを印刷面に重ねられる技術となる。
絵本や図鑑で動物の写真にスマホをかざす直感的な操作で、その動く様子や鳴き声を聴かせるなど、デジタルとアナログのコンテンツを融合させられる。コンテンツはクラウド上に置き、それをスマホのリーダーアプリで再生する形となるため、期間を限定したり、最新の情報にコンテンツ自体を更新できる。
パーティーで撮影した写真にメッセージを付けて来場者に配ったり、名刺に様々なプロフィール情報を追加したり、書籍に動画の補足情報を追加するなどアイデア次第で様々な応用ができそうだ。
誌面レイアウトに制約がない点も売りだ。QRコードは広く普及しているが、印刷スペースをとるため、限られた紙幅では複数を並べて置くのに適さない。
一方ビジネスの現場でセキュリティを確保することも可能だ。コピー機などでの複製ができないため、オリジナル原稿を証明する使い方ができる。他の技術と組み合わせることで、改ざんを防いだり、紙幣のように真贋を厳密に管理すべき印刷物を守る用途なども考えられる。
ここで重要になるのが、デジタルシステムとの連携だ。印刷物という媒体を通じて、アナログとデジタルの架け橋ができる形となる。上述のイベント抽選のシリアルであれば、シリアル番号の認識と入退出管理システム、顔認識などを組み合わせることで、効率的な入場が可能になるかもしれない。