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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第20回

フルヴェン伝説の名盤から宇多田ヒカルまで、12月の名盤

麻倉推薦:私も好きな松たか子、マイクを聞き比べるマニアックな音源も

2017年12月30日 12時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK(ASCII)

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『ワン・ポイント リアル・ハイレゾ 192Khz ベスト』
ヴァリアス・アーティスト

 マイスターミュージックは高音質に徹底的こだわるわが国のインディレーベル。本アルバムは同レーベル代表曲のコンピレーションだが、単なる集合ではない。同レーベルが使用するスペシャルなマイクを表に打ち出した、マニアックな企画ものだ。

 世界に数十ペアしかない、特殊な銅を使用したオール・ハンド・メイドの「ゲアール・マイク(周波数帯域:8Hz~200KHz)」だ。特に高域が伸びるハイレゾ録音では「倍音収録」に有利を強調している。マイスターミュージックとe-onkyo musicの共同プロジェクトで、e-onkyo music独占配信だ。

 「運命」は、ひじょうに解像度が高いが、それは直接音的なレゾリューションではなく、会場の響きも含めた直接音+間接音の足し算として、高い。音調がナチュラルで、音楽が自然に空間から湧き上がるという雰囲気が好ましい。「四季」はソノリティが美しい。弦楽の艶が心地良く再現される。「白鳥」のチェロも艶たっぷり。ハープ音の空間感がリアルだ。ベルギー金管アンサンブルのカルメン組曲も響きの豊潤さと、楽器の鳴りっぷりの直接的な雰囲気がいい。バッハのチェロも、濃密な空間の響きが峻厳だ。

FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit
マイスターミュージック、e-onkyo music

『あなた』
宇多田ヒカル

 映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』の主題歌。濃密でしかも透明という、宇多田ヒカルの特徴的な音調が、明確に感じられる。ミックスダウンとマスタリングの音調は、いわゆるハイファイ調ではないのだが、でも、極端なドンシャリでもなく、中域のすべらかさと、密度の高さが印象的だ。

 宇多田の歌唱のニュアンスにあらわれる細やかな感情の発露が、歌詞にもあるように「息を飲む」。ブラスとリズム、ベース、ドラムスのバランスも良好だ。感情表現がハイレゾ世界で、より濃密になることが実感できる。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels、e-onkyo music

『ブルー・トレイン』
ジョン・コルトレーン

 ジョン・コルトレーン(ts)、リー・モーガン(tp)、カーティス・フラー(tb)、ケニー・ドリュー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)のゴールデン・メンバーによる天下の名盤がはじめてハイレゾ化。

 オリジナルマスターテープからマスタリングした。1957年の録音にこれほどのハイレゾ的な要素が詰まっていたのかに驚く。まず解像感がひじょうに高く、音を構成する粒子サイズが細かく、それが、実際の音にねっとりと絡んでいる様子が、クリヤーに描かれている。直接音だけでなく、間接音も美しい。ソロが音像的な大きくフューチャーされるが、同時にバックのピアノ、ベース、ドラムス……などの存在感も十分だ。音場内でそれらが混濁することなく、それぞれの位置関係(左右と奥行き)を正確にキープしている。まさに世紀の名技に酔う。1957年9月15日、ニュージャージーで録音。

DSF:2.8MHz/1bit
Blue Note Records、e-onkyo music

『Annie Laurie (Telefunken M269 / AKG The Tube)』
Lapis Lazuli

 マイクロフォンの音の違いをハイレゾで検証というマニア色がたいへん濃い企画。9月にリリースされたラピスラズリの『ケルティック・レターズ』から、7週間に渡って毎週1曲の2つのマイク違いバージョンを、リリース。1週目:Annie Laurie、2週目:You Raise Me Up、3週目:A Small Flower Song、4週目:Carrickfergus、5週目:Auld Lang Syne、6週目:Greensleeves、7週目:An Irish Lullaby……だ。

 壮観だが、この形態は確かに配信ではとてもマッチする。一度の録音を多彩に活用する配信モデルが、本アイデアから見えてくる。

 本体の『ケルティック・レターズ』はNeumann U-67, Telefunken M-269, AKG The Tubeの3本の異なるヴィンテージ真空管マイクで同時にレコーディングされているが、アルバム自体は全編に渡ってNeumannのU-67の音源が採用されている。

 今回のマニアック企画は1962年に開発されたTelefunken M-269と1980年代のAKG The Tubeの比較だ。(4週目のCarrickfergusのみTelefunken M-269、Neumann M-147の2種)。

 聴き比べてみた。Telefunkenは優しく、伸びやかで、響きも美しい。高域が繊細でグラテーションが細やかだ。AKG The Tubeは中域のリッチさと滑らかさと、バランスの佳さが聴ける。Telefunkenのような高域の華麗さはないが、中域の厚みと整然さが魅力。清潔な色気がある。同じ色気でもTelefunkenは艶艶としている。

FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit、DSF:5.6MHz/1bit
キングレコード、e-onkyo music

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