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エデュケーション@プログラミング+ 第9回

第2回 全国小中学生プログラミング大会 (JJPC) 最終審査&表彰式レポート

小中学生のプログラミング表現は多様化・実用化の時代に。2017年の全国小中学生プログラミング大会グランプリは?

2017年12月08日 19時00分更新

文● 杉本 敏則/ASCII

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 2017年11月26日(日)東京・飯田橋にて、小中学生(6歳~15歳)を対象としたプログラミングコンテスト「第2回 全国小中学生プログラミング大会」(主催:全国小中学生プログラミング大会実行委員会=株式会社角川アスキー総合研究所、株式会社UEI、NPO法人CANVAS/共催:株式会社朝日新聞社/後援:文部科学省、総務省、経済産業省)の最終審査&表彰式が開催された。本イベントレポートでは、当日の最終審査に残った入賞作品10点の紹介や、表彰式およびその一環でおこなわれた実行委員会のメンバーによる座談会の様子などをお届けする。

昨年度を上回る167点の作品が集まったコンテスト

 この大会は、プログラミング教育の義務化を見据え、全国の小中学生にプログラミングで表現する場を提供することにより、学ぶ強い動機づけとなることを目的として昨年から開催されているもの。今年度の作品テーマは「こんなのあったらいいな」で、募集期間(2017年8月1日から9月15日まで)に全国各地の小中学生から167点の作品(本レポート末尾に作者の学年など応募内訳データを記載)が寄せられ、昨年度を上回る作品数が選考の対象となった。

全国小中学生プログラミング大会(通称:JJPC)の大会ロゴ。

 当日のイベントは、大会実行委員長である稲見昌彦氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)の開会宣言からスタート。稲見氏は「今回のテーマである “こんなのあったらいいな” は、まさしく私が研究に取り組むモチベーションそのもの。プログラミングするというのは、コンピューターで何かを作るという意味に限らず、世の中の仕組みや人々の考え方、行動をプログラミングするということも当てはまる。こうした大会を活用して、単一化や標準化ではない色々な可能性を持った未来を、是非多くの子どもたちに作り出してほしい」と期待の弁を述べた。

イベント開始前に応募者である小中学生たちと直接やり取りしながら、各作品の特徴を確認する稲見氏(写真中央左)。

 最終審査&表彰式と題されたこの日のイベントでは、事前審査によって選ばれた10の入賞作品について、応募者自身がブース展示をおこない審査員に直接アピールをおこなった。各審査員は実際に作品を確認し、作者一人ひとりに直接質問したうえで、最終審査を実施した。

最終審査に残った入賞作品10点の紹介&作者へのインタビュー

 イベント当日、入賞作品の応募者(以降、作者)となる小中学生たちは、思い思いの工夫をこらしたブース展示をおこない、審査員に対してだけでなく会場を訪れた取材陣や関係者にも、自身の作品について積極的なプレゼンテーションをおこなっていた。ここで、その入賞作品10点と作者それぞれの様子を、学年順にご紹介(グループ応募の場合は年長者の学年を記載)する。

『とうちゃんおこしロボ』崎山 盛一(サキヤマ セイイチ)さん(小学1年)

ドアノックするようにお父さんの体を叩くための長い手が印象的な作品。

 ブロックでかたちを組み立て、プログラミングで動きを与えられるロボットプログラミングキット “アーテックロボ (Studuino)” を用いて作られた、その名の通りお父さんを起こすためのロボット。「3回くらい自分が乗らないと起きてくれないお父さん」をロボットがアームでトントンと叩いて起床をうながすという、非常に可愛らしくも、身近な「こんなのあったらいいな」を解決するために生まれた作品だ。

審査員にアピールをおこなう作者の崎山盛一さん。

 作者の崎山盛一さんにお話を聞くと、「どんな作品にするか決めるまでは時間が掛かったが、作り出したら3日程度で完成できた」とのこと。ロボット作りがとても好きな様子で、レゴブロックを使ったロボットを1日に4種類も作って過ごすこともあるそう。これからもプログラミングを続けて、ゲームづくりにも挑戦してみたいと今後の抱負を語ってくれた。

『あなたのバーチャルアシスタント・ロボット"NOYBO"』森谷 頼安(モリヤ ライアン)さん(小学3年)

画面に映されているバーチャルアシスタント機能をプログラムされたロボットキャラクターと、作者の森谷頼安さん。

 「あなたがパソコンを使っているときに、ついつい忘れてしまいそうな用事を教えてくれる」バーチャルロボット。子ども向けプログラミング言語として幅広く活用されているScratch(スクラッチ)で制作された作品だ。制作のきっかけになったのは、Appleの音声アシスタント機能・Siriを面白い!と感じたこと。ただ、Siriには顔がなくて寂しいと思い、NOYBO(ノイボ)というキャラクターを作り、今の時刻や次の予定、電卓の計算結果、しりとりなどのミニゲームも、声で教えてくれるようにプログラミングしたのだという。画面上のキャラクターが話す声は、作者があ、い、う、え……と一言ずつ声を吹き込んだもの。一定時間入力がないと、ロボットが本を読み始めて待機するといった工夫も施されている。

NOYBOが持っている多数のアシスタント機能を実際に操作しながらアピールした。

 作者の森谷頼安さんに普段どんな毎日を過ごしているか聞くと、プログラミングだけでなく水泳やダンスにも取り組むなど、とても忙しい様子。こうした忙しさのなかでつい忘れてしまうことを、楽しく教えてくれるアシスタントがほしいという「こんなのあったらいいな」が、作品制作のもうひとつのきっかけだと教えてくれた。最近では、Appleのアプリケーション開発環境であるXcodeや、世界中の開発者から支持されているゲーム開発環境であるUnityを使ったプログラミングも始めているとのこと。将来の夢をたずねてみると「指示された内容をプログラミングするだけの仕事ではなく、自由に考えて表現できるような仕事に就きたい」と話してくれた。

『毎日チェックアプリ』大竹 悠太(オオタケ ユウタ)さん(小学4年)

小学4年生が作ったとは思えない実用度を持つ備忘録アプリ。ウェブブラウザのローカルストレージにデータを保存できるよう頑張ったのだという。

 ウェブ開発に欠かせないプログラミング言語・JavaScriptで制作されたToDo(備忘録)アプリ。ウェブブラウザのChromeがインストールされていれば、スマートフォンやタブレット、PCと幅広いデバイスで利用できる(実際のアプリはこちら)もの。「宿題したの?など、お父さんやお母さんからよく注意を受けるから、自分がやることをきちんとチェックできるように」という理由から作ったのだそう。実際に毎日使うことで、ご両親も「やっていることを確認しやすくなった」と、実用的であるという感想を述べられた。

作者の大竹悠太さん。

 「制作期間は3ヵ月ほぼ毎日」と教えてくれた、作者の大竹悠太さん。今回使用したJavaScriptを学び始めた当初は「大変でなにがなんだか分からなかった」が、2ヵ月程度取り組んでみてずいぶん使いこなせるようになったそう。プログラミング歴は約4年で、過去にはScratchで冒険RPGゲームなどを作った経歴もあるとのこと。これからやってみたいことを聞くと、始めたばかりのUnityでゲームづくりにチャレンジしたいそうで、将来はゲームクリエイターになってみたいと語ってくれた。

『僕のドラえもん』蓼沼 諒也(タテヌマ リョウヤ)さん(小学5年)

迷路そのものの形や、神経回路が走るような動作から、見た目にも人工知能をイメージしている点が分かりやすい作品。

 「簡単な仕組みを応用できれば、大好きなドラえもんを僕にも作れるかもしれない」というきっかけから制作された、人間の脳をイメージさせる迷路におけるゴールまでの最短経路を探索するというプログラム作品。作品の着想は、単細胞生物の粘菌が迷路を解けることを紹介した児童書『かしこい単細胞 粘菌(福音館書店)』から得たのだそう。また制作面ではシミュレーション計算モデルのひとつである “セル・オートマトン” に関するウェブの記事をお母さんと見つけて参考にしたとのこと。ゴールまでの全経路を神経が走ることで自動探索し、ゴール到達後に今度はスタート地点へ最短経路だけが巻き戻りながら示されていくという、見た目からも内容が伝わりやすい作品である。

作者の蓼沼諒也さん。当日はソースコードだけでなく、参考にした資料も分かりやすく展示していた。

 今回の作品で使用されたのは、学びやすさと奥深さを兼ね備えているビジュアルプログラミング言語・ビスケット。当日は作品のソースコード(ビスケットの場合、言葉ではなくメガネのモチーフがそれにあたる)を印刷したものが展示されており、どのような内容のプログラムなのか丁寧に解説されていた。作者の蓼沼諒也さんは第1回大会でもプログラム作品が最終審査に選出されており、2年連続の入賞。今後は「迷路そのものを生み出すプログラムを作ったうえで最短経路を導き出せる作品にしたい」と、さらなる向上を目指していることを教えてくれた。

『回一首(まわりっしゅ)』菅野 晄(スガノ ヒカリ)さん(小学5年)

画面下から上へと移動するひらがなにボールが引っかかり、画面上部の赤いブロックで示された境界線を越えるとゲームオーバーになる(画像:作者の応募時資料より)。

 「百人一首を楽しく覚えられるようになりたい」と制作されたゲーム作品。歌詠み音声(作者自身の声だとのこと)が流れると同時に、ひと文字(ひらがな)ずつ歌を構成する言葉(オブジェクト)が画面の下から上へと回転しながら浮かんでくる(いわゆる落ちゲーとは逆の動き)。各文字が形として持つ “くぼみ” や “引っかかり” に、画面に表示されているボール(玉)が入り込み、画面上部までボールが到達してしまうとゲームオーバーとなる。うまく文字を避けながらボールを操作するには、次にどの文字が来るかを百人一首を覚えて予想できるようになることがコツ、というテーマを持っている。様々な機能があるなかで「海外の留学生にも楽しんでもらえるように」と、英語版も用意されている点が印象的な作品だ。

作者の菅野 晄さん。後に紹介する『narratica(ナラティカ)』の作者・菅野 楓さんと姉妹揃っての入賞となった。

 作者の菅野 晄さんにお話を聞くと、半年の制作期間の後、同じくらいの時間を掛けて作品をアップデートさせたとのこと。「スリルを感じられるゲーム性なら楽しく百人一首を覚えられそう」と、文字を回転させるなど様々な工夫を考え出した。これまでのプログラミング歴は、Scratchからスタートし、ウェブ開発をHTMLやJavaScriptを通じて経験。その後、Microsoftが開発した言語・C#や、今回の作品で使用したUnityを経て、現在はAppleが開発した言語・Swiftを頑張っているという。ちなみに「いちばん好きな百人一首の歌は?」の質問には、自身の名前である “ひかり” という言葉が唯一使われている『ひさかたの光のどけき春の日に 静心なく花の散るらむ』だと嬉しそうに答えてくれた。

『応援ロボ Maria』kohacraft.comさん(小学6年)

写真中央左に映るのが作品となる応援ロボ。工作やプログラミングの工夫を紹介する手書き資料も多数展示されていた。

 近くに物があると反応する近接センサーを活用して、勉強しているときや疲れているときに、声とダンスで応援してくれるロボット作品。液晶画面も付いていて、画像やメッセージでも応援してくれる。作者は、第1回大会でグランプリを受賞した、お兄さんと姉さん2人の3人グループだ。見た目のデザインや機能のアイデア出しは妹さん2人の担当。「チアガールが好きで、応援してもらえたら頑張れそう」と制作アイデアを出し、特にMariaの顔をどんな表情にするか、何度も作り直して工夫したのだと教えてくれた。

昨年度の参加に引き続き、今年度も兄妹仲良く作品をアピールした。

 いっぽう、プログラミングなどの実装担当はお兄さん。電子工作でよく活用されているArduino(アルドゥイーノ)でプログラミングされている。妹さん2人が「こんな機能も追加してほしい」と出してくる様々なアイデアに、あまり高性能ではない機材で応える必要が生じたため、「コンピューターにとって分かりやすいプログラムに変換する」目的からProcessingという言語を組み合わせる工夫をしたのだという。その結果、Mariaは両手両足を自由に動かせるだけでなく、音声と文字や画像の出力も可能になったとのこと。「最初はもっとシンプルで、ロボットが手足を動かせるだけだったんだけど……」と言いながらも、妹さん2人の要望に技術で応えるお兄さんの優しさが印象的だった。

『キラキラミュージックBOX』平野 正太郎(ヒラノ ショウタロウ)さん(小学6年)

LEDの放つやわらかな光の表現が印象的で、且つ独立して動作するという完成度の高さが際立った作品だ。

 「ないものは自分で作っちゃう。だからこのゲームもArduinoで作った」という明快な理由から作られた、光と音に合わせてタイミングよくボタンを押して楽しめるゲーム機。今回応募されたのは “バージョン4” となる改良版。これまでたくさんの人に遊んでもらって、アップデートを重ねてきた力作だ。

作者の平野正太郎さん。展示中もゲーム機のメンテナンスを自分1人でこなしていた。

 「具体的なアップデートの内容は?」という質問に作者の平野正太郎さんが教えてくれたのは、スピーカーの音を聴き取りやすく/ボタンを押す場所を示す光の発生箇所をランダムに/小さなお子さんでも遊びやすいように音楽のスピードを変えられるように/各種の設定を遊ぶ人が分かりやすく調整できるように、など、徹底して「どうすればもっと楽しく遊んでもらえるか」というユーザー目線に立った内容ばかり。将来は「人の役に立つような便利なロボットが作りたい」と抱負も語ってくれた。

『ツンデレ貯金箱』三重っ張りチルドレンさん(中学1年)

貯金箱の中央に付けられた画面に、不機嫌そうな表情とともに「マア、ショセンコンナモンカ。ビミョー」といった、貯金をうながすようなツンデレセリフが表示される。

 貯金箱に表情を示す画面が付いており、目標金額へ向けてお金を入れないと不機嫌な表情が表示され、貯金箱を喜ばせるために貯金を頑張る必要がある、というユーモアな作品。「ただの貯金箱じゃつまらないし、ちょっと便利なものでも “ただ便利なだけやん!” と思っちゃうから」というのが、ツンデレというアイデアを生んだのだそう。こどもパソコンであるIchigoJam、およびBASIC言語が使用されている。制作したのは、同じ三重県内でではあるものの、普段は車で2時間以上の距離に暮らしている男子2人の遠距離コンビ。2人はプログラミングと電子工作をそれぞれ分けて担当しており、互いの進捗を揃えないと制作が進められないため、Facebookのメッセンジャー機能などでやり取りをしながら完成までたどり着いたのだという。

さながら漫才コンビのような絶妙な掛け合いを見せてくれた、作者である三重っ張りチルドレンの2人。

 工作面で工夫したのは、入れた硬貨の種類をセンサーが選別できるように、硬貨がセンサーのある各小部屋へ正しくすべり落ちて行く「黄金比じゃないけど、それ的な絶妙な角度」のスロープ(すべり台)部分。サイズの似ている5円玉と50円玉を区別する点についても試行錯誤を重ねたとのこと。いっぽうプログラミング面の工夫としては、「貯金箱の実物が自分の手元にない状況でセンサーを設計するために、仕組みを再現して開発するための方法を思い付くまでが大変だった」と、遠距離でペア開発を進める2人ならではの苦労を語ってくれた。今後作ってみたいものとしては、2人揃って「今あるものを面白おかしくすることで、課題が解決できるような作品」とのことで、2人のコンビも「一生続くんじゃないかな(笑)」と強い結束を言葉で表現してくれた。

『金魚まもる君』野口 航(ノグチ ワタル)さん(中学2年)

実際に水槽を持ち込んで作品が展示されていた。ただし金魚は「自宅でお留守番してます」とのこと。

 金魚が暮らしている水槽内の状況を、水温:温度センサー/水のにごり具合:照度センサーとLED/水槽内のpH(ペーハー):pHセンサーと複数のセンサーでモニタリングし、その数値をブラウザ上に表示するという、ハードとソフトを組み合わせて開発された作品。家族のなかで金魚の世話を担当している作者のお母さんの負担を減らしたいという思いが制作のきっかけになったという。CPUの冷却などにも用いられる “ペルチェ(ペルティエ)素子” という電子部品を採用したことで水槽内の水温を調整できる点や、ブラウザにセンサーからの情報を数値だけでなくグラフやメーターで分かりやすく表示させた点などが、工夫したポイントとのことだ。

審査員に作品をアピールする、作者の野口 航さん。ハードウェアとソフトウェアのスムーズな連動が作品の大きな魅力だ。

 主にArduinoを用いてこの作品を制作した野口 航さんに話を聞くと、プログラミングと電子工作について、別々に取り組んだ経験はあるが、それらを組み合わせた作品制作は今回が初めてだという。現在興味を持って勉強しているのは3D関連の開発。「今はなかなか難しいけど、3Dを活用するプログラマーに将来はなりたい」と今後の夢も語ってくれた。

『narratica(ナラティカ)』菅野 楓(スガノ カエデ)さん(中学2年)

映画などの脚本における登場人物の感情をグラフ化し、様々なストーリーで比較してみると、優れた脚本にはストーリー全体における緩急のバランスに “1:2:1” という共通した比率が見出だせるのだという。

 自然言語処理を用いて映画やドラマの脚本を解析し、登場人物の感情をグラフ化することで「面白いお話の構成とはどういうことなのか」を調べるソフトウェア作品。オーソドックスな物語の展開があることは知っていたが、映画『君の名は。』における登場人物の感情グラフ(下記の新海 誠氏によるツイートを参照)とオーソドックスなそれは全く波形が異なっており、「面白いストーリーにはいくつかのパターンがあるのでは?」という自分の問いを確かめるためにこの作品を制作したのだという。

多数の関係者へ向けて堂々と作品をアピールする、作者の菅野 楓さん(写真右)。

 制作プロセスについて作者の菅野 楓さんに質問すると、言葉の処理をおこなうための手法である形態素解析についてはゼロからのスタートで、大学の先生に意見を求めに行くなどして学んだとのこと。苦労した点としては「日本語によくある “主語がない文章” について、どうすればそれを話した登場人物に正しく割り振れるか」だったそう。この点は、主語を持つ前述の文章を参照することで解決できたと教えてくれた。ちなみに自身が物語の作り方(構成)に関して興味を持った際に「アニメ監督の宮崎 駿さんは宮沢賢治の影響を受けているらしい」と聞き、それを確かめるべく宮崎監督本人に話を聞くため、実際にスタジオジブリへ足を運んだ(そして宮崎監督と話せた!)のだという。自らの考えを形にするために、識者へ意見を求めたり、プログラミングという手法を学んでみたりと、具体的にアクションを起こしていく力強さが印象的だった。

実行委員による座談会:AI時代の教育と地域への広がり

 以上ご紹介した10点の作品について、審査員が最終審査をおこなっている時間を利用して、会場では応募者がステージに登壇し、客席およびニコニコ生放送視聴者へ向けた作品紹介が実施された。当日のイベント司会を務めた吉田尚記氏(ニッポン放送アナウンサー)と小中学生たちの軽快なやり取りで、会場は大きな盛り上がりを見せた。

作者1人1人に対して吉田アナウンサー(写真右)から時には技術的な質問も交えられつつ、インタビュー形式で作品紹介の時間が設けられた。

 作品紹介に続いて、大会の実行委員を務める、遠藤 諭氏(株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員)・清水 亮氏(株式会社UEI代表取締役社長兼CEO)・石戸奈々子氏(NPO法人CANVAS理事長)と、司会の吉田アナウンサーが登壇しての座談会「AI時代の教育と地域への広がり」がおこなわれた。

AI時代の教育は何を目的にするか/教育現場でのデジタル活用は今後どうなる?

座談会がおこなわれたステージの様子。

 遠藤氏の「AI時代の教育とは?」という質問に、清水氏は「プログラミング教育の目的としてロジカルシンキング的な能力を獲得するというイメージが先行していた時期から、ディープラーニングやAIが登場した現在、教育における賢さや知性、知能の定義・基準をもう一度考え直す時期へと、教育の目的も変化していると言えるのでは。AlphaGo(アルファ碁)が棋士の直感をロジックで打ち負かしたわけだから、ロジカルな能力で人間を上回るコンピューターを使いこなすために、プログラミングが必要だという話なのではないでしょうか」とコメントした。

大会実行委員を務める、清水氏(写真左)と石戸氏(写真右)。

 石戸氏からは「保護者や教師の方々からのAIに関する感想は漠然とした不安を感じさせる声が大半。大人でも理解するのは難しい題材だが、AIがどういうものかの具体的なイメージを伝えることは必要」という教育現場の状況が紹介された。また前述の状況を踏まえ「新しいデジタル文化やデバイスについて、最初は教育面で否定的な保護者の反応が多くても、保護者の世代自体が入れ替わることで状況はこれまでも変化してきた。この歴史を踏まえれば教育現場へのIoT導入も今後おそらく進んでいくだろうが、結局はそれを何に用いるかが重要」と、プログラミングやデジタルを教育で活用するうえでの本質的な目的を追求することの重要性を石戸氏は述べた。

プログラミング教育を進めるにあたり、地域における情報差を改善していく取り組みが重要

実行委員会の事務局長を務める遠藤氏。座談会では主にモデレーター役を務めた。

 プログラミング教育自体の地域への広がりについてテーマが移ると、まず石戸氏から「プログラミング教育の必修化を見据え、多数のプログラミング教室が出てきたが、とは言えまだ首都圏が多い。住んでいる地域で得られる知識に差が生じないように、各地域へ出向いてワークショップなどを開催し、プログラミング教育を届けるようにしている」と、NPO法人CANVASの取り組みについて紹介があった。この点に関する吉田アナウンサーの「距離に関わらず情報や知識にアクセスできるのがネットの強みですよね?」という意見に対して、石戸氏が披露したのは「個々人が限りなく無料に近いコストで、ネットを通じて自らのペースで学べるような時代における、学びとは何か?学校とは何か?ということが問い直される時期に来ている」という考え。ここでも、冒頭の清水氏による考察とも近い「知性や学びの定義そのものを見直す」という点が触れられたのが印象に残った。

 ここから話題は、学校での学びだけに限定されない学びの在り方など、広い社会を巻き込んだ “教育のリ・デザイン” といった点に関する意見交換へと展開。話は尽きないものの、タイムリミットを迎えて座談会は終了した。

グランプリ/総務大臣賞は小5の「自分だけの人工知能」を目指した作品に!!

 応募者の作品発表と座談会を経て、いよいよ表彰式。今年度の審査基準である「発想力」、「表現力」、「技術力」の観点から、最終審査を経て下記のような結果で各賞の授与がおこなわれた。

作品名 応募者名(敬称略) 学年
グランプリ/総務大臣賞 僕のドラえもん 蓼沼 諒也 小学5年
準グランプリ narratica(ナラティカ) 菅野 楓 中学2年
準グランプリ キラキラミュージックBOX 平野 正太郎 小学6年
優秀賞・中学校部門 ツンデレ貯金箱 三重っ張りチルドレン 中学1年
優秀賞・小学校高学年部門 回一首(まわりっしゅ) 菅野 晄 小学5年
優秀賞・小学校低学年部門 あなたのバーチャルアシスタント・ロボット"NOYBO" 森谷 頼安 小学3年
イシダ賞
(株式会社イシダ提供)
応援ロボ Maria kohacraft.com 小学6年
入選 金魚まもる君 野口 航 中学2年
入選 毎日チェックアプリ 大竹 悠太 小学4年
入選 とうちゃんおこしロボ 崎山 盛一 小学1年

 第2回のグランプリである総務大臣賞には、小学5年・蓼沼諒也さんの作品『僕のドラえもん』が輝いた。粘菌の動きという自然界のアルゴリズム(ネイチャー・テクノロジー)とプログラミングを組み合せた発想が、今後のプログラミング教育普及における指針を示すうえでの好例だとして、グランプリ/総務大臣賞に選ばれた。

グランプリに輝いた蓼沼諒也さん。「グランプリになるとは思っていなかったのでめちゃくちゃ嬉しいです。コンピューターも粘菌も両方好き。(将来、何になりたい?の質問に)すごい人かな」と、恥ずかしそうにしながらも喜びを述べた。

 準グランプリには2作品が選ばれた。準グランプリ1作目は、中学2年・菅野 楓さんの作品『narratica(ナラティカ)』。すでに存在している課題を解決するためにプログラミングを用いるというのではなく、問いそのものを作り出し、何が課題であるかを見つけ出すために、プログラミングを活用するという動機から、大人顔負けの作品を完成させた点が評価された。

準グランプリ受賞の菅野 楓さん。「嬉しいです。これからも頑張ってnarraticaをもっと発展させた作品にしたいと思った。将来はちゃんと世の中の人に役立つようなサービスを作れるようになりたいです」と今後の抱負も語った。

 準グランプリ2作目は、小学6年・平野正太郎さんの作品『キラキラミュージックBOX』。ゲーム作品としての完成度の高さもさることながら、電子工作技術の面でも内部が非常によく考察されて作られていた点が、審査員から高く評価された。受賞の喜びを壇上で “スキップ” しながら体の動きで表現した平野さんの様子も印象的だった。

準グランプリに輝いた平野正太郎さん。「実は1位になれるとイベント前はポジティブに考えていたけど、みんなの発表がすごくて諦めかけていた。一言であらわすなら、今の喜びをプログラミングで表現したいくらい嬉しいです」と受賞の感想を教えてくれた。

 なお、すべての受賞者に賞状授与のうえ、グランプリには盾と副賞「MacBook Pro 13インチモデル」、準グランプリには副賞・ノートパソコン「HP Spectre x360」、優秀賞には副賞・ノートパソコン「HP Pavilion x360」、特別賞であるイシダ賞には副賞・図書カード3万円分が、入選には記念品・書籍『ギネス世界記録2018』がそれぞれ贈られた。

 各賞授与のあと、審査委員長である河口洋一郎氏(CGアーティスト、東京大学大学院情報学環教授)から「受賞作品はただプログラミングをしたという以上のプラスアルファを持ったものばかり。加えて、それぞれが異なる方向性を持った、豊かな多様性のある作品が揃った。それぞれ我が道を行く受賞作品を審査するのは難しくも楽しいことだった」と、第2回大会が非常に充実した内容であった旨の総評が述べられた。

昨年度に引き続き審査委員長を務めた河口氏。

 またそれぞれの賞は審査員である、金本 茂氏(株式会社スイッチサイエンス代表取締役)、林千晶氏(ロフトワーク代表取締役)、増井雄一郎氏(株式会社トレタCTO)、松林弘治氏(エンジニア/著述家、Project Vine 副代表)から、講評付きで授与された。

作者、審査員、実行委員揃っての集合写真。未来に対する期待が会場中にあふれるイベントとなった。

今年度の応募者属性/今後の大会による取り組み

 本レポートの最後に、今年度の第2回大会・応募状況について、簡単にご紹介したい。

 昨年度の第1回大会と比較すると、応募作のジャンルとしては<ゲーム>と<アート・デザイン>の割合が減少し、いっぽうで<電子工作・ロボット>と<アプリ・ツール>の割合が増えたという結果になった(前回比で、ゲーム:7パーセント減/アート・デザイン:11パーセント減/電子工作・ロボット:8パーセント増/アプリ・ツール:11パーセント増)。とは言え、応募作品の半数はゲームが占めており、プログラミングへの取り組みとゲーム開発の高い親和性は今年度の状況からも見て取れる。

第2回大会応募作のジャンル内訳(N=167)。

 応募者の学年としては、第1回大会はの小中の応募比率が “ほぼ半々” だったが、今年度は小学生からの応募が71パーセントという結果になった。特に応募全体の53パーセントを占める小学校高学年については、審査に関わった事務局スタッフからも「部門賞の審査における激戦区だった」という感想が聞かれた。

第2回大会応募者の学年内訳(N=167、グループ応募の場合は代表者の学年)。

 なお、大会実行委員会である「全国小中学生プログラミング大会実行委員会(略称:JJPC)」は、2017年12月に株式会社イシダ協賛のもと、滋賀県の栗東市教育委員会と連携し、栗東市の小学5~6年生と小学校教員へ向けたプログラミングワークショップを開催することが、栗東市の野村市長による定例記者会見で発表された。JJPCは今後も様々な地域や企業と連携し、小中学生に向けたプログラミング関連の取組みを続けていくということだ。

 また、本レポートでご紹介してきたイベント当日の様子が動画にまとめられており、こちらも是非ご覧いただきたい。

イベント当日の様子(動画提供:moovoo)

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