Knights Coveで時間を稼ぎ
その次のKnights Runが本命
ではどうするのか? というのが次の話。今のところインテルはKnights Hillに代えてKnights Coveという次の製品を2019~2020年の段階でまず投入、次いでKnights Runという製品を2022年までに投入し、これがAurora用になると言われている。
まずマイクロアーキテクチャーだが、Knights Hillは基本的にKnights Landingのプロセス微細化版と目されていた。Knights Landingは14nmプロセスを利用し、Silvermont(つまりAtom系列)の整数パイプラインにAVX512エンジン×2を組み合わせたコアを最大72個搭載する。
AVX512エンジンはDP(64bit)の値を8つ同時に扱え、しかもFMAD(Fused Multiply and Add:積和演算)処理が可能なので、1サイクルあたり16FLOPS相当になる。ハイエンドの「Xeon Phi 7290F」の場合、72コアで1.5GHz駆動なので、16(FLOPS/サイクル)×72(コア)×1.5GHz=3456GFLOPSという計算である。
これがKnights Coveでは、コアがIceLake-SP(Skylake-SPの10nmプロセス版)に32GBのHBM2を搭載したものになると、もっぱらの噂である。コア数は38ないし44だそうで、こちらもSkylake-SPに1つのコアにAVX512エンジンを2つ搭載したものになる。仮に動作周波数が3GHzと仮定すると以下の性能になる。
- 38コア:16(FLOPS/サイクル)×38(コア)×3GHz=3648GFLOPS
- 44コア:16(FLOPS/サイクル)×44(コア)×3GHz=4224GFLOPS
というあたりで、Knights Landingから微増というあたりでしかないが、おそらくこれはポイントリリーフで、次のKnights Runではもっと多数(~88コア程度?)のコアを集積したものになるとみられる。そうでないと1EFLOPSが実現できないからだ。
仮にAuroraの規模を維持する(5万ノード)と仮定すると、1ノードあたり20TFLOPSほどが実現できないとまずい。1ノードにXeon Phiを2つ、Xeon SPを1つという構成だとすると、Xeon Phiが88コア/3GHz動作、Xeonが38コア/3GHz動作ならだいたいノードあたり20.5TFLOPSほどが出せる計算になる。
時期的にはKnights Runや、これと対になるXeon SP(こちらはコード名がIce Ageだそうだ)は7nmプロセスを使ったものになるだろうが、あとはこの7nmがどこまで消費電力を抑えられるかということに尽きそうだ。
ところで、なぜKnights CoreでいきなりXeonコアを使うかだが、Knights Landingのチーフアーキテクトを勤めたAvinash Sodani氏が2016年9月にCavium Inc.に転職しており、Xeon Phiのチーム自身も現在弱体化していると噂されている。
すでに命令セットはAVX512でXeonとXeon Phiは共通化されており、Xeon-SPコアをHPC向けにローカルキャッシュを強化(このためにHBM2を利用)する程度でお茶を濁さざるを得ないということだろう。このあたりもなかなかインテルの苦しい事情が透けて見える。
ちなみに今年のSC17では、そのCaviumは下記のプレゼンテーションを出しており、インテルとやる気満々である。もっともそのCaviumもMarvell Semiconductorに買収されるというニュースが今月に入って流れているので、この先どうなるのか不明ではある。

この連載の記事
-
第813回
PC
Granite Rapid-DことXeon 6 SoCを12製品発表、HCCとXCCの2種類が存在する インテル CPUロードマップ -
第812回
PC
2倍の帯域をほぼ同等の電力で実現するTSMCのHPC向け次世代SoIC IEDM 2024レポート -
第811回
PC
Panther Lakeを2025年後半、Nova Lakeを2026年に投入 インテル CPUロードマップ -
第810回
PC
2nmプロセスのN2がTSMCで今年量産開始 IEDM 2024レポート -
第809回
PC
銅配線をルテニウム配線に変えると抵抗を25%削減できる IEDM 2024レポート -
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート -
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート - この連載の一覧へ