今年前半(2017年6月末)までに発売されたトゥルーワイヤレスイヤフォン14機種を比較してきた。まだ新しいカテゴリーにもかかわらず、数千円台の通販専売品から、4万円近いプレミアムクラスまで、すでに様々なバリエーションが存在している。
それらを較べて浮き上がってきたのは「AirPodsとそれ以外」というくくりだ。「世の中のトゥルーワイヤレスイヤフォンには、2種類しかない」。そう言い切ってしまうのはいささか乱暴だが、そうした視点で整理した方がわかりやすい部分もある。
ではAirPodsはほかと何が違うのか。イヤフォンの機構としては、開放型と密閉型の違いであり、そこから来るメリットとデメリットの違いでしかないが、それだけではない部分もある。
トゥルーワイヤレスイヤフォン比較の締め括りとして、AppleのAirPodsを半年以上使ってきた印象と、そのポジションを考えてみたい。最初にまずAirPodsの何がいいのか。
Apple機器間の連携
世間一般で言われている通り、AirPodsの使い勝手は最高だ。
iPhoneとペアリングするだけで、iCloudにログインしている機器の設定が更新され、それぞれのメニューからAirPodsを選ぶだけで接続できる。そして耳に装着すれば再生機器と接続され、取り外せば音楽は一時停止、装着しなおせばまた再生する。素晴らしい。
そうしたソフトウェアパワーにAppleの強みがあるのは確かだが、世間の大多数を占めるAndroid端末では、そうしたApple風おもてなし機能は一切効かない。それでも素のトゥルーワイヤレスイヤフォンとしてAndroidでも使えるし、その際にもAirPodsのハードウェア的アドバンテージはかなり大きい。
連続再生時間が2倍
AirPodsの重量は片側4.0gで、トゥルーワイヤレスイヤフォンの中では最軽量の部類だ。こうした小型軽量モデルは、バッテリー容量が限られるため、通常は2時間から3時間程度しかパワーは持たない。
ところがAirPodsの連続再生時間は5時間。ほかの機種のおおむね倍だ。AirPods本体のバッテリー容量をAppleは明らかにしていない※が、これは省電力設計が行き届いた結果と推察できる。というのも、たった15分の充電で3時間使えるのだ。他社の製品は、3時間動作させるにはフルチャージが必要で、それには2時間以上かかる。
※ 分解専門サイトのiFixitによると93mWh(単位がmAhでないことに注意)だったそうだ
音ズレ&フェージングなし
AirPodsのレイテンシー(信号遅延)の低さは特筆ものだ。レイテンシーはまず動画再生時の映像と音声のズレとして現れるが、テストしたAirPods以外の製品は、多かれ少なかれすべてがこの問題を抱えていた。
ただ、音ズレは音楽のみを聴く場合はなんの問題にならない。もっと深刻な問題はフェージングだ。これは左右イヤフォン間の位相差で起きる音場の揺れで、コンテンツが音楽でも動画でも同じように起きる。これも程度の差は大きいが、中には音が回り続けて止まらないものもあった。果たして音場のセンターが定まらないものを、ステレオ再生装置と呼べるのかどうか。
だから、あまりにフェージングがひどいものは記事にしなかった。「あのメーカーのあの機種はなぜレビューしないのか」という疑問については、すべてとは言わないが事情があったということでご理解願いたい。
AirPodsはそうしたレイテンシーに起因する2つの問題を、まったく意識させなかった。レイテンシーの低さと省電力設計。これがAirPodsのハードウェア的アドバンテージだ。