カンファレンスカメラマンがワイワイ楽しんだ「カンファレンスカメラマンカンファレンス」
カンファレンスの興奮を切り取るカメラマンの知見と矜持を見た
2017年08月24日 11時00分更新
数もすごいが、こだわりもすごい!(Yahoo! JAPAN公式カメラ隊)
ここまでも十分充実したLTだったが、もっとも盛り上がったのは、8番手のYahoo! JAPANの隼田正洋さんのセッションであろう。冒頭、両国国技館で開催されたYahoo! JAPAN 20周年の集合写真のスケールとクオリティで聴衆の度肝を抜いた隼田さんは、組織として写真に真摯に向き合う「Yahoo! JAPAN公式カメラ隊」の活動を紹介した。
Yahoo! JAPAN公式カメラ隊は、イベントや社内報のインタビュー、プロフィールの撮影、ブツ撮りなどYahoo! JAPANグループの写真撮影のニーズを幅広く支えるボランティア集団。ヤフー パーソナルサービスカンパニー ゲーム&マッチング本部に所属する隼田さんは、このYahoo! JAPAN公式カメラ隊の隊長も務めている。
圧巻なのは101名というスケールの大きさ。会場は「えええええ!」「嘘でしょ」「業者?」といった声があふれ、騒然となる。2012年に依頼フローを整えたことで、需要は急増し、イベントの撮影だけでも月に約15件に達しているとのこと。「戦いは数だよ兄貴」という名言を思い出すような組織戦と言える。
数だけではなく、質にもこだわるYahoo! JAPAN公式カメラ隊。続いて披露されたのは、カンファレンス撮影のTIPSだ。たとえば、プロジェクタの投影画面で色かぶりが起こるという問題に対しては、シャッタースピードを1/60くらいにしておけばだいたい問題ないという。「手ぶれを恐れて、1/300とか、1/500とかにしがちですが、こうすると色かぶりが起こってしまう」(隼田さん)。また、プロジェクタの明るさで登壇者の顔が暗くなるという問題に関しては、RAW現像でシャドウを持ち上げるか、人に明るさを合わせて、後ろのハイライトを落としているという。
こだわっているのがノウハウの集合体とも言える集合写真。東京国際フォーラムでのハイクオリティな社員大会の写真を見せた隼田さんは、「主題を決めること」「きれいに並ばせる」の2つをポイントとして挙げる。「主題を決めないと、人がいっぱいいるというだけで、どんなイベントか伝わらない。たとえば中心人物を主役として思い切り手前に置いたり、全員主役の場合は狭い範囲で一人一人の顔が写るように列をいっぱい作る」(隼田さん)。また、会場にバミったりすることで並び方も最適化。事前のリハーサルも怠らないのが、成功する全体写真のコツだという。
最後、隼田さんは「今回こういうイベントを開催してくれて、ありがとうございます。次回はぜひうちの会場でやらせていただきたい。いっしょにやりましょう!」とアピールし、会場も盛り上がった。規模やこだわりはもちろん、写真を重視し、社内カメラマンの組織化を会社として推進している点も素晴らしいと感じた。
いろいろ気になるこだわりカメラマンがとった行動は?(大和さん)
9番目の大和一洋さんは、ミラクル・リナックスに勤務。普段はLinuxカーネルをデバッグしたり、デジタルサイネージやWebアプリを開発しているが、趣味で家族や風景をメインに撮っているという。「自慢なんですけど、港区の観光フォトコンテストで入選しました!」(大和さん)ということで、かなりの腕前のようだ。
カメラ好きということもあり、入社式や社員紹介、社員旅行の撮影を頼まれるという。このうち社員紹介は若者がドヤ顔でパソコンを広げていればOKで、社員旅行も風景がきれいで、社員も楽しそうなので問題ない。しかし、入社式のような室内の集合写真は難しいという。たくさんの人が列を作ると被写体深度を深くする必要があり、背景にすぐ壁があるため、ボケが使いにくいのが1つの理由。集合写真の撮り方をテーマにした書籍や記事も少なく、こだわり過ぎるとウザがられることも多いという。「事前のロケハンしっかりしようというと、かえって迷惑がられるので、やりにくいこともある」(大和さん)。
大和さんは天バンによるフラッシュ撮りを行なった入社式の写真を元に、「自然発色が難しい」「黒のスーツが多いので、つぶれやすい」「順光のてかり」「壁や床の模様が単調」など改善ポイントを列挙。大和さんは「ここにいる人はけっこううなずいてくれるけど、会社の人からは『なんでそんなこと気にしているの?』と言われる(笑)。エントツとかもわからないんですよね」と悩みを吐露する。
入社式では、外に出て桜の前でも撮影したが、桜が少なく、背景のコンビニの看板がすごく気になった。困ったすえ、「フォトショで桜を盛った」「道路も切り抜きした」には会場も大爆笑。でも、大和さんも「こういうアプローチは僕が目指すのと違う方向(笑)」と思い直し、今回イベントで集合写真のノウハウを得たいと考えたという。
最後、大和さんは愛機の「Nikon D800」ほか、レンズや使用機材について説明。「カメラマンとして、勉強会・イベントに誘ってください!」とアピールして、LTを終えた。こだわりカメラマンの孤独を感じたエモいセッションだった。
オープンデータの研究者がカメラを手にしたら?(加藤さん)
トリは「とある研究者の写真生活」というタイトルでLTを行なった加藤文彦(ふみひろ)さん。タイトルの通り、加藤さんは国立情報研究所の研究者で、オープンデータのNPOにも関わっている。カメラを始めたのは3年前で、NPOのイベントを撮影しようと思ったのと、子供が産まれたことがきっかけだという。
研究者としてカメラに関わってよかったのは、やはりプレゼンのネタが増えたこと。「研究者ってとにかくプレゼンが多いので、写真が増えて助かっている。ストックフォトを買うことが減った」(加藤さん)。1年で20回近くイベント撮影していたが、一番大変だったのが神戸で行なわれた「ISWC 2016」というカンファレンス。「大変だったのは『Poster & Demo Minutes Madness』という発表で、一人45秒で102人が登壇した。ピアニカ吹き出したり、チャンバラ始めたり、とにかく大変だった」(加藤さん)。
また、オープンデータの研究者ということもあり、Wikipedia Townへの取り組みも披露された。Wikipedia Townはランドマークに対して市民がWikipediaの記事を作り、現物にQRコードを張って読めるようにした実験的な街のこと。こうした取り組みで重要なのは写真で、加藤さんも地元の神社で写真を撮って、記事を書いて、Wikipedia Commonに登録するといった作業を行なっているという。「イベントのための撮影じゃなく、撮影のためのイベント」というフレーズが、写真を主体的に楽しんでいる人の意見として印象的だった。
写真への愛にあふれ、初回から最高だったイベント
10本のLT終了後は、もちろん全体写真! カメラマンがとっかえひっかえ自慢のカメラを構え、それぞれの作品を取り終え、イベント本編も無事終了。会場を出る直前まで、カメラ談義に花が咲き、充実した2時間半はあっという間に終了した。
写真に興味を持つ記者として参加した筆者も、当初はテクニックや機材の濃い話で会場の笑いについて行けなかったらどうしようと不安を持って参加したが、まったくの杞憂。とにかく一人一人のLTに写真への愛がにじみ出ていて、素人も十分楽しめるイベントだったと思う。
なにより主催者が「対立をあおるような発言は禁止」と明言したこともあり、登壇者も参加者も、お互いをリスペクトしあい、素直にノウハウを学びあおうという空気感が「これぞコミュニティ」という感じでとても心地よかった。次回もあったらぜひ参加したいが、一方で「伝説の神回」として今回で終わりにしてもよいのではないかとも思わせる魅惑なイベントだった。
なお、カンファレンスの資料の一部は、以下のイベントサイトからダウンロードできる。