平成27年度経済産業大臣賞を授賞した、鶴保氏との2016年から本格化するSIMロックフリーの可能性や、ベンチャーにおけるビジネスプランのあり方などを対談形式で発信します。
平尾 :鶴保さん、経済産業大臣賞の受賞、おめでとうございます!
※鶴保氏は、平成27年度「情報化促進貢献個人等表彰」において、経済社会の情報化促進に貢献したと認められ、経済産業大臣賞を受賞されることが決定。
※情報化促進貢献個人等表彰について 総務省、文部科学省、国土交通省により、経済社会の情報化の促進に多大な貢献をなしたと認められる個人・企業等(企業、団体、教育機関等)に与えられる。
鶴保 :ありがとう。
平尾 :本日は、ベンチャーの在り方や私の事業プランなどへのアドバイスや叱咤、よろしくお願いします!
2015年12月より、日本でのSIMロック解除が解禁
鶴保 :まずは、グローバルSIMについて教えてほしいのですが、平尾さんはグローバルSIM「TAKT(タクト)」をリリースしましたが、どういった経緯でこのビジネスを始めたのでしょうか?
平尾 :私は会社を今年7月に設立しました。IoTネットワーク機器ODMベンダーであるサーコムジャパンに勤めていた時、「IoT(Internet of Things)/ M2M国内市場普及への ODM 活用術レポート」を書きました。そのレポートをご覧いただいた企業が300社ほどとなり、実際にお会いした95%の企業から「IoTについて教えて欲しい」と言われました。
国内企業のIoT事情は「情報不足」だったり、「理解不足」などのリテラシーの低さや、素晴らしい技術を保持していながら、パートナーとなりえる企業との出会いが少ないのではないかと感じました。
このような企業をサポートすることをビジネスにしようと決めたことが創業のきっかけです。
起業をすると同時に、IoT向けの新規事業やプロジェクトを創る、プラットフォーム・ビジネスに乗り出しました。
そのうちの1つがTAKT(タクト)というブランド名で世界約200カ国に展開している、グローバルSIMカードを使った海外渡航支援サービスです。
日本から毎年1700万人が海外に渡航しているが、海外でのローミングが高額で余り海外では携帯電話が使われていません。我々のSIMカードを使えば、最大85%のコスト削減ができる。プリペイド型なのでユーザーはあらかじめ金額を決めて利用でき後から過大な請求に驚くこともありません。このSIMは、IoTやM2Mにも使えるため、グローバル展開の一助になるとえています。
2015年12月より、日本でのSIMロック解除が解禁される。当社のSIMカードは、日本でのスマホの3種類あるSIMに対応できる。現在でもCDMA製のスマホは10%程度シェアがあり、その端末であればすぐに使えます。
しかし、海外向けSIMフリーにするには手数料が3,000円かかるので、より普及させるため、2つのSIMが使えるデユアルSIM端末をレンタルなどで提供していく予定です。
インターオペラビリティテストを不要とし
すぐにグローバルIoT製品として展開できるSIM
鶴保 :このSIMの技術を教えて下さい。
平尾 :このSIMの入った携帯を持って日本から海外へ行った際、その地域で一番安く、通信環境の良いキャリアをチップに内蔵されたソフトウェアが自動的に選び、つなげてくれる。現在、200カ国以上で利用できるこのサービスを我々はまず日本で展開した後、アジアや米国など全世界で展開していく予定です。
我々はこのSIMを、まずはBtoC向けに「TAKT(タクト)」というブランドで販売していきます。
鶴保 :アカマイに似ている。
世界中の国のIOTを受ける必要がなくなり、すぐにグローバルIoT製品として展開できるようになる。
平尾 :我々の強みは、圧倒的な低コストです。例えば、米国で3日間、1日30分の通話と50メガの通信を使った時に、SIM代金、レンタル端末料、通信料、着信料、データ通信料を圧倒的に安く提供できます。
もう1つの強みは、今後伸びるグローバルIoT分野です。IoTで繋がる機器をグローバルに展開するにはインターオペラビリティテスト(IOT) を受けなければその国で使うことができません。
このIOTは各国の通信キャリアが決められた手順で行い、国によっては、半年以上の時間と数千万円以上のコストがかかる。我々のSIMを使えば、すでに各国のキャリアと契約しているので、このIOTが不要になる。だから、各種機器をこのSIMが使える構造にすれば、世界中の国のIOTを受ける必要がなくなり、すぐにグローバルIoT製品として展開できるようになる。
鶴保 :それは可能性が高いですね。
平尾 :ですから我々は、IoTプロジェクトを推進するデフォルトのグローバルネットワークとして利用してもらう。それにIoTで新規事業を展開していく"マッチングエンジン"としてソフトウェアベンダーをマッチングするサービスも展開していく予定です。
鶴保 :BtoBのためには日本の機器メーカーに認知してもらうのが先決だね。
この20年大学発ベンチャーが1000社くらい出てきたが
成功したのはほんのわずか
平尾 :ところで鶴保さん、ベンチャー企業としてこれから気をつける点を教えて下さい。
鶴保 :この20年大学発ベンチャーが1,000社くらい出てきたが、成功したのはほんのわずか。皆、研究に特化していて、ビジネスプランを描ける人が少ない。
ベンチャーの場合、VC(ベンチャーキャピタル)と社長との人間関係を常に構築しておくことがカギだ。若い友人にタレントマネジメントを手掛けているベンチャー企業があるが、その点を上手にクリアし、自動車メーカーなど300社にソフトが使われだし、飛躍しつつある。
ビジネスプランは大きく シンプルに描いたほうがいい
平尾 :今後の目標はこのTAKTによるBtoC事業で2018年までに営業利益30億円をめざします。日本からの海外渡航者は1,700万人。そのうち10~15%(数10万~数百万枚)をターゲットにしています。SIMフリーが本格化する2016年から大きく動き出すとみている。
次にBtoBの海外出張市場に目をつけています。年間約500万人の海外出張での通信コスト削減や海外出張管理の一元化を図る。最後は、数百から数千兆円市場が見込まれるIoT通信市場。ここではグローバルに展開するメーカー向けに通信検証時間やコスト削減ビジネスを展開していく。2025年に1,000億円、創業13年目で1兆円の売上を目指し、シスコの時価総額世界最速記録を破りたい。
鶴保 :ビジネスプランは大きく、シンプルに描いたほうがいい。期待しています。
平尾 :本日は、ありがとうございました。今後ともご教授お願いします!
鶴保 征城(つるほ せいしろ)
一般社団法人 組込みイノベーション協議会 理事長
1966年大阪大学大学院工学研究科電子工学修士終了、電々公社(現NTT)入社。89年NTTソフトウエア研究所長、NTTデータ常務、NTTソフトウエア社長を歴任。2004年IPAソフトウエア・エンジニアリング・センター初代所長。現在、一般社団法人 組込みイノベーション協議会 理事長、電気情報通信学会・情報処理学会のフェロー。工学博士。
平尾 憲映(ひらお のりあき)
1983年生まれ。3度の起業経験と1度の会社清算を経験する。米国留学時代に宇宙工学、マーケティング、スタートアップ創業などを学ぶ。2008年米カリフォルニア州立大ノースリッジ校卒業後、ソフトバンクモバイル㈱に入社。孫正義氏、松本徹三氏との出会いから新規事業創設に従事。サーコムジャパン㈱を経て14年2月、㈱ワイヤレスゲート新事業イノベーション室長、現Planetway Corp.代表取締役CEO/ファウンダー。
(提供:プラネットウェイ)
※この記事はプラネットウェイのオウンドメディア「avenu-Jam」に掲載された記事を再編集したものです。
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