消音性能や音質に不満なし
適切な容量のイヤーパッドと、そもそもノイズキャンセルヘッドフォンとしては軽い重量のおかげで、装着快適性も合格点が付けられます。
気になるアクティブノイズキャンセルの性能ですが、いまだこの性能で他メーカーを引き離しているボーズや、それに次ぐソニーのトップレンジの製品には及びません。しかし、それ以外の製品の中では、かなり頑張っている方だと言えます。
少なくとも、この価格帯のノイズキャンセルヘッドフォンにありがちな、気休め程度のオマケような効き目ではありません。600Hz以下の雑音成分を相殺し、空調音から電車内の低い帯域のノイズを低減する効果は、スイッチオンで明確に感じ取れます。
音質についても不自然な補正がかかっておらず、ローエンドからハイエンドまで、脚色の少ない音作りは好ましいところ。高域については、ノイズキャンセルを入れるとはっきり減衰しますが、位相差や特定の帯域の飽和を感じさせないチューニングは立派です。
もちろんノイズキャンセルを入れず済むなら、そうした方が音としては良いのですが、遮音の必要な環境ではノイズキャンセルを入れて、中低域の明瞭度を上げたほうが気持ちよく聴ける。つまり積極的に使いたくなる程度の性能は得ているということです。
もうひとつ特筆すべき点は、有線接続時とBluetooth接続時の音質にほとんど差がない点です。ノイズキャンセルを切って有線接続にすると、補正が切れて音質がスカスカになってしまう製品が多い中で、ANC7は素のヘッドフォンとしてもいける。これはBluetooth接続時でも劣化が少ないということでもあります。
Bluetooth特有の音声の遅延は、aptXコーデックが使える最新の機種らしく、ほどんど感じられず、動画再生でも不満なく使えます。
手軽に買えるノイキャンの意味
ざっと見てきて、ほとんど欠点らしいものは見られません。むしろ有線とBluetooth、ノイズキャンセルのオンオフで音質の差が少ないという点は、これまで同種のヘッドフォンに感じてきた不満を解消するものです。ボーズやソニーより少し安いところで頑張ってきたメーカーの製品は、この先大変かもしれません。
折しも、クアルコムはBluetoothとアクティブノイズキャンセリング機能を持つSoC「CSR8675」シリーズを2017年のCESで発表しています。こうしたソリューションの存在と、モバイルオーディオのBluetooth化の急速な流れで、ノイズキャンセリングヘッドフォンの低価格化は確実に進むでしょう。
モバイル環境では遮音の確保が必須で、その性能を安価なイヤフォンで得られるカナル型は人気です。しかし、耳に合わず苦手という人も多く、ヘッドフォンの人気も高い。ノイズキャンセルのメリットを広く享受できる、低価格・高性能なヘッドフォンの登場は、音を楽しむシーンを拡大するものとして歓迎したいところです。
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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ