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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第145回

旅行者のSNSアカウントの情報を集め始めたアメリカ

2016年12月28日 10時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII.jp

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日本人を含む、ビザ免除での米国入国者が必要なESTAの申請。そのフォームにSNSアカウントの項目が追加されました。現在はオプション扱いですが、懸念も広がっています

 2016年も最後の記事になりました。今年も本連載をお読みいただきありがとうございました。2017年も引き続き、ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。

 なるべく、その年の最後にはこうしたご挨拶を書くようにしているのですが、実は口語体で書いている毎週の原稿はASCII.jpの本連載しかありません。どうしても、口語体の挨拶と文語体の本文のつなぎ方がうまくいかない、という悩みを抱えて長らく時間がたちます。

 そんな2016年最終週の月曜日の朝に書いているこの原稿に、しばらくのおつきあいをよろしくお願いいたします。

 米カリフォルニア州バークレーで迎えたクリスマスは、今回で5回目になります。バークレーはリベラルな都市として知られており、トランプ氏当選の日は、街中が悲しみに明け暮れ、道行く人同士でハグをしてキズを癒したと聞きます。

 米国のカレンダーにはキリスト教の行事に基づくものが少なくなく、クリスマスも国の祝日の扱いです。しかしバークレーでは、「すべての人がキリスト教徒じゃないから、キリスト生誕を祝うのはおかしい」ということで、この時期の挨拶は「メリークリスマス」ではなく「ハッピーホリデー」の方が使われています。

 クリスマスをイベントとして取り込んでいる日本の文化の受容性も面白いですが、バークレーの律儀な姿勢もまた、面白いものです。

パスポートを持っていない同世代のアメリカ人

 筆者のアパートの隣人には、同い年の夫婦が住んでいます。夕食のときの彼らの最新のトピックは「初めてパスポートを取った!」というものでした。

 筆者は高校生の時に初めてパスポートを取ってすでに2回更新しているのに、同い年で初めてというのは驚きました。つまり、彼らは1度も国外に出たことがなかったのです。まあアメリカといっても広いですし、ハワイも米国ですし。

 ちなみに初の海外旅行の行き先はイギリスだそうです。さらに、トランプ氏が次期大統領に決まってしまったので、デンマークへの移住を計画していました。旦那さんはイタリア系で、親戚が本国にいるのであれば、米国生まれであってもイタリア国民の権利を申請できるそうです。EU加盟国であるイタリア国民になれば、域内での行き来や労働は自由ですので。

 ちなみに、米国でパスポートを申請するには、近くの郵便局へ行きます。写真を持って郵便局へ行き、書類を記入し、申請金額を払えば、自宅にパスポートが届く仕組みです。

 日本では各都道府県の窓口に行く必要があり、郵便局の方が手軽そうに聞こえます。しかし米国の郵便局は、郵便物の受付や切手の販売、不在票が入っていた荷物の受け取り、そしてパスポート申請を窓口1人でこなすため、バークレーの郵便局でも1時間近く待つことが多いのです。

 ちなみに米国の窓口業務でいい思いをしたことはありません。だからオンラインで自分でやった方がよいと考えるようになりますし、AIに仕事が置き換えられるということが実感としてあります。お店で会計なしに商品を持って帰れる無人店舗、Amazon Goへの期待もそうした背景があるのです。

米国へのビザなし渡航で求められるSNSアカウント

 日本を含む37ヵ国のパスポートを持っている人に対して、90日以内のビジネスや観光を目的とした渡航のためのビザを免除するプログラムがあります。

 たとえばお正月休みにちょっとハワイへというときにも、ウェブサイトで手数料14ドルのESTAを申請するだけで良い仕組みです。そして機内では税関書類を書くだけで済みます。

 そのESTA申請のフォームに、ソーシャルメディアを記入する欄が登場したので、米国の政治系ニュース、テクノロジー系ニュースではプライバシーや人権侵害に対する懸念が広がっています。

 現在のところ、ESTA申請におけるSNSアカウントの記入は「オプション」扱いで、必ずしもSNSアカウントを申請する必要はありません。しかし入国に際してSNS情報を紐付けるということは、米国当局が安全保障上の情報として、少なからず関心があり、場合によってはSNSを参照することを意味しています。

SNSが持っている情報は
住居から家族、仕事、人間関係までさまざま

 たとえばFacebookアカウントを記入したとしましょう。そこに含まれている情報は、普段どこに住んでいるか、どんな仕事をしているか、配偶者や家族は誰か、といった情報が手に入ります。

 加えて、普段何をしているか、どんな関心を持っているか、どんな写真やビデオ、あるいはライブ動画を共有しているか、ということもわかります。さらに、どんな人とのつながりがあり、誰と頻繁にコミュニケーションを取っているのかも出てくるでしょう。

 過去の米国での乱射事件やテロ事件の容疑者とソーシャルアカウントとの関係性から考えて、当局が興味を持つとすれば思想が現れるような普段の書き込みや、米国以外の渡航先(特に中東諸国など)やその写真、SNSでつながっている人、その人とつながっている米国内の人の情報になります。

 また、米国に渡航してその人がどこを目指しているのかという情報、位置情報を共有していれば、実際にどこにいるのか、というリアルタイムの情報を手に入れることもできます。

 ここまで書いてきて、読者の皆さんも筆者と同じことを考えるかもしれません。「テロリストは、わざわざSNS情報を共有するわけがないだろう」と。実際にオプション扱いですし。

SNSで情報を提供することで入国しやすくなる!?
でも、それでいいのだろうか

 しかし、こうも考えられます。

 SNSアカウント情報を提供した人は逆にホワイトリストにはいるかもしれないということです。つまり、疑いをかけられて入国手続きなどに時間を取られたくない人は、SNSアカウントを提供したほうが“合理的”と考える人もいるかもしれません。

 しかしそうしたアイディアは、プライバシー情報の提供を間接的に強要していることにもなり、人権上の問題が出てくるのではないかと議論になっています。

 また、提供されたSNSアカウントを人力で確認していくことも、将来的には考えにくいでしょう。機械学習が備わった巡回プログラムが、写真や投稿、人のつながりを自動的にチェックして、気になる情報をマーキングしていくかもしれません。

 自分は問題ないと思ってFacebookアカウントを登録しておいたら、自動プログラムがハロウィンのコスチュームをなんらかの訓練と誤認し、マーキングされることだって考えられるのです。

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