忘れもしない2015年の12月8日、その日に先立ちネット上ではティーザー広告がバンバン流れ、鳴り物入りで、キングジムから「ポータブック」(XMC10)という名前の“Windows 10 Home搭載 モバイルPC”が登場した。
アイデアメモや短い原稿のラフを近所の博物館やホテルのカフェでテキスト入力するためだけに同社の「ポメラDM100」と東芝製Wi-Fi SDカードである「FlashAir」を愛用していた筆者は、期待半分、不安半分で発表商品のスペックと値段を見て愕然とした。
ワンストップで著名なクラウドサービスと連携した、WAN内蔵型のクラウド型ポメラ風の商品を想像して待ち望んでいた筆者は、予想を大きく裏切られた。
長い実績のある、ステーショナリー系の面白い会社が、今さらながらレガシーなパソコン市場に参入しようとしたことに正直驚いてしまった。
発表当時の価格は税込みで約9万円。スペックは、一年後の今さら話題にする内容でもないので、ここでは割愛したい。
市場がどう思ったかは別にして、ポメラユーザーでもあった筆者は、Windows 10 HomeというOS名を聞いた時点で、自分の買いたいモノではないと悟ったが、まさか9万円とは想定外だった。
斬新な“折りたためるキーボード”(スライドアークキーボード)とは言え、20年前の1995年に登場し、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の永久収蔵品となった「ThinkPad 701c」(愛称バタフライ)のトラックライトキーボードとはインパクトが違い過ぎた。
発表当初は、大人の理由か、本当の気持ちなのか、どちらか分からないが、9万円という価格を前提としても、ポータブック賛辞の声もあったが、実際にそれらの評価をされた方々がご自分で買われて今も使われているのかどうかは定かではない。
筆者は出荷がはじまった2015年末頃には、「将来、必ず1万9800円になるから、その時には絶対に買う!」とSNSでコメントして少なからずひんしゅくを買ってしまった。
しかし、その後も価格は一向に下がる気配はなく、少しは業界にいた感覚から、これはきっといずれ大ディスカウント攻勢がはじまるなと予想していた。
そんな矢先、製品発表からきっちり11ヵ月目の11月8日朝、突然、筆者もひいきにしているヨドバシ・ドット・コム上で、税込み2万3540円(10%ポイント付き)で投げ売りがはじまった、という知人がSNS上に書き込んだコメントに自然と目が行ってしまった。
筆者の安直な予想価格の1万9800円にはわずかに届かなかったが、これはきっと早々に売り切れると判断した筆者は、散歩中の上野公園でワンコのリードをベンチの肘掛けにくくり付け、その場でポチった次第だ。しかし、筆者の予想に反して、まだまだあちこちのショップに在庫はありそうだ。
ポータブックとYOGA BOOK、ポメラDM100を比較
翌日に届いたパッケージには、ラッキーなことに発表記念のキッティングモデルにしか入っていないはずの“専用ケース”まで付属していた。
文具メーカーらしい真っ黒なしゃれたパッケージには、ポータブック本体と、ACアダプター、USBケーブル、ユーザーガイド、クイックスタートガイド、Office 365の1年間のライセンス、保証書が入っている。
これは極めてお得な買い物だ。もはやスペックをどうこう言う価格でもないので、今回は、ここ最近入手したレノボの「YOGA BOOK」と、すでに何年か使っているポメラDM100とを少しだけ比較して、激安になったポータブックを眺めてみたい。
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上から見ると最も正方形に近くレガシーイメージの強いポータブック(左)、ポメラDM100(中央)、YOGA BOOK(右)
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薄さ34mmのポータブック(上)と9.6mmのYOGA BOOK(下)。薄いのが正しいわけでもなく、分厚いのが正しいわけでもない。その特徴を何にどう活かすのかが重要だ
いずれもカラーリングは黒に近いオフグレイで地味なイメージの製品だ。分厚く正方形に近いポータブックと、一番ワイドで奥行きがなく、ユニークなデザインのポメラDM100、そして上からではまったくわからないが、9.6mmという激薄のYOGA BOOKは、三者三様で個性がまったく異なるモバイルガジェットだ。
ポメラDM100を除くと、ポータブックとYOGA BOOKはWindows 10搭載パソコンなので、厳密には三者を用途とは関係なく比較してもそれほど意味があるとも思えないが、クラウドコンピューティング時代のテキスト入力機という基本的な機能においてはそれほどおかしなことではないだろう。
バタフライキーボードが世に出た今から20年前には、TFT高輝度の妥当な値段の液晶は最大でも10.4インチサイズしかなかった。
フルキーボードによる自然で快適な入力環境の確保と、イージーな可搬性を前提とした小型で狭額縁の液晶を組み合わせるウルトラCは、折り畳めるバタフライキーボードの登場しかなかった時代だ。
今ではさまざまなサイズの液晶パネルも入手は簡単で、ポータブックが採用した珍しい幅広額縁の8インチ液晶が飛び抜けて入手が容易で安価だったとは考えにくい。
そんな時代になぜあえて折りたためるキーボードを採用したかは不思議だった。また、普通のA4サイズモバイルPCも余裕の新幹線テーブルだが、より小さなA5サイズのこだわりがそれほど重要だったのだろうか?
真実ではないかもしれないが、筆者の稚拙な想像では、最初からスライドアークキーボードが存在したのではと勘ぐってしまう。
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