グーグルは2016年11月5日(米国時間4日)、自然検索においてモバイル版コンテンツを主に使用してランキングを決定するモバイルファーストのインデックスを開始する計画を公式ブログで発表した。先月ラスベガスで開催されたカンファレンス Pubcon のキーノートで同社Gary Illyes氏が言及したモバイルファーストインデックス(Mobile First Indexing, MFI) についてようやく同社公式ブログが詳細に触れた(関連記事:Google、モバイルファーストインデックスを導入、モバイルサイトを基準とした評価へ)。
モバイル時代にあわせてインデックスも「モバイルファースト」へ
2010年代に入りモバイル端末が急速に普及し、すでに日本や米国だけでなく、全世界でモバイル検索数がデスクトップのそれを超えている(Amit Singhal, 2015)。しかし Google のランキングシステムはデスクトップ版コンテンツを軸にクエリやユーザーとの関連性を評価している。多くのユーザーが検索を通じてモバイル版コンテンツに到達しているにもかかわらず、それを評価対象としていないのはユーザーの検索体験を損なう可能性もある。
この問題を解決するために、そしてモバイルが主要なデバイスになった現実にあわせて、Google はモバイルファーストなインデックス、すなわち、モバイル版のコンテンツを評価し、それを軸に自然検索結果を決定したり、スニペットを生成する仕様へと変更することとなった。
小規模なテストを継続的に実施
同社は今回のモバイルファーストなインデックス登録は重要な変更と認識しており、今後数ヶ月にわたり小規模なテストを継続していくという。ユーザーに引き続き優れた検索体験を提供出来るレベルに達すると判断した段階で、広範囲に変更を適用していく計画だ。
モバイルファーストインデックスに向けての注意点・推奨事項
同社公式ブログではん。モバイル優先のインデックス仕様変更に向けて、ウェブマスターが取り組める項目を紹介している。
おことわり:本文中、★マークがついている段落は、私の見解を述べています
レスポンシブウェブデザインや動的配信※には影響なし
デバイスを問わず同一のコンテンツを表示するレスポンシブウェブデザインを採用したサイトや、同一コンテンツを配信する仕様の動的配信サイトにおいては影響がないと明記している。同じコンテンツである以上、どちらのバージョンが優先評価されようとランキング等に影響しないということだ。
If you have a responsive site or a dynamic serving site where the primary content and markup is equivalent across mobile and desktop, you shouldn’t have to change anything. // レスポンシブデザインや動的な配信を行っているサイトで、主要なコンテンツやマークアップがモバイル版とデスクトップ版で同一である場合は、何も変更する必要はありません。(公式ブログより)
★技術的な観点から考えると「レスポンシブデザインにしておけば SEO に"有利"(頭を悩ませる必要がないという意味で)」と捉えることもできる。しかし、SEO は情報を届けるための手段であってそれ自体は目的ではない。現実にはデスクトップユーザーとモバイルユーザーにまったく異なるコンテンツを表示したほうがユーザーの満足度が上がったり成果(売上、登録、資料請求など)が改善されるケースも多々ある。特にトランザクション(購入、予約、申込など)があるサイトにおいては Web解析データなどから、ビジネス的にはどうあるべきかという検討も十分に行わなければならない。また、2012年頃に「Google が RWD を推奨している」との情報が広まったが、(これは SMXのセッションもひどかったのだが)あくまで Google は選択肢の一つとして RWD を挙げているにすぎず、RWD だからSEOに有利になるわけではないので注意してほしい。
モバイル版とデスクトップPC版でコンテンツが異なる場合
Google は「構造化データマークアップ」「robots.txt設定と Googlebot がコンテンツにアクセスできることの確認」「rel=canonical に変更を加える必要は無い」ことを挙げている。
特に Canonical については「変更する必要がない」ということなので、たとえば億を超えるページを有する超大規模サイトが Canonical の見直しをする必要がないわけで、対象サイト担当者の方は安心することだろう。
★ canonical を変更する必要がないことはわかったが、その(Googleがそのように定義する)ロジックはGoogleに確認をしたいところ。2010年前後時点で「世界のウェブの大半は、デスクトップ版サイトがもっとも情報を有しているはず」という認識にもとづいてデスクトップPCに正規化していた経緯がある。モバイル全盛だから、モバイル版コンテンツを正規化しなくていいのか?それとも(Googleの説明に文字通り従うなら)検索元端末にあわせて自動的にどちらをユーザーに提示するか判断するから、正規化するバージョン自体はもはやどうでもいいということか。
デスクトップ/モバイルで別ドメインの場合は Search Console の確認を
If you are a site owner who has only verified their desktop site in Search Console, please add and verify your mobile version. // Search Console でデスクトップ版のサイトしか確認していないサイト所有者は、モバイル版のサイトの追加および確認を行ってください。(公式ブログより)
たとえばデスクトップ版が www.example.com, モバイル版が sp.example.com のような異なるサブドメインを使用している場合、あるいはモバイル版が www.mobileexample.com といった異なるドメインを使用している場合は両者を Google Search Console に登録しなければならない。
Google は異なる(サブ)ドメインのサイトは別のプロパティと判断するためだ。両方のサイトを Search Console に設定していることを確認しよう。
Mobile-first Indexing
http://webmasters.googleblog.com/2016/11/mobile-first-indexing.html
モバイル ファースト インデックスに向けて
https://webmaster-ja.googleblog.com/2016/11/mobile-first-indexing.html
More Details on Google’s Mobile First Indexing Change for Search Results [TheSEMPost]
http://www.thesempost.com/details-googles-mobile-first-indexing-change/
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モバイルファーストインデックス Q and A
以上が Google 公式ブログから発信された情報だ(★部分は私の意見)。以下、本件について気になるポイントや情報をあらためて整理しておきたい。 Google はこうした重要な発表は、公式ブログで発表をした後にカンファレンスなどで言及するようにしていただきたいところ。カンファレンスで先に触れるなら、もう少しまとまった単位の情報を発表しないと、単に業界を混乱させてしまうだけだと思う(ウェブマスターとの交流を積極的に行っている Googleも、そうした事態は望んでいないはずだ)。
以下、私の見解に基づいた解説となります
Q) 結局、モバイル版専用のインデックスが作成されるの?
Google が公式ブログで説明する通り、インデックスは従来通り単一のデータベースとして残る。変更されるのは、モバイルファーストになること、モバイル版コンテンツを評価し、その評価に基づいてランキングを決定するようになるということだ。
「モバイルファーストインデックス」という新しいデータベースが作成されるのではなくて、インデックスの仕組みを「モバイル主体で考える(=モバイルファースト)」ことにする、という意味だ。
Although our search index will continue to be a single index of websites and apps, our algorithms will eventually primarily use the mobile version of a site’s content to rank pages from that site, to understand structured data, and to show snippets from those pages in our results. // Google 検索のインデックスは、サイトやアプリについての単一のインデックスとして存続しますが、将来的に Google のアルゴリズムはモバイル版のコンテンツを主に使用するようになります。
Q) 今後、デスクトップ版サイトはインデックスされなくなるのか?
デスクトップ版も引き続きインデックスされる。ユーザーの検索環境にあわせて、最適なページを表示する。デスクトップユーザーの検索にはデスクトップ版ページを、モバイルユーザーの検索にはモバイル版ページを表示するという検索の基本的な仕組みは引き続き維持されるので、そのためにもデスクトップ版サイトもクロールして登録される。
ちなみに、検索の過半数がモバイルから実行されているといっても、デスクトップの検索市場が大きくシュリンクしているわけではない。モバイル検索の20%が音声検索(Sundar Pichai、2016, GoogleI/O) となるなど、モバイル検索は(従来は検索がなかった)新しい領域で成長している側面もある。だからデスクトップ版検索は引き続き必要とされるし、サイトも必要。
Google が年間に処理する全世界の検索クエリが推定1兆2,000万(2012年時点)、1日あたり約35億クエリなので、たとえ1%の検索数低下でもインパクトはもちろん大きいが、モバイル検索数の増加分がそっくりそのままデスクトップからシフトしているわけではない点は理解しておきたい。
Q) 自然検索順位に大激震が起きるのか?
Googleはウェブマスターに嫌がらせをするために検索システムを変更するわけではなく、あくまで「ユーザーに優れた検索体験を引き続き提供しつづける」ことにある。本変更によってその理念をぶち壊すようなことはあってはならないはずで、その意味で、優れたサイトは引き続き検索上位に表示されるはずである。
Googleもその検索品質を担保するために慎重にテストをしながら進めていく意向を表明しているので、個人的には、全体的に見れば大した影響はないと考えている。それを踏まえて・・・
Of course, while our index will be built from mobile documents, we're going to continue to build a great search experience for all users, whether they come from mobile or desktop devices. // もちろん、Google のインデックスがモバイル版のコンテンツで形成されるようになっても、デスクトップ端末かモバイル端末かに関わらず、すべてのユーザーに素晴らしい検索体験を提供し続ける点は変わりません。
インデックスがモバイル優先になることで影響を受けるのは、次のようなサイトになるだろう。
- とりあえずモバイル対応したという雑なサイト
- デスクトップ版とモバイル版でコンテンツに大きな違いがあること
- デスクトップ版とモバイル版のサイト構成が 1:1になっていない場合
- 一部の超大規模サイト
Googleが2015年4月に導入したモバイルフレンドリーの評価シグナルにあわせて、なんちゃってモバイル版サイトを用意したような、雑なつくりのサイトといえばいいだろうか(身に覚えのある担当者もいるのではないか・・・)。モバイル版への自動変換サービスを利用している場合も、そのサービス仕様によって影響を受ける可能性がありそうだ。
「モバイル版のコンテンツが評価されるようになる」のが肝なので、2番目や3番目にあげたように、掲載するコンテンツが大きく異なる場合、1:1 になっていないサイトはいくらか影響を受けることが予想される。
モバイル版を「単なるデスクトップ版の省略版」と捉えて、単に情報を削除して軽くしただけのモバイル版がその(影響を受ける)典型例となるのではないか。あるコマースサイトは、モバイル版では何故か製品仕様やユーザーレビューがごっそり削られている。コンテンツがないのだから、対応する検索クエリでの流入が大きく落ちることになるだろう。
もっとも Google は(海外のカンファレンスなどで)再三にわたり「重要なコンテンツなら、モバイル版も用意せよ」とウェブマスターに注意喚起をしてきたし、もっともなアドバイスでもある。モバイル対応することが目的化して、ユーザーに必要な情報を届けることを怠った結果ではあるが、幸いまだ時間はあるので、ユーザーを主にして改修を進めていくといいだろう。
一部の超大規模サイトは、何かいろいろと面倒そうではある。しかし、頭を悩ませそうなSEO担当者ですぐに思い浮かんだのが神様とその一味くらいなのでここでは割愛する。
@takahwata わたしが助けていただきたい感じです。。。
— 辻正浩 | Masahiro Tsuji (@tsuj) 2016年11月5日
p(^_^)q
Q) AMP の扱いは?モバイルファーストによる影響は?
AMPの扱いについては The SEM Post が Google から回答を引き出している。
I asked Google about whether these changes would have any impact on mobile pages that also have AMP versions. “Nothing changes with regards to AMP,” Phan confirmed to The SEM Post. [The SEM Post]
AMP は一切影響しない。影響しないということは、たとえばモバイル版コンテンツに欠けているコンテンツを AMP版で補うという方法も仕えないということになる。AMP はあくまでモバイル版の高速版的な位置付けて、検索順位には関係ない。
Q) デスクトップ版しかサイトがありません。検索結果から削除されるの?
モバイル版がないサイトは引き続きデスクトップ版をインデックスしていく以降を表明しているので、心配する必要はない。ただ、モバイルが検索の主要なデバイスにシフトしているので、リニューアルを計画してモバイル版も用意する計画は立てておくことをおすすめする。
Q) ガラケー版サイトはどうするの?
考えるの面倒だからこの際、消しちゃえば?今回は特に言及がないが、特段の影響はないと思われる。同様に、Windows Phone版サイトは canonical で処理すれば良い。
Q) モバイル版サイトでは、一部のコンテンツは標準で非表示にしており「続きを読む」などをタップすると全文が表示される仕様にしている。これは不利になるのか?
ここは SEO担当者の多くがもっとも気になるポイントの1つだと思う。私もとても気になる。モバイル版コンテンツを主に考えるのであればデフォルトで表示されないコンテンツは相対的に評価が変わるはず。しかし現時点で Google から特に説明がないので、ここは不明だ。同社は定期的に Hangoutでウェブマスターと交流しているので、そこで質問して確認するつもりだ。
Q) どうしてGoogle は今まで、モバイル版コンテンツを評価してこなかったの?
Google が創業してから世界最大の検索エンジンに成長するまでの時代は、デスクトップが主要なデバイスだった。世界のウェブの大半もそのデスクトップでの閲覧を前提に作成されてきた。当然ながら、検索アルゴリズムもデスクトップ版を評価するように設計されてきた。
2010年〜2012年、ちょうど Android や iOS搭載端末が普及してきた時に、モバイル版サイトも増えてきた。
とはいえ「デスクトップ版」「モバイル版」というのは、同じコンテンツを特定のユーザーに向けてフォーマットを変更していることが本質なので、検索技術的には両者をあくまで「バージョン違い」として扱った(扱いたかった)。バージョン違いとして、アクセス元にあわせて、PCユーザーならデスクトップ版、iPhone ならモバイル版と検索エンジン側で自動的に処理してあげたほうがいいと考えた。つまり
デスクトップ版 = Primary
モバイル版 = Secondary
として、バージョン違いの場合はデスクトップ版に正規化する、プロパティの評価は統合するということにした。デスクトップ版に正規化するのは、デスクトップが主流だった過去の経緯から「デスクトップ版がもっとも情報が充実しているバージョンのはずだから」という前提に基づいている。
以上の話はあくまで「デスクトップが主流」という時代にあわせてのものだが、いまはモバイルが主流になっている。だから、
モバイル版 =Primary
デスクトップ版 =Secondary
と考えたほうが時代にあっているよね、ということでモバイルファーストなインデックスにシフトしていくという流れ。
上記の経緯を考えたら、個人的には alternate / canonical も正規化する対象もひっくり返して良さそうに思えるが、その仕様変更は影響が大きすぎて不可能か。