さくらのIoT Platformとの連携を発表したディープラーニングベンチャーであるABEJA。前半ではABEJAが描くIoT、ビッグデータ、機械学習が作り出す世界観についてABEJA 代表取締役社長 CEO兼CTOの岡田陽介さんに話を聞いたが、後半ではさくらインターネットのIoT事業推進室 室長の山口亮介さんにも参加してもらい、さくらとABEJAの協業でなにを実現するのか聞いた。(インタビュアー:TECH.ASCII.jp 大谷イビサ 以下、敬称略)
ABEJAがさくらと組むメリットはセキュリティ
大谷:さて、先日ABEJAとさくらのIoT Platformとの連携が発表されました。まずはさくらさんとの関係について教えてください。
ABEJA岡田:さくらインターネットからは、もともと2014年に資本業務提携を締結しており、出資も頂いております。われわれ自身もさくらのクラウドのヘビーユーザーです。
さくら山口:さくらのクラウドもあくまでリソースです。ABEJAさんのようなところに使って、活かしてもらえないと意味がない。そして、そこでの知見がさくらの高火力コンピューティングの取り組みにも活かされていると思います。
大谷:ABEJAとしては、さくらのサービスを使うメリットをどう考えますか?
ABEJA岡田:やはりセキュリティですね。われわれはさまざまな事業者のクラウドをハイブリッド構成で使っているのですが、その中でさくらと組ませてもらう理由は、やはり日本だったら絶対的な安心感があるからです。かつ、クラウドでなく、データセンターにあるので、お客様が心配なのであれば、さくらのデータセンターにシステムを組んでもらって、必要な分だけABEJAを使うということも可能になります。
さくらのIoT Platformを使うことで、閉域網での通信が可能になる。セキュリティが担保されるというところは、われわれにとってもすごくありがたい。今はSIMが挿さるIoTデバイスも増えているので、これであればデバイスからクラウドまで1つのネットワークで使える。セキュアなクラウド環境からIoTデバイスを制御できるので、たとえば見ず知らずの人がいきなりスマートロックを外から開けるようなことも不可能になる。これは大きなメリットですね。
さくら山口:まあ、万が一モノが盗まれても、サービスで止めてしまえばいいんです。そうしたらIoTポットの「IoT」がとれて、ただのポットになります(笑)。
大谷:なるほど。今まではデバイスからデータをアップロードするというのがメインでしたが、今後は双方向でデバイスを制御するのにも使える。一方で、制御する対象がアクチュエーターになると、ユーザーにケガさせたり、下手したら死んでしまうことすらある。だから、セキュリティが重要という話ですね。
さくら山口:さくらのIoT Platformは、クラウドではなく、データセンターにつながるという意味で、「チップ to ネット」みたいな言い方をしています。クラウドというとインターネットから直接接続できるイメージがありますが、データセンターはわれわれしかいないのであくまで閉域です。また、さくらのIoT通信モジュール自体には、Linuxのような高度なOSは載っていないし、集まったデータも「クラウドからアクセスすることもできる」という形でアクセスを制御しています。
今までは「IoTのセキュリティ」という文脈で語られていましたが、実際はWebとモノ、ネットワークのセキュリティにそれぞれ分界する必要がある。物理的盗難などモノに関してはお客様に守ってもらわなければならないのですが、それ以外のセキュリティはさくらのIoT Platformが一気通貫でカバーします。
IoT、ビッグデータ、AIが切り開く次の世界を目指して
大谷:ABEJAとの協業で、さくらが目指すものはどんなイメージでしょうか?
さくら山口:今、私はIoTのキーの部分である「モノゴト」を知っている人たちを探して、うろついている状態。農業分野でPoCをやってみたり、天草Xアスロンのようにスポーツ分野に顔を突っ込んだりしています。こういう人たちは「データからなにかが見える」とは思わず、なにかしたい「モノゴト」を持っているはずなんです。先ほど岡田さんがいろいろ回った結果として、最初はリテールをやるという決断を下したという話がありましたが、IoTだけではなく、IoT、ビッグデータ、AIが切り開く世界観を作るためには、このフェーズがわれわれにも必要なんです。
こういう世界観にABEJAさんのようなプレイヤーは必須です。せっかくさくらのIoT Platformで安価にデータを取得できても、それを解析するプラットフォームをイチから作りますか?という話です。失敗しやすいことは確かに重要ですけど、万が一PoCで成功しても、機械学習の精度を上げるためにエンジニアを育て続けたり、セキュリティを守り続けるのは、大変です。売り上げを上げたいとか、いいものを作りたいというモノゴトとは、本質的に関係ない作業ですよね。本質でないのであれば、さくらにやらせてください。さくらはそこで生きているので、というのがメッセージです。
ABEJA岡田:たとえば、さくらのIoT 通信モジュールをリアル店舗にばらまいていけば、さまざまな課題がどんどん浮かび上がってくるはずです。今までって1つ1つ仮説を立てていたんですけど、第4次産業革命で機械学習を使えば、「こんなにドラスティックに変えるところあったんだ」ということに気づけるんです。もはや効率化というレベルじゃなくて、全部変わったみたいなレベル。そこをどれだけできるかが勝負だと思っています。
さくら山口:先ほど岡田さんが話していた、IoT、ビッグデータ、AIの世界って、すでに始まっている。モノのサービス化で必要なIoTと大量のデータ。ロボットや機械学習も人間の「作業」を減らしてくれます。
大谷:さくらの田中社長も8時間かかっていた仕事を20年で1秒にすると言ってますしね。
さくら山口:今はデータをずっと眺めていて、特異点が見えたら「ここだ!」みたいな作業を人がやっているわけじゃないですか。それが1秒で済む世界がやってくる。ABEJAさんが提供しているプラットフォームって、こういう世界を実現する構成要素の1つなんですよ。だから、私の肩書きはIoT事業推進室 室長なんですが、IoTだけでは話が済まなくなっています。とはいえ、われわれはIoTでデータを取得して、クラウドに載せるところに特化しているし、1社だけでそれをやりきるのも難しい。だから、ABEJAさんとの協業で実現したように、さまざまなサービスとAPIでつながっていく必要があるんです。
(提供:さくらインターネット)
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