ソーシャルネットワーキングサービスのLINEがモバイル事業に参入する。100%子会社の「LINEモバイル」を設立し、NTTドコモの回線を借り受けるMVNOとして9月5日から2万件限定で予約を開始する。
LINEサービスのパケット通信が無料になるなどの“カウントフリー”を特徴として、月額500円(税抜)からのサービスを提供するLINEモバイルの詳細と勝算について、LINEモバイル代表取締役社長の嘉戸彩乃氏に話を伺った。
LINEモバイルの発表会でLINEの取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)である舛田淳氏は、LINEモバイルは2年前から検討していたと話していた。これについて嘉戸氏は、「LINEに対する課題を解決する中で出てきた」と経緯を紹介する。LINEでは、新規事業を生み出す中でこうした課題解決についての方法論を検討していくが、その中の選択肢のひとつとしてMVNO事業があったという。
舛田氏がLINEモバイル発表会で「国内のスマートフォンユーザーは60%を切っている」と語ったとおり、まだまだ諸外国のレベルまで普及していない。LINEはスマートフォンに最適化されたサービスのため、スマートフォンユーザーの普及拡大がサービスの拡大に不可欠だった。そのため、ひとつの解決策として、LINE自身がMVNO事業を行なうことでスマートフォンユーザーを拡大するという議論になったそうだ。
しかし、当時はまだLINEが単独で伸びている時期でもあり、まずは当時のスマートフォンユーザーへの普及を図る段階だった。同時に、国内でMVNOがまだそれほど一般層まで広まっていなかったこともあって、すぐさま実行に移されることはなかった。
その後LINEのユーザーが拡大し「LINE MUSIC」「LINE LIVE」「LINE Pay」などさまざまなサービスも増えてきて、さらなるユーザーの拡大にはスマートフォンユーザーの拡大が必要という判断に至った。そして、MVNOも一定のシェアを獲得し、一般ユーザーへの認知度も広がったことで、LINEとしてMVNO事業を展開する下地が整ったと判断した。
2年前からの課題解決の中では、同時に“カウントフリー”の考え方もあったという。もともとは単独で検討されてきた「LINE拡大のための方策」を、今回のLINEモバイルでまとめて提供する形になったのだという。
LINEモバイルは“カウントフリー”をサービスの最大の特徴としてアピールする。LINEの通話、トークが無料になり、1GBの容量が付属する「LINEフリー」プランが月額500円(税抜)で、これにTwitterとFacebookの主要サービスも無料で利用できる「コミュニケーションフリー」プランも用意される。
舛田氏はLINEモバイル単体で黒字化を目指すとしており、嘉戸氏も黒字化については自信を見せる。「MVNOで大きな費用は回線費用とユーザー獲得費用」と嘉戸氏。特に獲得費用のコストが大きく、これがMVNOの収益に影響を与えると指摘。LINEはすでに高い認知度を誇り「LINEと組みたいというパートナーも多い」ため、獲得費用が抑えられるとみている。回線費用自体は月額500円のユーザーが多くても黒字化できる設計になっているとのことで、ユーザー獲得費用が課題にならなければ黒字化は実現できると見込む。
ただしLINE自体は通信事業者の経験がないため、今回はMVNEとしてNTTコミュニケーションズと組んで、必要な設備などはNTTコミュニケーションズから借り受ける形でサービスを提供する。嘉戸氏は「LINEの利用自体には高速な通信は必要ない」として、いわゆるキャリア(MNO)並みのスペックは求めない考え。もちろん、NTTコミュニケーションズと協力して回線増強などの必要な対策はとるが、「体験としていい回線品質にしていきたい」と語る。
MVNEの選択では、「広くあまねくMVNE事業者に声をかけた」(嘉戸氏)。その結果、必要な技術があり、LINEモバイルの目的を達成できるMVNE事業者としてNTTコミュニケーションズを選択したという。
特にカウントフリーを提供できる技術力が必要だった。カウントフリーでは、LINEやTwitter、Facebookのサービスと密接な連携が必要で、各サービスの詳細な情報を得て、それぞれのデータ通信を無料化するという処理が必要になる。その処理にはIPアドレス、ポート番号、パケット内容のうちのヘッダの一部を使うとされており、「DPI(Deep Packet Inspection)だけでなく複数の技術を組み合わせている」という。
各サービスのトラフィックを厳密に認識し、機械的に自動で処理するためには各サービスとの連携とDPIなど複数の技術を組み合わせる必要があり、それに対応する技術力と運用力のあるMVNEとしてNTTコミュニケーションズを採用したと嘉戸氏は話す。
このカウントフリーの結果、LINEのトーク内で完結するようなデータのやり取りは、月間のデータ容量にかかわらずに自由に送受信できるようになる。LINEではトーク画面でファイル送信が可能なため、ひとりで1ヵ月に「5GB使うような人もいる」と舛田氏。
月間のデータ利用量とは別に、「3日間1GB」といったような制限を設けている事業者もあるが、LINEモバイルでは「制限はあるが、ふつうの使い方をしていれば引っかかることはない」と嘉戸氏は強調する。具体的な容量については非公開だが、現在のユーザーの利用動向では制限にかかるユーザーはほぼいないという。
LINEモバイルは“カウントフリー”を前提としたサービスであり、ユーザーは契約時にカウントフリーに関する個別の同意書への明確な同意が求められる。LINEモバイルではこの部分に関しては気を使ったようで、嘉戸氏は「どのようにカウントフリーを実現するかのやり方をユーザーがわからない状態で同意なしでやってはいけない」と強調する。
LINE本体のサービスに比べ、通信事業者であるLINEモバイルのほうが取得される情報が多いため、LINEモバイルからLINEへの情報連携も行なわない。もともと、別会社としてLINEモバイルを設立したのはそのためで、LINEモバイルの情報はLINEから独立して保持しているという。
通信設備はNTTコミュニケーションズ側にあるため、通信内容自体はLINEモバイル側は把握できないほか、ユーザー情報や契約情報、請求情報のデータベースはそれぞれLINEモバイルの資産として独自に開発し、LINEモバイルとして独立して設置。国内サーバーで情報を扱うという。
LINEモバイルのもうひとつの特徴である「データプレゼント」機能は、LINEユーザーどうしであれば自由にパケット容量を500MB単位でプレゼントできる。気軽に家族間や友人間でやり取りできる反面、特に子どもたちの間でパケット容量を巡って本人の望まないプレゼントが発生する可能性もある。
嘉戸氏は「LINEアプリ内でデータプレゼントの履歴を確認できるため、問題に気づくことができる」としており、保護者が問題のあるやり取りをチェックすることで、子どもたちの状況を把握することで対応できるとの考えだ。
LINEモバイルは、サービス開始当初の「LINEフリー」「コミュニケーションフリー」を「LINEモバイル1.0」として、今後「LINE MUSIC」のパケット料金をフリーにするなど、サービスを拡充した「LINEモバイル2.0」にサービスを拡大する。「LINE MUSIC」以外の動画サービスやゲーム、他社サービスへの無料化の拡大については「結局全部無料になって、それで料金が高いサービスを作るかというと、そういうつもりはない」と嘉戸氏。
嘉戸氏は価格とサービスのバランスを踏まえ、2.0に向けたサービスを拡充していく考え。舛田氏は「LINEからLINEモバイルに対しては、どんどん変化、進化をしていってほしいとお願いした」と話しており、しかも「LINEはウェブサービスの会社なので、変化や改善のスピードはMVNO事業者としても早くありたい。そんなに時間をかけるものではない」とハッパをかけており、LINEモバイルがほかの通信事業者にはないペースでサービスを提供できるか、今後の動向に期待したい。